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書籍「UXデザインの法則 ――最高のプロダクトとサービスを支える心理学」

オライリー・ジャパンさんより、UXデザインの法則
――最高のプロダクトとサービスを支える心理学(Jon Yablonski 著、相島 雅樹、磯谷 拓也、反中 望、松村 草也 訳)
をご恵贈頂いたので読んだ。
良書だったのでレビューを。

どんな人向け?

UI/UXデザイナーのみならず、工業デザイナーやグラフィックデザイナーなど、「人が関わる情報設計・インタラクションに関する仕事をし、かつ他者を説得するシーンが頻繁にある人」におすすめの本です。

どんな内容か

本書はLaws of UXというウェブサイトの中からいくつかのトピックをまとめた本。

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UXデザイン業務における、定量・定性データの不在やクライアント説得のハードルに課題感を持ってたBoom SupersonicのデザイナーであるJon Yablonski 氏が著者で、日本語訳はリクルート所属のデジタルプロダクトデザインに携わるチームが行っています。

実際のデジタルプロダクトデザインに携わっている方達が翻訳しているので、非常に読みやすい訳書となっています。

内容は、10個の心理学的法則の抜粋と紹介。そして2章のコラムといった構成です。目次は以下。

日本の読者へ
はじめに
CHAPTER 1 ヤコブの法則
CHAPTER 2 フィッツの法則
CHAPTER 3 ヒックの法則
CHAPTER 4 ミラーの法則
CHAPTER 5 ポステルの法則
CHAPTER 6 ピークエンドの法則
CHAPTER 7 美的ユーザビリティ効果
CHAPTER 8 フォン・レストルフ効果
CHAPTER 9 テスラーの法則
CHAPTER 10 ドハティのしきい値
CHAPTER 11 力には責任が伴う
CHAPTER 12 心理学的な原則をデザインに適用する
索引
訳者あとがき
著者紹介
訳者紹介

デジタルプロダクトだけでなく、フィジカルプロダクト、工業デザイナーにも役に立つ一冊。
むしろUXという言葉が一般化する前は、認知心理学などにアプローチを始めていたのは物理プロダクトのデザイナーだったので、そういった仕事をしているデザイナーも本書と共感率や親和性が高いはず。

私が特に興味深かった章

私が読んでて特に面白かった章は

CHAPTER 1 ヤコブの法則
ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにもそれらと同じ挙動をするように期待している。

CHAPTER 2 フィッツの法則
ターゲットに至るまでの時間は、ターゲットの大きさと近さで決まる。

CHAPTER 3 ヒックの法則
意思決定にかかる時間は、とりうる選択肢の数と複雑さで決まる。

CHAPTER 7 美的ユーザビリティ効果
見た目が美しいデザインはより使いやすいと感じられる。

あたりです。法則が面白いというより、その法則に関して述べられている著者の視点が面白い、というのがこの本の全体的な魅力に感じました
(取り上げられている法則自体はどれもUXデザインを仕事にしている人には馴染みのものです)。

ヤコブの法則に関しては、メンタルモデルやヒューリスティックなど、普段のプロダクトデザインで最も頻繁に使うアナロジーでもあるので、読みながら、自分の視点を振り返りつつ色々思考を巡らせる、みたいな読み方ができました。

例えば、同質化とのバランスにも言及されてるのですが、
「ある程度の複雑性があるプロダクトは、プロダクトのデザイン要件が全く同じにでもならない限り、完全に同質なものができることはないので考慮する必要はないかも、むしろ開発企業の意思決定作法なども含め完全に意図的にトレースしない限り同じものを作るのは難しいのが通常だとおもうなー」
みたいなことを考えながら読める感じです。

ヒックの法則、フィッツの法則は普段からデザイナーは手法としては当たり前のように使っているけど、今日ではAppleなどのプラットフォーマーがUIガイドラインで具体的な数字を規定してくれちゃってるので、具体的な数式やディティールの理由を、あまり意識することはないと思います。そういった部分がちゃんと知れて面白かった。

美的ユーザビリティ効果(同じUI、情報構造でも見た目が美しいだけで、ユーザーの評価が上がる、認知能力が上がるという研究結果)の章では、美しいUIデザインは、人々のUIに対するネガティブ感情を隠蔽することになるから、UXのテストとしては諸刃の剣ともなりうるという視点があったのが学びが深かったです。
アップル製品とかでたまにある、落ち着いて考えたらこのUXダメじゃね?プロダクトのスタイリングで下駄はかされてね?みたいなのに近い感じ。そういうのも含めて、プロダクトのスタイリングは必ず重要だということを示されています。

このように各法則トピックは、デザイナーが読んで楽しめる内容なのだけど、法則に加え、デザイナーが生活者に埋め込んでいくメンタルモデルの責任についての言及が11章にあります。
現代人は1日に2500回以上、2時間以上スマホに接触していると言われています。そのインタラクションが人の認知にもたらす影響力たるや相当なものであることは容易に想像できるでしょう。その社会的責任についても言及されているのが本書のユニークなところだと思います。
UI・UXのダークパターンは近年、デザイナー界隈ではホットなトピックでもありますよね。企業目標とユーザーのウェルビーイングの話題にしっかりと踏み込んでいるUX本は少ないので貴重です。

最終章では、本書で紹介された法則をプロダクトのチームが理解して共通理解を得るプロセスこそが最重要であることが説かれ、結びの言葉となっています。まさに本書がそういったプロセスを構築する際のコミュニケーションツールとして非常にパワフルであることが、読後に感じられる良書でした。

おすすめ!

5/18発売らしい。kindle出るのかな。


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