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一歩横にずれたら、そこが「逃れの道」かも。

あなたがたを襲った試練で、人間として耐えられないようなものはなかったはずです。神は真実な方です。あなたがたを耐えられないような試練に遭わせることはなさらず、試練と共に、それに耐えられるよう、逃れる道をも備えていてくださいます。

新約聖書 コリントの信徒への手紙一10章13節 (新共同訳)

こんにちは、くどちんです。キリスト教学校で聖書科教員をしている、牧師です。

我が子の運動会がありました。長男にとっては小学校最後の運動会になりました。直前まで緊急事態だなんだと言われていた中で、いろいろな工夫をしながら開催してくれた学校の先生方、関係の皆様にただただ感謝です。

6年生のリレーでは、我が子が走るより前から涙が出てきてしまいました。この一年半は参観日なども無くなっていて、周りのお友達の様子を見る機会も激減していたのですが、どの子も本当に立派に成長していて、力いっぱい走る姿に「みんなよくここまで大きくなったね……!」と感動してしまったのでした。

長男は1歳半の時に、唐突に血液の病気だと言われて入院したことがあります。原因も分からず、治療についても「これをすれば良くなる」という確証は無い中で、いろいろなお薬を手探りで試す、あるいは日にち薬で状況が好転することを待つ、というような入院生活でした。ようやく歩けるようになり始めて、動き回るのが楽しくて仕方なかった長男が、転んで頭でも打ったら文字通り命取りだから……とベッドに釘付けになりました。毎日のように採血したり、ほとんどずっと点滴の針を刺しっぱなしだったりで、その痛々しさに胸が潰れる思いでした。採血の結果が出る度に、数値が向上しないことに落胆し、いったいいつまでこの生活が続くのか、希望はあるのか……と泣き叫びたくなる日々でした。

結局は何がどう効いたのかいまひとつ分からないまま、一ヶ月半を超えた辺りでふっと数値が改善し、通院治療に切り替わっていきました。退院して自宅に帰り、家族3人で布団に並んで眠った夜は、「家で一緒に眠れる」ということだけでこんなにも嬉しいものかと、胸いっぱいになったものでした。

「歩くな」と言われた子が、一生懸命走って次の走者にバトンを渡している。「もうそれだけで十分だな」と思える、今与えられている幸せを再確認した瞬間でした。

欲を言えば、例年の6年生がやっていた集団演技なども見てみたかった……という思いはあります。でも、それはどこまでいっても「欲」でしかないな、と思えました。パンデミック下で制限を強いられる状況だったからこそ、またかつての入院期の記憶があるからこそ、「今味わえているものが、自分にとって幸せの核である」と確信できたような気がします。

パンデミックも、我が子の入院も、それが辛い経験であったからこそ、「自分の幸せとは何か」を見詰め直すきっかけになりました。

だからと言って、パンデミックも我が子の入院も、「それを経験できて良かったね」とは微塵も思っていません。無ければ無かった方が良いに決まっています。辛い経験をしている人に、「それも良い経験」などと外野が勝手なことを言うのは、あまりにも暴力的なことだと思います。息子の入院中、「今の苦しみも後から振り返れば大事な糧になるよ」なんて言われていたら、「だったらあなたが代わってくれ!」と怒鳴り散らしたかもしれません。(狭量な人間ですみません……)

負の出来事と思われるものであっても、それに対する「自分自身の捉え方」は、変えられもするし、変わっていきもするのです。それは傍から第三者が口を出せるものではなくて、当事者とそこに寄り添う人が共に必死で向き合っていく中で起こるものであり、神さまとの対話の中で起こる変容なのだと思います。

先日の、BTSメンバーによる国連スピーチで、「ウェルカムジェネレーション」という言葉が語られました。

BTSのメンバーもまた、若いアーティストとして「最も良い時期」を、このパンデミックで奪われた当事者であったたのだな、と思いました。彼らもまたどうしようもなく落胆し、自信を失い、塞ぎ込んでしまったということを、いろいろなインタビューなどで語っています。でも「落胆」の次のステージに向かっていきたいと願う中で、「この苦境を脱するための試行錯誤に対して、ウェルカムと言おう」という心の姿勢を見出していったのでしょう。

冒頭に引用した聖句は、試練について語られたものです。神さまはただ私たちを苦しめられるお方ではない。「逃れる道」をも用意してくださる。

この「逃れる道」というのは、実は苦しみから遠く離れた所では無いのだろうと思います。案外今自分が立っている所の、すぐ横だったりするのです。でも、ちょっと視点がずれるだけで見え方が変わる。さっきまで全く見通せなかった「向こう側」が見えてくる。そういうことってたくさんあるんだろうな、と思います。

約2年のマスク生活でうんざりしているのに、早くも「第6波への備え」なんてことも言われていて、息が詰まるこの頃です。でもこういう世の中を経験したことで、自分が何を求めているのか改めてはっきりしたという部分が、私にはあります。また、良い意味での変化のきっかけもありました。

がくっと膝をついて落ち込んでいるその場所から、ぴょんっと一歩だけ、前だか横だかに移動してみる。「くっそー、こんな世の中に負けねえぞ! 新たなステージに進んでやる! 新たなチャレンジに向かってやる!」と、「ウェルカム」精神で進んで行きたいです。

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