「執事といえばセバスチャン」はいつ成立したのか? 執事ブーム以前のセバスチャン考察

「執事といえばセバスチャン」

執事に関心がある方は、「執事といえばセバスチャン」という通説をご存知かと思います。ググって見れば、その回答を求める方たちの言葉や回答があふれています。その通説は、アニメ『アルプスの少女ハイジ』の男性使用人(実質的に執事)が「セバスチャン」の名称であり、そこに由来して、日本のクリエイターたちが「セバスチャンという名前の執事を描く」現象になったと言われています。

しかし、「誰が、この通説を言い出したのか」の確固とした回答を持つに至っていません。

私、久我真樹は『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』(星海社、2018年。以降『日本の執事イメージ史』。巻頭の試し読みはこちらで)の刊行に際して、この「執事といえばセバスチャン」という通説を紹介しました。


今、日本で最も有名な執事「セバスチャン」は、間違いなく『黒執事』(枢やな、スクウェア・エニックス、2007年。2006年から連載)の「黒執事」セバスチャン・ミカエリスとなるでしょう。『黒執事』は2017年の公開情報として、「全世界で2300万部を超えるベストセラー」(超アニメディア 2017/06/17記事の記載)と言われており、連載が今も続く人気作品で、アニメの地上波放送・映画版、実写映画化、ミュージカル化などの多面的な展開が続いている点で、「常に新しい執事イメージを更新する中心的存在」であり続けています。

2018年8月2日の記事「多すぎ!アニメ・漫画・ゲームのセバスチャンといえば?」では、「セバスチャン」で想起するキャラクターランキングが掲載されており、以下のような結果になっています。

1位 黒執事
2位 アルプスの少女ハイジ
3位 リトル・マーメイド

その『黒執事』の作者・枢やな先生は、以下のように『黒執事』の「セバスチャン」の命名について、語ってくださいました

作品発表時の2006年時点で、「じゃあわかりやすくセバスチャン」として「分かりやすい執事=セバスチャン」と思われる源流を、このコラムで補完していきます。

本当は新書に書きたかったのですが、数百の執事作品を把握しながらも、まだ「私が観測できていないセバスチャンがいるのでは?」「把握しているセバスチャンは正しいのか?」との思いが消えていないので、本では発表しませんでした。

私の執事作品の調査手法は基本的に検索可能な情報から引っ張り、実際にその登場作品を確認し、「執事」として描かれているキャラクターをリスト化するものです。しかし、「執事」が注目を浴びる以前の場合は、「執事」という情報に付加価値がなく、データ化されていない場合があります。

過去の作品全てがテキスト化されない限り、検索での抽出は不可能です。そうした場合に頼りになるのは「人の記憶」です。実際にネット上で教えてもらうものもあり、現物での確認を行うことも珍しくないことです。きっと、まだまだ「知らないセバスチャン」がいるはずです。

作品ジャンル研究では、一つ一つの作品の重要度が高く、それが抜け落ちていることで文脈が変わる場合もあります。そこで私が持っている情報をここで書くことで、「私の知らないセバスチャン」を知っている読者の方に教えて欲しいと思い、より具体的に時期と作品を特定したいと考えています。

また、もしも「セバスチャン」を登場させたクリエイターの方たちがこれを見ていたら、「なぜ、その当時にセバスチャンの名前を選んだのか」を教えていただくことはできますでしょうか? あるいはインタビューなどで回答している可能性もあるので、ご存知の方は、是非、ご教示ください。

・メール spqr_geo@yahoo.co.jp
・Twitter #執事セバスチャンといえば というハッシュタグ
・コメント

以下、私が集めた情報からの「執事といえばセバスチャン」考察です。

執事ブーム以前の「執事セバスチャン」の登場数は?

本コラムでは、「執事といえばセバスチャン」の成立時期を、「執事ブーム」の転換点の2006年より前としました。2006年は、執事喫茶Swallowtailと、外国人執事喫茶BUTLERS CAFEが創業した年であり、また大ベストセラーとなって大きな影響を与える『メイちゃんの執事』(宮城理子、集英社、2006年)、そして『黒執事』が連載を開始した年になるからです。

ここに挙げた2006年の店舗・作品は、旧来的な執事が「老人」「じいや」だったことを脱却し、「青年」となって主役化していく「日本の執事イメージ」を代表する変化を作品上で示しています。

