デザイン組織のつくりかた

先日、BNN(ビー・エヌ・エヌ新社)さんよりご恵贈頂いた「デザイン組織のつくりかた」を読み終えたので、感想を書きます。

結論から言えば、事業会社経営者、デザイナー、デザイン管理職、デザイン会社経営者、デザイナーと仕事する全ての職種の人に是非読んで頂きたい一冊でした。

本書に登場するデザイナーはデジタルサービス関連のデザイナーな感じなので、工業デザイン、メーカー系の方が読むとドンピシャのケースは出てきにくいですが、それでも読んでおいたほうが良い、時代はこっちだよねというサンプルとして良書です。

大まかな内容

- デザインの再定義と組織への影響力の考察
- デザイン中心組織の強み
- デザイン組織の変化や発展
- デザイン組織運営の核心
- デザイナーのキャリアパスとサポート

といった感じです。

まずは近年デザインがもはや企業の競争力そのもの、製品のコアであることを示す事例の紹介から始まります。著者が創設した著名デザインファームのAdaptive Pathも銀行グループであるCapital Oneに買収されました。本書は財務ソフト大手のIntuitが、ウェブベース個人資産管理サービスのMint.comを買収した事例を紹介します。この導入こそがまさしく“デザイン能力”のビジネス価値を説明していて、ポイントはMintのサービスのコアであるアカウントアグリゲーション(ユーザーが利用する複数のサービスのデータをひとまとめする技術。銀行口座と家計とカード履歴をまとめたりするお金周りでよく見られる)技術自体をMintは自社で作っておらず、Yodlee社のものを使っていたのですが、買収されたという点です。つまりサービス、フロントとしてのUXやインターフェースのデザイン能力で多くのユーザーを獲得と事業の成長を実現させたのがMintであり(たった2年で150万ユーザー、買収額1.7億ドル!)、そのデザイン能力に価値を見出され買収されたのです。このケースのように今やデザイン人材は価値が高く、戦略の中枢に置いている企業ももはや珍しくなくなりました。

ビジネスの最前線におけるデザインとは何か?

デザイン人材、デザイン組織が価値あると考えられてるのはわかったけど、そもそもここで言うデザインって何?という問いに対して本書は元Apple社CEOのSteve jobs氏の言葉を引用し定義づけをしています。

“デザインとは、人間の創るものの根底に宿している魂であり、製品やサービスの外装として現れているものに他ならない”(2000年のfortune.comでのインタビュー引用)

デザインとは魂!!

デザインとは表面的なかたちではないと言われ始めて久しいですが、かたちも重要なファクターですね。本質的なコンセプトとそのための表現を現出させること、をデザインと考えるのが今っぽいかもしれません。

Apple社がデザインを最重要視、最大限利用したことで今のポジションがあることは誰もが認めることでしょう。そんなAppleの魂がデザインなんだよと言われると、ああ、超大事なことなんだなと考えざるを得ませんよね。

ネットワークに繋がって体験やスキームが複雑化した今日のソフトウェアサービスは抽象度が上がっていて、従来のMBA的4Pアプローチが通用しなくなってきており、そこで抽象度高い思考と相性が良い全体的思考アプローチであり、共感思考であるデザインが効果的と見られている時代背景もあります。

そして、そんなデザインは、瞬間的なイベントではなく、組織の中で継続していくプロセスであり、そのプロセスを構築するための様々な手法や事例が紹介されていきます。

デザイナーとはどういう人種か?

本書では、デザインという仕事の領域を、全体像、戦略、構造、外観の4レイヤーで定義しています。そしてデザイナーを二種類に分けています。戦略と構造レイヤーが得意なタイプをサービスデザイナー、構造と外観が得意なタイプをプロダクトデザイナーとしています。全体像を見れるのは役職としてCDOやクリエイティブディレクターと呼ばれる人を指すことになるのでしょう。
ビジュアルデザイナー、インタラクションデザイナーなど様々な肩書がデザイナーの世界には存在しますが、現在はマルチスキルのデザイナーが多く存在していて、肩書でスキルセットが判断できないのですが、大まかにサービスタイプかプロダクトタイプかには分けられそうです。
よいデザイナーは柔軟である、プロセスも課題ごとに柔軟に変えることができて、幅広いアプローチや手法を知っている。どんな課題でもすぐポストイットやHCDから始めたがるのはよいデザイナーではないといったことも書かれています。

