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平成の終わりに振り返る「私のメイド・執事研究とネットと同人誌」 その3 資料収集と資料の方向性(中編)

平成を自分が行ってきたメイド・執事研究の観点で振り返る本テキスト、中編になります。今回は「現地へ行く」(旅行レベル)です。

後編で書く予定が長くなって終わらず、中編になります。明確な設計図を作らずに、思いつくままに書いているので、長くなる傾向になりました。

今回は主に現地での話です。

第4期:現地へ行く(旅行レベル)

英国のカントリーハウスは、まだ数多く残っています。運営の形態は様々ですが、英国王室の宮殿(バッキンガム宮殿やウィンザー宮殿、ケンジントン宮殿など)から、世界遺産となったブレナム宮殿(マールバラ公爵家)、そして貴族や地主の屋敷まで。

特に、映像作品の撮影地に選ばれることも多く、『日の名残り』や『高慢と偏見』、『いつか晴れた日に』などの映画を通じて、いわゆる「聖地探訪」をする人も後を絶ちません。

【手段】現地へ行く・その変遷

私が初めて英国旅行をしたのは2004年で、続く2005年に一人旅をしたものの、そのあとに行けたのは2015年と2017年で、4回行ったに留まります。

その旅行のきっかけを作ってくれたのは、田中亮三先生の本でした。田中先生の著作の巻末には、本で紹介した屋敷の所在地など「訪問する場所」としての屋敷の情報が記載されており、「屋敷は訪問できる場所である」という認識を与えてくれました。

●1. 屋敷訪問は一人で行く

初めての英国旅行は友人と行き、基本的にはロンドンと世界遺産のバースを行ったに留まりました。そこですぐ翌年に一人旅にして、ロンドンとその近郊の屋敷を訪問することにしました。屋敷は本当に数多く存在し、普通の刊行ガイドにはメジャーなところしか出ていません。そこで田中亮三先生の本に出ている屋敷を調べたり、一部の屋敷を管理・運営する英国ナショナルトラストの会員になったりして、情報を集めました。

一人旅の理由は、観光を目的とした友人とは時間の過ごし方が異なるためです。屋敷の滞在時間も、本腰を入れると半日以上を費やすことになります。また移動が多いため、人を付き合わせることに抵抗がありました。

以下が訪問した場所です。「メイド研究・執事研究」の立場では、「家事使用人の職場」が公開されていることが必須条件でした。この中で言えば、バースの街中のテラスハウス「No.1 Royal Crescent」と、「Osterely Park」のみがキッチンや使用人部屋などの仕事場を公開していたに留まります。あと、田中亮三先生の本で取り上げられていた建築家ロバート・アダムのインテリアに惚れ込んでしまったため、出来るだけ彼の屋敷を見ることが主題になりました。

・2004年
Buchkingham Palace
Somerset House
No.1 Royal Crescent

・2005年
Spencer House
Kenwood House
Apsley House
Kensington Palace
Buckingham Palace
Osterely Park

この時は、Google Mapを使っていましたが、モバイルでのネット環境がない時代でしたので、Google Mapを印刷したものを持ち歩いた記憶があります。あと、カメラもデジカメでした。

当時の旅行記は以下です。

●2. カントリーハウス巡りで遠出する

カントリーハウスは、基本的に主要な公共交通機関である鉄道駅から外れた場所にあります。他の屋敷との距離が開いていることもあり、先述したように本腰を入れると半日以上潰れます。出来るだけ、「キッチンや家事使用人の職場がある屋敷を訪問すること」が条件でもありました。

本来的にはレンタカーで巡るのが最適解であるものの、ペーパードライバーであるために、公共交通機関を使える範囲で臨むことになりました。それでも、多くの場合は解消できました。

・2016年
Shugborough
Harewood House
Chatsworth
Windsor Castle
Buckingham Palace
Heartford House