とはいえ、2006年に突然「執事ブーム」が生じたわけではなく、1990年代から2005年には「執事トレンド」と呼ぶべき、執事ブームへ至る「執事の主役化」「低年齢化」が生じていました(詳細は『日本の執事イメージ史』をお読みください)。

前置きが長くなりましたが、では「執事ブーム」の転換点2006年の前年、2005年までの「執事セバスチャン」はどれぐらいいたのでしょうか? 結論から言うと、「執事といえばセバスチャン」の通説がありつつも、調査対象となった執事168名中「セバスチャン」に該当する執事は13名でした(7.7%)。10%を切っているので決して多いとは言えませんが、意外といた、という印象です。

『日本の執事イメージ史』2005年までの主要な執事リスト
01. 1974年『アルプスの少女ハイジ』セバスチャン
02. 1978年『ペリーヌ物語』セバスチャン
03. 1989年『ちびまる子ちゃん』セバスチャン
04. 1990年『星くずパラダイス』セバスチャン
05. 1991年『サディスティック・19』セバスチャン(崇一郎)
06. 1997年『パズルアリーナ闘神伝』セバスチャン
07. 1997年『To Heart』セバスチャン(長瀬)
08. 1998年『プリンセスナイン 如月女子高野球部』セバスチャン
09. 1998年『アキハバラ電脳組』セバスチャン(山田良男)
10. 1999年『戦う!セバスチャン』ロード・セバスチャン ☆青年執事
11. 2002年『幻想水滸伝III』セバスチャン
12. 2003年『TO THE CASTLE』セバスチャン(ラモン・ボンヅゥオ)
13. 2003年『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』セバス
※セバスチャンの後に()がある執事は、()内が本名。

この中で象徴的な作品を、細かく見ていきましょう。

「執事セバスチャン」前夜?

*2018/08/25の公開後に追加した文言です。

このコラム公開後に、以下のご指摘をいただきました。

確認したところ、『ちびまる子ちゃん』4巻(1989年)に、次のような「まる子が言及する」という形で登場していました。

(さくらももこ『ちびまる子ちゃん 4』、集英社、p.107から引用)

この時点では「ホームヘルパー」という表現であり、欄外に「なに者だそれは」とツッコミがあるなど、「執事セバスチャン」とは言えないのですが、家を任せられる存在として表現されている点で、ここに記録します(ご指摘、ありがとうございました!)。

これに続くセバスチャンは、『星くずパラダイス』(克・亜樹、小学館、1989年)に登場します。母を亡くした主人公・ひろしが、実の父である大物芸能人・宝生健に引き取られて、かつ、宝生の再婚相手である女優とその娘のアイドルと同居するところから始まります。

宝生は巨大な屋敷に住んでおり、そこに「執事セバスチャン」がいて、ひろしを「おぼっちゃま」と呼んで、世話をしてくれます。初登場時は非常に小さな描き方であるものの、マッチョで上半身半裸で、時に腕力を行使する「戦う執事」的な存在でもありました。

(『星くずパラダイス 1』p.19から引用)

初登場時は非常に小さな描き方であるものの、マッチョで上半身半裸で、時に腕力を行使する「戦う執事」的な存在でもありました。

「執事セバスチャン」は『サディスティック・19』の影響か?

「通説としての執事といえばセバスチャン」の影響を作品内で最初に示した作品は、1991年『サディスティック・19』の可能性が高くあります。確認範囲では最も古く作品内で「執事といえばセバスチャン」との言及があるからです。

この作品は様々な登場人物から成立する短編集で、そのメインキャラクターのひとりとなるお金持ちのお嬢様・重政桂子(5巻での人気投票1位)の家に、執事セバスチャンがいるのです。このセバスチャン(人気投票9位)は崇一郎という名前で、「セバスチャン…ね」「あなたの名前は今日からセバスチャン!」と改名させられています。

※図版:『サディスティック・19』(立花晶、集英社)1巻p.181から引用

この作品でもうひとつの重要な情報は同じページのコマで、お嬢様が執事に「でなきゃギャリソンてよんじゃうからっ」と言っていることです。「ギャリソン」は、『無敵鋼人ダイターン3』(1978年)の万能執事「ギャリソン時田」を指すでしょう。主人公・破嵐万丈に仕える執事で、その立ち位置は『バットマン』の万能サポート執事アルフレッド・ペニーワースと重なります。