組織内でのデザイナーの立ち位置

デザイナーの組織の立ち位置は企業毎にさまざまです。製品ごとに区切られたチームに混ざって働くデザイナーもいれば、社内にデザイン部が存在していてそこに所属し、様々な事業部から仕事を請け負う社内エージェンシースタイルもあります。その両方に強みと弱みがあります。例えば製品チームに混ざると、製品に関しての発言領域は増えるけど、組織やサービス全体への発言力は薄れてしまうとか、エージェンシースタイルだと幅広い仕事を経験できるけど、どうしてもプロジェクト起案時に絡みにくい、組織内で浮くとか。それに対しての解として、本書では集権的パートナーシップというスタイルを勧めています。これは、デザイン部として独立するんだけど、各製品部門と強い信頼を結んだパートナー人員で構成されるデザイン部とするアイデアです。従来のいいとこ取りをすることで、全体関与と細部関与を両立できるのではというアイデアです。面白いのは、結局人と人だから信頼関係を結ぶのが大事だと説いていることです。デザイナーは専門職の中でも貢献が抽象的にならざるをえない職種なので、まずはそれをちゃんと他部門の仲間が理解し、かつ利用してくれるような体制づくりとして重要な視点でしょう。

デザイナーのリーダーシップ

デザイナーにも部門長やリードデザイナー、チーフなどのリーダー職が存在しています。マネジメントに時間を割くことを期待されている彼らは、質感高いデザインを作るよりもやるべきことが多くあります。他部門や幹部との関係づくり、採用、文化を作る牽引、プロセスを作る、ビジョンを作る、社内外へのスポークスマンとなる等…
このポジションの人に適性がある人がなるべきで、それはデザイン業務の知識ももちろん必須です。デザイナーという人たちの性格上、上記の役割を担いたい人はそんなに多くないのはアメリカでも日本でも同様のようですね。エンジニアでもキャリアアップでコードがかけなくなるのは嫌だっていう人もいるのと同様、リーダー適性が重要です。
またそのことと関連して、デザイン組織がまだ二人しかいないようなスタートアップ時からそのことは考慮したほうがいいとも書かれています。戦略タイプでマネジメント適性のデザイナーと外観タイプでクリエイティブリードタイプの逆のタイプの二人からスタートすることを本書では薦めています。

求人、文化、事業ステージ、デザインの質

リーダーシップの話題のあとは、デザイン組織を担うリーダーに役立つ様々なTIPSが続きます。効果的な求人テク、文化を育てる施策事例、事業ステージに合わせたデザイン組織の役割、他部門に伝わりにくいデザインの質に関するコミュニケーション方法など。他にもどのくらいの人材をどのポジションに置くべきかなんていう経営アドバイスも散りばめられています。Pinterest社の文化づくりの施策事例は面白かったです。
文化づくりの重要性を説くパートで私が気に入った一説があります。ウインストン・チャーチルの発言の引用だそうです。

"我々は建物を築く。すると今度は建物が我々を形作る"
-P.191

デザイナー、経営者、起業家に薦められる良書

本書はいま時代に求められる、デザイン組織を作るためには様々なレイヤーと面から組織とデザインというものを捉えなければいけないと主張しています。その多レイヤー多面的な本書の構成は、そのまま様々な立場の人が参考にできる構成になる効果をもたらしています。後半ではマルチスキル時代のデザイナーのキャリアパスやスキルセットポートフォリオに関するパートもあり、デザイナーとしての自分の方向性に迷っている方にも大いに参考になるかと思います。

経営資源としてのデザイン、投資対象としてのデザイン、ビジネス戦力としてのデザインへの理解を進めたい方に強力におすすめできる一冊でした。

正月休みは終わってしまいましたが、最後の三連休に読む本を探している方は、是非読んでみてはいかがでしょうか。

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