以下、旅行記です。


・2018
Blenheim Palace
Lancaster House
Admirality house
Carlton House Terrace(Royal Society, British Academy)
42 Portland Place
Embassy of the Republic of Poland in London
Home House
Saltram
Mount Edgcumbe Country Park
Greenway
Dyrham Park
No.1 Royal Crescent
Osterely Park

Syon House

2016年は田中亮三先生が最も素晴らしい屋敷としてあげていたデヴォンシャー公爵家の屋敷や、私のメイド研究を深める資料となった『THE COUNTRY HOUSE SERVANT』の著者パメラ・サンブルック氏がキュレーターをしていた屋敷Shugboroughなどを訪問しました。

訪問地があちこちにあるために、毎日鉄道に乗り、ホテルも変え、1日1箇所行ければ良い方でした。2018年は長い休暇が取れたので、もう少し巡ることができました。また、Open Houseという普段公開していない建物が2日間だけ公開されるイベントもあり、念願の屋敷を訪問することも目的でした(本当は2017年に行く予定でしたが、出版で多忙すぎて断念)。

行動範囲が広がったのは、ネットのサービスの影響も大きいと思います。(A)予約の便利さ、(B)モバイルでのネット環境とアプリについて書きます。

(A)予約の便利さ

航空機やホテル、鉄道チケットの手配などの予約は全て自分で行なっています。それ以外に、英国の訪問地は基本マイナーな場所ばかりなのでそういう利便性はなかったのですが、事前にチケットを確保できて安心でした。Open Houseに関しても、人気がある場所は抽選または先着予約順で、情報戦とも言えるものがありました。知っている人は知っていますが初見殺し的なものもありので、今度紹介しようと思います。

英国王室も公式サイトで、宮殿のチケットを購入できます。ガイドブックも同一サイトで買えます。

同じく英国ナショナルトラストの屋敷のガイドブックも訪問前に通販できます。

私は資料が欲しいのでガイドブックをつい現地で買ってしまうのですが、帰りの荷物がほんで重たくなる経験をしてから、出来るだけ事前にガイドブックは通販で購入しておき、訪問していない場所も含めて資料として読無用に切り替えました。

オプショナルツアーなども、後述するTrip Adviserで申し込むこともできます。

(B)モバイルでのネット環境とアプリ

2016年と2018年では常時接続当たり前のため、ほぼアプリに依存しました(紙での印刷はスマホが盗難、または故障して使えない時のために準備)。

特に便利だったのは、交通系の情報・アプリです。

上記は英国の鉄道の遅延やそれに伴う到着プラットホーム情報をほぼタイムラグなしで取得してくれる優れもので、鉄道旅では愛用しました。

他に、UK Bus Checkerも使いました。バス停の位置やどちらの側にあるのか、Google Mapと補完するような形で利用しました。屋敷はよほどのことがない限り、現地のバス停が近くにあります。

Google Mapも便利でした。英国のバスは日本のバスと違って次に止まるバス停を言わないと言われており、見知らぬ土地で難渋する場合もありますが(運転手に教えてと伝えておくことで解消はできます)、GPSの精度も高く、Google Mapを見ていれば次に降りる駅が一目瞭然になります。前述のUK Bus Checkerも駅が近づくとプッシュ通知する機能がありましたが、私が利用した2016年の時はGPS精度が悪く、Google Map依存でした。

そして、全ての旅行経路をGoogle Mapに登録しておき、常にスマホで参照できるようにしました。初めていく場所も、スマホの電池切れ・通信切れさえ起こらなければ、だいたい安心していけます。

乗り物はUBERも考えましたが、アプリ登録してもカントリーハウス近辺は台数が少なかったり、往復で頼むのが面倒だったので使っていません。タクシーの配車アプリも使っていませんが、これはありかもしれません。

あとは、観光地・飲食系では鉄板のTrip Adviserも必ず入れておきます。全てを参考にするわけではないのですが、ガイドブックに出ていないマイナーな観光地が、メイン観光地の近くにある場合、多くの場合に見逃さずに済みます。事前調査を行なっておき、詳細は公式サイトで補完しました。