この作品で「執事」に該当する名前の候補は、「セバスチャン」「ギャリソン」しかありませんが、この二つの名前を冠するアニメのキャラクターがそれぞれいることから、どちらも「セバスチャン」(『アルプスの少女ハイジ』または『ペリーヌ物語』)と「ギャリソン時田」(『無敵鋼人ダイターン3』)の可能性が極めて高いです。

そして、今の私の調査範囲では、1970年代の『アルプスの少女ハイジ』と『ペリーヌ物語』以降、1991年の『サディスティック・19』まで「セバスチャン」がいないことと、「執事を見てセバスチャンと改名させた」ことを考えると、『サディスティック・19』が「執事といえばセバスチャン」のルーツのひとつと推測できます(他に有力な根拠が出ない限り)。

執事ブームの転換点2006年に、『サディスティック・19』は白泉社文庫から1冊にまとまった文庫版が出ています。残念なことに、ここでも「セバスチャンのルーツ」は記載されていません。「原作」では「執事といえばセバスチャン」=『アルプスの少女ハイジ』と明示していないのです。

なぜ『サディスティック・19』著者の立花晶氏が「執事をセバスチャン」と改名させ、かつそれがその後に通説として成立していくのかは、今回の調査ではわかっていません。作者の立花氏が「執事といえばセバスチャン」と認識する「別の作品・前提情報」があったのでしょうか?

ここがクリアではなかったために、『日本の執事イメージ史』という出版の形で本コラムの考察を記載していません。

余談ですが『サディスティック・19』のセバスチャン設定は非常に複雑で、お嬢様から被害を受ける立場からお嬢様の友人・太田由香と愛が芽生えて同居したり(執事の恋愛)、サイボーグの「セバス28号」との設定が明らかになったり(2巻。ロボット執事)、さらには黒化してお嬢様に牙をむく「ブラックセバス」(3巻。主従逆転)、バニーガールの衣装を着せられたり(5巻)、辞めようとして爆破されたり(6巻)、埋められたり(7巻)と、大変な目にあっています。

2種類の「執事セバスチャン」表現

「執事といえばセバスチャン」という通説の作品での表現のされ方は、厳密に言うと、2種類あります。

1つ目が作品に登場する執事が、作中の主人によって「執事といえばセバスチャン」という認識で本名を変更させられる(または愛称をつけられる)状況を指します。これは、『サディスティック・19』で見られた現象です。

2つ目が作者が、「執事といえばセバスチャン」と思い、作中の執事キャラクターの名称を「セバスチャン」と設定する場合です。これは、読者との間に「執事といえばセバスチャン」の共通認識が成立している前提となっているでしょう。

■1. 「本名をセバスチャンに変更させられる」執事

「本名があっても、セバスチャンと呼ばれる」という構図は、『サディスティック・19』に続く作品では1997年の『ToHeart』(Leaf)があります。

この作品のヒロインの一人、大財閥の来栖川グループ会長の孫娘・来栖川芹香には執事「セバスチャン」がいます。このため、1997年時点で「執事といえばセバスチャン」の認識があったと考えられます。「セバスチャン」は来栖川家に50年仕える執事で、「運転手」の役目を担い、学校生活における「お金持ち描写」として不可欠である、「送り迎え付きの登下校」という描写や、「主人公とお嬢様を隔てる」門番にもなりました。

(『To Heart恋の手ほどきマニュアル』、ソフトバンククリエイティブ、1999年)から引用

この「セバスチャン」の描写を確認するためにPSP版のゲームで確認したところ、「セバスチャン」との名前が判明するまでにかなりシナリオを進めて、この執事から信頼されなければなりませんでした。

この執事の本名は「長瀬」で、「セバスチャン」とお嬢様に名前を変えられています。しかし、作中での改名理由は「執事といえばセバスチャン」という理由になっていません。そのやりとりを、引用します。

「わたくしめの名は『セバスチャン』でございます」
「セ、セバスチャァ〜ン? うそつけ、どう見たって日本人じゃねーか!」
「これはお嬢様に占っていただいた『愛のニックネーム』でございますから」
(中略)
「ああっ! 大旦那様、お許しを〜〜〜〜〜ッ!戦後焼け野原をさまよいながら、荒くれ者たちとストリートファイトに明け暮れていた私めを拾っていただきました御恩、この長瀬、決して忘れたわけではございませんぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜ッ!」
『ToHeart PORTABLE AQUAPRICE2800』(株)アクアプラス テキストから引用

先にセバスチャンと名乗り、その後、「長瀬」と本名を明かしたこの老執事は、文中にあるように「戦う執事」でもありました。

しかし、ここでもクリエイターの方たちが、なぜセバスチャンとしたのかは確認できていません(複数の攻略本・ガイドブックを読みましたが、脇役なので言及なし)。攻略本のキャラクター紹介では「長瀬」ではなく、「セバスチャン」表記になっています。

この時期、少しずつ「セバスチャン」の盛り上がりがあったように、続く1998年のアニメ『アキハバラ電脳組』にも執事セバスチャンが登場します。変身少女作品のメインキャラクターのひとりでお嬢様の桜上水すずめの家に仕えています。しかも、本名は「山田良男」となっています。

(『アキハバラ電脳組TV/movie official mook』p.96、1999年から引用)

※アニメ作品は映像を見ないとどういう文脈でこの名前になったのか確認できません。後日、確認予定です。

同様に、1998年のアニメ『プリンセスナイン 如月女子高野球部』ではマネージャーの毛利寧々が「セバスチャン」を伴いました。主人公の早川涼が普段の居住地から遠い場所の病院へ運び込まれた際に、チームメイトを運ぶために毛利寧々は父から豪華なキャンピングカーを借り、それをセバスチャンが運転する、という登場の仕方でした。

アニメ全部を視聴するのが困難なため、エンディングのキャスト表示のみでの確認でしたが、このセバスチャンは17話のみの出現でした。外見は人の良さそうなおじさんであり、改名させられている可能性が高いです。

(『プリンセスナイン 如月女子高野球部』第17話「夢…」から引用)

なお、このセバスチャンを演じた麻生智久氏は、同作品の他の話で登場する年齢が高い脇役男性を数多く兼務しており(かつてのサンライズ作品のように)、セバスチャンとしての起用もその延長のようです。同作品のファンサイト?と思えるところでは、次のように書かれています。

セバスチャン SEBASTIAN(声:麻生智久)
寧々チェックですぅ セバスチャンは、寧々のお家の執事さんなんですぅ~。めぇめぇ。本当はセバスチャンは日本人なんですけどぉ、どの漫画見ても執事はたいてい“セバスチャン”て名前だから、寧々もそう呼ぶことにしたんですぅ。芸名みたいでかっこよいですよねぇ~。
http://www.nifty.com/animefan/fanclb/pri9/chara/etc-otoko.htm#SEBASU

ページ更新日が2001年となっており、このページを制作された方にとっての認識としても「どの漫画見ても執事はたいていセバスチャン」との認識が示されていることは、執事認識の上で重要です。

このような「セバスチャンの一時的登場」は、『Paradise Kiss』(矢沢あい、祥伝社、2000年)にも言えます。4巻(2002年)になって、執事セバスチャンが登場します。元々、同作品はメインキャラクターが別名で呼ばれる設定で、たとえば小泉譲二はジョージ、そして山本大助はイザベラとの名称を持ちました。

このイザベラの家に、執事セバスチャンがいました。

(『Paradise Kiss 4』から引用)

イザベラは執事の上田のことをセバスチャンと呼び、その理由を「でもあたしにとってあなたはやっぱりセバスチャンだもの」を説明します。これはイザベラが考える「セバスチャン」の意味によって変わってきますが、この執事との設定や距離感としては、保護者となってくれる存在であり、理解者であり、また教育係との言葉もある通りの完璧な「じいや」ポジションとなっています。

「執事といえばセバスチャン」という理由で、主人から名称を変えられてしまう執事が登場する作品が出ます。2003年『TO THE CASTLE』(桑島由一、集英社スーパーダッシュ文庫)の執事ラモン・ボンヅゥオです。彼は主人公マユリ姫に仕える執事で、作中で「セバスチャン」と呼ばれています。巻頭のキャラクター紹介では、以下のように書かれています。図版も引用します。

国王の執事。と言いつつ実際はマユリのお守り役。本名があるものの、マユリの「執事って言ったらセバスチャンじゃない?」という一言によりセバスチャンと名乗ることに。

※『TO THE CASTLE』、p.9から引用。スク水を手に。制服趣味あり。

これは、作中のキャラクターが「執事といえばセバスチャン」と認識しており、(一部かもしれない)読者との間にも共通認識が成立していたことを示しています。この点から遅くとも『TO THE CASTLE』刊行の2003年には、「執事といえばセバスチャン」が成立していたと考えることができます。