【資料の方向性】体験と写真撮影

●1. 屋敷を体験する

実際に現地へ行くと、屋敷とそれを取り囲む領地の広大さに驚かされます。屋敷本体には、外観や内部の建築的美しさに加えて、壁紙・家具・絨毯・装飾といったインテリアや、展示されている絵画や工芸品といった美術品、そして主人たちの服飾品や家族史なども鑑賞することができます。

さらに同じ屋敷の中にある「家事使用人の職場」エリアでは、当時の道具や石炭レンジがあるキッチン、使用人たちが過ごしたホール、執事やハウスキーパーの執務室、銀器保管庫など、資料で読み、写真で見ていた世界が広がっています。ある時代の「家事の歴史」がここにあります。

これに加えて屋敷の外には庭師が管理した庭園や野菜・果物を育てるキッチンガーデンも残っていたり、領地の広大な眺めと美しい自然を堪能することもできます。

なぜ、多くの家事使用人を必要としたのかを体感できます。Shugboroughの場合、メイド服の展示やメイド部屋などもあります。

さらに、厩舎などが改築されてレストランやカフェになっていて、のんびりとお茶を楽しむこともできます。場所にもよりますが、「近所の広い公園」として犬を連れてきている人も見かけます。

●2. 自分専用の写真資料

屋敷の内部での写真撮影は、2000年代に訪問した際にはNGだった場所がほとんどでした。しかし、今は宮殿や特定の屋敷を除き、撮影OKが増えているように思います。

どうしてそうなったのかを推測すると、2つ理由があると思います。

まず、ソーシャルメディアの発展で写真が新しい観光客を呼び込む意味があり、宣伝効果を高める点を加速していると考えられます。屋敷の公式アカウントが、観光客のTwitterでの写真や感想を公式RTすることも珍しくありません。

次に、「写真撮影はNGです」と注意することを諦めたのではないかと思います。これは、観光客全員が英語を話せるわけではない環境でかつ、誰もがどの時代よりも写真撮影を簡単にできるスマホやタブレットを持つ時代に「撮影NG」と撮影を取り締まるスタッフを置くのは、非効率的です。

このおかげで、かつてないほど、写真を撮りまくりました。

(このパートの)終わりに

現地でしかアクセスできない資料は、大映図書館や大学図書館、それに屋敷が保管する文書や手紙、家事使用人の記録などもあるはずです。ただ、ここについては旅行レベルでは接触しにくいので、専門研究者や屋敷にお任せして発表を待つところになります。

もしもこの領域に踏み込もうとすると、長期の滞在や、短期旅行でも相当な事前準備・コネクション作りなどが必要になると思います。

【2019/05/01】追記
思い出しましたが、上記のような「屋敷独自の資料」が本来の出版流通に乗らないガイドブックとして出版されていることもあります。

以下の左側の本は屋敷Shugboroughでキュレーターをしていたパメラ・サンブルック氏が監修した、屋敷の一次資料です。右が、2004年にヨークシャーのカントリーハウス7つが「MAIDS & MISTRESSES」という共通テーマの展示を行った時のパンフレットです。

前者には一次資料として、ヴィクトリア女王の王女時代の訪問時のディナーで消費した食材やお酒の種類や量、キッチンにあった道具のリスト、ハウスキーパーの部屋の備品リスト、1762年に管理していたリネンの種類と数量、そして1827年の家事使用人就業者の全職種と人数、名前、賃金などが記載されています。

後者の方も、主に屋敷の女主人を中心に屋敷に残された記録や絵画などからそこに住んでいた人々を解説するもので、屋敷ごとに各章が割かれています。屋敷にはこうした資料が、まだまだ数多く眠っていることでしょう。

というところで長くなったので、次回にようやくネットの利便性第二期(デジタルアーカイブ)と、当時の政府刊行資料との出会いなどを。次は明日の更新予定です。

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