■2. 「セバスチャン」が本名の執事

もう一つの「執事といえばセバスチャン」の系譜は、「セバスチャン」という名の執事の登場です。こちらは、「なぜセバスチャンという執事の名前にしたのか」が作品内でクリアになっていません。

時期で言えば『ToHeart』と同じ1997年の『パズルアリーナ闘神伝』(タカラ)という格闘ゲーム『闘神伝』から派生したパズル作品に「執事セバスチャン」が登場することが確認できています。

ゲームの場合、プレイしての確認が難しいため攻略本を買って確認を行うことが多いのですが、攻略本も出ていない作品なので実際のゲームを買い、マニュアルを見ました。が、記載がありません。

この執事セバスチャンは隠れキャラクターで、かろうじて、パッケージの上の方に黒塗りで、白い眉毛・蝶ネクタイ・ティーカップとトレイを手にした執事らしきイメージとして確認できるにとどまります。

執事としての設定・傾向を知る「台詞集」は、ネットで「パズルアリーナ闘神伝 ボイス一覧」として編集している方がいましたので、この当時の執事を知る意味でご参考に。

主人公となった青年執事「セバスチャン」

1999年に転機が訪れます。「戦う執事」「青年執事」で、かつ「主人公の執事」でさらに「執事セバスチャン」という最初の作品『戦う!セバスチャン』(池田乾、新書館、1999年。2002年1巻刊行)の発表です。

この作品は明確に『アルプスの少女ハイジ』をモチーフとしており、『アルプスの少女ハイジ』でセバスチャンが勤めた「ゼーゼマン家」ならぬ「デーデマン家」を舞台としており、ハイジに出ていたキャラクター名をモチーフにした登場人物たちもいます。

この作品では「執事セバスチャンといえば」と、『アルプスの少女ハイジ』がクリアに結びつきます。

その後も、2006年に発表される『黒執事』セバスチャンへの道筋としてて、複数のセバスチャンが確認できます。

2002年にはゲーム『幻想水滸伝III』(コナミ)に、執事セバスチャンが登場します。『水滸伝』にならった108星のキャラクターの中に、「ビュッデヒュッケ城の執事兼経理係」として紹介されているのです。

※図版『幻想水滸伝3 ザ・コンプリートガイド』(コナミ株式会社、メディアワークス、p.263から)

続く2003年の『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』(雨木シュウスケ、富士見ファンタジア文庫、2003年)には、執事長セバスがいます。

そもそもこの『マテリアルナイト』シリーズは、主人公のお嬢様レアナ・バーミリオンと、お嬢様を守る存在・パートナーが、青年執事イェン・シェンカーという「お嬢様と青年執事(しかも戦う執事)」作品として重要な位置付けです(『日本の執事イメージ史』では言及漏れです)。

※図版『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』巻頭より引用

そのお嬢様レアナは、物語の冒頭から、「執事作品」と物語るように、レアナの祖父の執事である「セバス」が登場します。

 祖父に付き従うセバスが羨ましかった。
「わたしの執事になって」
 だからこう言った。
 彼はそれに承諾し、わたしに"約束の徴"をくれた。

『マテリアルナイト 少女は巨人と踊る』より引用

 開始1行目で「セバス」、2行目で「わたしの執事になって」です。
 ありがとうございます。
 ありがとうございます。

愛称「セバス」を作った『サディスティック・19』

『マテリアルナイト』シリーズの執事長セバスは、「セバスチャン」ではなく、「セバス」として書かれています。この「セバスチャン」を「セバス」と省略する呼称は、2018年現在でアニメ化第3期が放送中の人気作品『オーバーロード』(丸山くがね、KADOKAWA、2012年)でも確認でき、「セバス・チャン」という執事が「セバス」と呼ばれています。

今の調査範囲の限りでは、「セバスチャン」を「セバス」と略す始まりは、またしても『サディスティック・19』です。下記図版では、バニー姿になってというお嬢様の要求を拒絶したセバスチャンは、"かわいく「ちゃん付け」で呼んであげない! 「セバス」よ「セバス」!"と言われ、かつ執事見習いに降格されます。

※図版『サディスティック・19』2巻、p.66から引用

「セバスチャン」の源流は?

私がここまで書いたことを『日本のイメージ史』に書いていない理由は『サディスティック・19』の「セバスチャン」(セバスちゃん)が、「セバスチャンの特異点」と判明していても、その後の作品にどのように影響を与えているのかわからないためです。

たとえば、少女漫画やBLの他作品の脇役でセバスチャンが大量発生したとか、同人界隈で「執事セバスチャン」が広まったのか、雑誌で特集が組まれたのか、海外映画にセバスチャンがいたのか、ネットで通説が広まったのか、『戦う!セバスチャン』で強化されたのか、分かっていません。

この作品の後、「執事セバスチャン」を描いた人たちは、皆、この作品の影響下にあったのでしょうか? それとも、『アルプスの少女ハイジ』が原風景で共通していたのでしょうか?

作った方たちにうかがうしかありません。

私が可視化できていない何かしらの情報の広がり・影響を示す経路があるかもしれず、それを知りたくて今回、ここまでの情報を開示しています。

もしも作者の方たちが読まれていたら、是非、教えてください。あるいはその情報が掲載されている雑誌や本をご存知でしたら、ご教示ください。

「執事セバスチャン」の通説を示す時系列の記録

ここまで「執事といえばセバスチャン」説の系譜を見てきました。続けて、2006年の執事ブーム以前に「執事といえばセバスチャン」の認識が確立していたことを示す幾つかの事例を挙げていきます。

以下、『日本の執事イメージ史』本文にも記載していることです。

■1. 2004年『銃姫』の執事喫茶待望論

商業媒体で私が見つけた最も古い「執事喫茶」への言及は、高殿円氏が自身の作品『銃姫 3』(メディアファクトリー、2004年12月)で語った言葉です。

最近、秋葉原に「メイド喫茶」なるものがたくさんできたと聞き及んでおります。そこではかわいらしいメイドさんたちがエプロンを付けて
「いらっしゃいませ、ご主人様♥」とやってくださるとか。
そこで疑問なのですが。
執事カフェはないもんですか?
出てくる給仕さんたちはみんなテールコートの執事姿。
名札は全員「セバスチャン」。
執事による執事好きのためだけのカフェ。
その名も「セバスカフェ」。
…あ、いりませんか。そうですか……。
(『銃姫 3』、カバー袖より引用)

著者の高殿円氏はこの『銃姫 3』で執事チャーリー・ケチャップを登場させます。「この時間はお茶をお入れするきまりでして」と、あっというまにお茶の準備をする執事です。その後、高殿氏は幾つかの執事特集に寄稿し、時に「執事布教委員会会長」を名乗り、執事の魅力を熱く語りました。

■2. 2005年『腐女子彼女。』の「執事といえばセバスチャン」

その約1年後、人気ブログから出版された『腐女子彼女。』(ぺんたぶ、エンターブレイン、2005年)でも、「腐女子彼女。」である「Y子」さんが熱く執事喫茶を語る際に、「執事といえばセバスチャン」の認識を語りました。

執事喫茶 2005/11/29 02:31
 さて、今や大ブームになっている『メイド喫茶』。
 ニュースやらバラエティーやらに取り上げられ、
 なんだか世間にも受け入れられて来た様な気もします。
 さてさて、そんなメイド喫茶ですが、
 彼女はどうも不満があるようです。(中略)
Y子 「だからー、メイド喫茶って男しか楽しめないじゃん?」(中略)
Y子 「――で。男にはメイド喫茶で萌え狂ってもらうとして、よ?」
 僕 「狂うんですか」
Y子 「狂うんです。
    で、女の子向けに執事喫茶なんてどうよ」
   ……いや、
   どうよとか言われましても。
Y子 「そう!!
    執事喫茶!!
    店は古風に上品にッ!!(中略)
    扉を開けばそこにはズラリと立ち並ぶ執事達ッ!!(中略)
    まずは一糸乱れず『お帰りなさいませ、お嬢様』ッ!!(中略)
    取り揃えるのはショタからセバスチャンまでよりどりみどりッ!!(中略)
 僕 「ちょっと待ってセバスチャンって何ッ!?」
Y子 「執事といえばセバスチャンでしょ!!」
 僕 「うわ何となく分かっちゃう自分が何かいやだ!!」
Y子 「そしてセバスチャンは攻めッ!!」
 僕 「――それこそ知らねぇよッ!!︎」
Y子 「? 何? あんたはセバスが受けが良いって?
    だめだよーあはは。
    セバスは攻めってのが古からの取り決めだからね、残念でした!!」
 僕 「知りませんよッ!! 古からの取り決めって何ッ!!
    ていうかこれっぽっちも残念じゃないですよッ!!
    それと『セバス』って親しげに略してんじゃねーよォォォォォッ!!」
『腐女子彼女。』、pp.53-56から引用

この2005年の『腐女子彼女。』の認識を見る限りでは、「執事といえばセバスチャン」、「セバス」と略すこと、そして「セバスチャンは攻め」となっています。ただ、残念なことに、私が調査した2005年までの執事BLで「セバスチャン」は出てきていません。雑誌の特集と本のあらすじから調べた結果であるため、漫画や脇役、或いは同人、ネットなどで「セバスチャンは攻め」という情報が流通していたのかもしれません。

ご存知の方、情報をお待ちしております。

この「セバス」ネタはその後も言及があり、「彼氏」である「僕」は「そもそもセバスを名乗るからにはちゃんと紅茶淹れてよー」と言われたり(p.134)、彼女の腐女子の友人たちからも「受けっぽい」「セバスなのに」「受けセバス」と呼ばれたりするに至ります(pp.144-145)。

■3. 2006年「執事喫茶」への「セバスチャン」の影響

2006年の執事ブームの転換点に創業する執事喫茶の世界も、「執事といえばセバスチャン」の影響を受けています。

執事喫茶Swallowtailは、ネット上で執事喫茶創業の企画が公開され、双方向の形で様々な意見や情報の募集が行われていました。そのプロセスは「執事カフェ経営戦略部」というブログで逐一公開されており、私もリアルタイムで観ていました。その2006年1月の創業に向かう記事の一つに、店名の公募があり、当初、投票では、「セバスチャン」が1位になっていたのです。そこには、「執事といえばセバスチャン」との言葉が見えています。

セバスチャンの問題点は、セバスチャンが個人名であること。
執事といえば「セバスチャン」っていうイメージだが、逆にオタク臭さが出てしまうのでは?ということ。
電話を取る時、個人名があるにもかかわらず、執事が「はい、セバスチャン(店名)です」と言うのはなんか違う気がするということ。
お嬢様がおうちに帰るという設定なのに、「セバスチャンに行こう」というのはちょっとおかしいのではないか・・・などなどが理由にあげられます。http://blog.livedoor.jp/ks2153/archives/50397245.html

この判断は、結果として正しかったと思います。

余談ですが、実際に2006年の執事喫茶誕生の際には、「セバスチャン」の名を冠する執事店舗として「執事サロン セバスチャン」(六本木)と、「執事Cafe & Bar sebasutiane(セバスチャン)」(大阪)の2店が、雑誌記事の取材を受けており、存在を確認できています。

『アルプスの少女ハイジ』のイメージは1990年代にも強かったのか?

最後に、もうひとつの仮説を提示します。それは、『アルプスの少女ハイジ』が「執事といえばセバスチャン」すべての源流なのか、という点です。

『アルプスの少女ハイジ』は1974年の放送で、その後、私の確認範囲でセバスチャンが登場する『サディスティック・19』まで間が空いています。また『サディスティック・19』の後に「執事セバスチャン」を書いたクリエイターが『サディスティック・19』の直接的影響を受けていたのか、それともかなり昔としても『アルプスの少女ハイジ』の影響を受けていたのかわかりません(そもそも、アニメ版で「セバスチャン」は男性使用人であり、「ロッテンマイヤー」が執事とされています)。

1974年放送のアニメから、1990年代まで20年以上は間が空きすぎています。そこで一つ思い当たったのが、『アルプスの少女ハイジ』再放送・ビデオの影響です。今時点では1990年代に『アルプスの少女ハイジ』の再放送があったかを確認できていません(後日確認予定。ご記憶の方がいたら、ご教示ください)。

そこで周辺から埋めていくと、『アルプスの少女ハイジ』でAmazonで検索をしてみるとアニメVHSでの発売が1989年、1993年、1995〜1997年に確認ができます。1999年にはDVDも出ています(劇場版を含む)。また、駿河屋でLDで『アルプスの少女ハイジ』を検索すると、1986〜88年、1993〜1994年など、やはり1990年代にLD化がされていることが確認できます。

実は、メイドブームでも類似したことがありました。1980年代に出た屋敷とメイドの作品『黒猫館』は、1993年に続編小説やVHSからのLD化など、記録媒体の変化による再発売で、作品が蘇っているのです。メイドブームではこの1993年にメイドのヒロイン化が進む作品群が広がり始めていくことが観測できています。

書籍ジャンルでも、『アルプスの少女ハイジ』に動きがあります。アマゾンで検索をしてみると、1996年に『アルプスの少女ハイジ 』(アニメージュコミックススペシャル―フィルム・コミック)や、『アルプスの少女ハイジ (徳間アニメ絵本)』が登場し、1998年にはいがらしゆみこ氏のイラストの単行本もでています。私は『アルプスの少女ハイジ』の専門家ではないので、『アルプスの少女ハイジ』の資料に当たっている訳ではないのですが、出版でも一定の動きが確認できる年代でした。

まだ未確認の領域が多いですが、『アルプスの少女ハイジ』(あるいは『ペリーヌ物語』でも)などのイメージが「1990年代」に広がりを見せているならば、その影響は「1974年放送作品」という時間の経過を、ある程度、無視できるかもしれないのです。

また、先述したように、把握している執事リストでは、セバスチャンの登場が極めて稀であり、先行作品をイメージの源泉とするならば『アルプスの少女ハイジ』(または『ペリーヌ物語』)のセバスチャンである可能性が高いと言えます。

まとめ

2006年の「執事といえばセバスチャン」を代表する存在は、冒頭で取り上げた『黒執事』のセバスチャンであり、同じ2006年には『鉄拳 DARKRESURRECTION』(バンダイナムコゲームス)の石油王の娘リリのエンディングに、彼女の執事セバスチャンが姿を見せています。2011年にはプレイ可能なキャラクターになりました。

2006年以降の執事作品のリスト化は進めている最中なので、別の機会に更新します。

さて、これまでの流れを見ていくと、次のように言えます。

1. 決して「執事といえばセバスチャン」の作品は多くはなかった。

2. 明確に「執事といえばセバスチャン」を反映したのは『サディスティック・19』

3. 執事ブーム以前の少なくとも2003年には「執事といえばセバスチャン」は確立

あとの課題は以下です。

1. 『サディスティック・19』に前後した作品で「執事といえばセバスチャン」の言及がなかったか? 脇役でも、同人でも、ネットでも。

2. 1990年代から執事セバスチャンを登場させたクリエイターが何をもって「執事セバスチャン」を登場させたか? 『サディスティック・19』の影響か、『アルプスの少女ハイジ』か?

3. 2000年代前半に「執事といえばセバスチャン」と語った人たちが、同じく「なぜ、『執事といえばセバスチャン』と思ったか」の根拠の確認

4. 『腐女子彼女。』に示されている「セバスチャンは攻め」認識はどこから来ているか?

5. 『アルプスの少女ハイジ』は1990年代の作品に影響を与えるレベルで放送・認知されていたか?

このコラムを見た方たちが、ここで言及されていない2005年以前の「執事セバスチャン」を思い起こしたり、「執事といえばセバスチャン」を確立した情報を語っていただくことを願っています。

明確な答えが出ていないので、一緒に、答えを探していくプロセスにお付き合いいただければ幸いです。私の方でも、見つけた情報はここに記載していきます。

ご精読、ありがとうございました。

『日本の執事イメージ史 物語の主役になった執事と執事喫茶』(著者による解説)はこちらにて。

久我真樹

公開後追記(漏れている可能性のあるセバスチャン)

確認後、本文を修正します。

1991年『リトル・マーメイド』セバスチャン(日本公開年、要確認)
1998年『アキハバラ電脳組』セバスチャン(山田良男)






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久我真樹

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コメント6件

私も小説『爆炎の魔法使い』で何も考えずに魔導士の家来をセバスチャンにしてしまいました!魔導士の名前よりもセバスチャンの方が正直、先に浮かんだのは事実です!https://note.mu/michizane/n/n30681f57008a
任天堂64のゲーム「マリオストーリー」内でセバスチャンという執事が出てきます。
特徴としてはわがままなお嬢様に振り回される老執事のような感じです。
2000年発売なので制作陣はちょうどハイジを見て育った世代かもしれません
>ニローロさん ご指摘ありがとうございます! ネットで存在を確認しつつ、入手した攻略本で確認できなかったので対象外としていました。探し方を変えてみます(本ベースで著作権的に問題ない方法での裏付けをベースとしており)。ゲームは裏付け取れていないもので一定数いて、私の弱いエリアです。
執事と言う依り著名な従者と言えばドン・キ・ホーテーのサンチョ・パンサを浮かぶが
作者は「セルバンテス」と日本人がセバスチャンと発音的に似ている粗忽な日本のお馬鹿が勘違いした可能性も有るのではと思う事は如何に?!?
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