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デザイン発注者が知っておくべきこと(1/5回)

デザイン発注者が知っておくべきことと題して全5回に分けて書きます。本記事は第一回。

デザイン発注に関する悩み

多くのビジネスシーンでデザイナーという仕事の事業貢献が認められる時代になりました。 経営資源としてのデザインという考え方が浸透し、各社競うようにデザインへの投資を加速しています。

自社にデザイナーを抱える企業は、デザイナーの活躍の場を増やしていることでしょうし、自社にデザイナーを抱えていない企業は、社外のデザイン会社やフリーランスのデザイナーに協力を仰ぐことが多くなっていることと思います。

そこで数多くの企業、ビジネスパーソンに発生した悩みが「デザイン発注に関する悩み」です。私自身が依頼する側と依頼される側両方の経験があるのもあって、経営者や事業担当者の方からこの手の相談、コンサルティング依頼が増えてきました。

発注経験や知識の不足からデザイン発注が滞ったり悩む期間は、企業にとっての損失でしかありません。事業機会や担当者人件費の損失です。

この悩みは大きく3つのタイプに分けられます。

1. パートナー選び
どんなデザイナーに、何を相談すればいいかわからない。

2. お金まわり
契約とか支払いとか相場とか、交渉全般がわからない。

3. マネジメント
プロジェクトの段取りや進め方がわからない。

この「デザインの一歩前」段階での課題を多くの企業が抱えています。

これらの悩みはすでに多くの場所で顕在化している問題でもあり、時にはプロジェクトを停滞させる大きな罠にもなっています。
それにもかかわらず、これらに関する知識やノウハウはあまり公開されていません。

本来デザインの発注というのはデザインという仕事に関するかなりの理解力を必要とするため、デザインマネージャーのような専門職であるべきなのですが、一般的な企業にそういった専門家はなかなかいないことでしょう。

そこで、きっと需要は多いはずだと考え、我々や業界仲間の経験を元にこれらの情報を少し整理して書いてみることにしました。書き始めたら結構な量になってしまったので、5回に分けました。

これらの情報が知られることで、企業はスムーズにそれぞれの事業課題にデザイナーを有効活用できるでしょうし、また、デザイナー側もクライアントへの説明や説得、交渉のコストなども軽減され、本来フォーカスすべき仕事に集中できるはずです。

発注側もデザイナー側も気持ちよく仕事ができて、成果も出る方が絶対にいいので、そのために発注側が知っておくべきことを書いてみました。

基本社外のデザイナーへの発注で悩みを抱える人向けで書きましたが、社内のデザイナーとのコミュニケーションに苦戦してる人にも参考として頂けるかもしれません。

(実情に対するツッコミなどの反響に合わせて加筆修正していくかと思います)。

そもそもデザイナーの仕事とは何か

デザイナーにはいろいろな種類のデザイナーがいます。例えばグラフィックデザイナーとウェブデザイナー、工業デザイナーではそれぞれスキルや得意分野が全く違います。デザイナーという名前の一部分は共通でも全く別の職業です。

デザイナーの種類と領域

グラフィックデザイナー
広告のデザイン、ポスターやリーフレットのデザイン、サービスや企業のロゴデザイン。企業が発信したい情報やイメージを2次元のビジュアル表現として設計するデザイナー。印刷発注の手配をするデザイナーもいます。

エディトリアルデザイナー
雑誌や書籍の表紙やページのデザインをします。

CIデザイナー
企業の哲学や姿勢を体現する表現の設計をするデザイナー。企業のアイデンティティ表現に特化したグラフィックデザイナーのような職能です。企業の姿勢や哲学をビジュアル表現に落とすことを専門としているため、それらの情報に対する理解速度が早いのが特徴です。CIデザイナーと名乗ってはいないが実質CIデザイナーの働きをしているグラフィックデザイナーも多くいます。

ブランドデザイナー(ブランディングデザイナー)
企業の哲学や姿勢を体現する表現の設計をするデザイナー。企業のアイデンティティ表現に特化したグラフィックデザイナーという点ではCIデザイナーに近いが、製品のデザインも一貫して手がける。ブランドイメージ構築のために幅広い表現を担います。ブランド構築を効果的にするために、プロダクトデザイナーや建築家などをキャスティングする役割を担うことも。

ウェブデザイナー
サービスや製品を紹介するウェブサイトのデザインをします。動くウェブサイトとして実装する(コーディング)のはフロントエンドエンジニアという別の職能が担う場合が多いですが、自らコーディングもするデザイナーもいます。

プロダクトデザイナー
日用品のデザインをするデザイナー。主に使いやすさや物質の形状を設計する。現実空間でのモノの設計をする。インテリアデザイナーや工業デザイナーもプロダクトデザイナーと呼ばれることがあります。プロダクトは製品という意味なので、近年モバイルアプリのデザイナーに対しても使われることが増えてきていますがそっちは全く別の職能なので注意が必要。

インダストリアル(工業)デザイナー
工場で大量生産されるような工業製品をデザインする。プロダクトデザイナーの中でも、電化製品や情報機器などの構造が複雑で製造上の制約も多いデザインを得意とすることが特徴。工業製品のデザインは電気知識から工学的知識まで広範囲な専門知識が必要なため、エンジニア的知識を有するデザイナーも多い。量産する工場を手配したり、製造ラインのマネジメントをできる工業デザイナーもいます。工業製品は製造コストが大きくかかるため、工業デザイナーは常に製造原価を厳しく考えています。そのためか、アーティスト気質の人が多いプロダクトデザイナーの中でも、理性的でビジネス思考の人が比較的多いのも特徴でしょう。

インテリアデザイナー
家具や内装、オフィスなどをデザインするデザイナーです。生活文化に対して造詣が深いデザイナーが多いのが特徴です。木や鉄などの素材の加工方や特性にも詳しく、人が空間でどう動くか等の知識を備えているのも特徴です。

デザインエンジニア
エンジニア的素養を持つデザイナーとデザイナー的素養を持つエンジニアの総称です。工業デザイナーやウェブデザイナー、UIデザイナーやフロントエンドエンジニアがルーツの人が多い。実現手段としてのエンジニアリングの知識を持ちながらデザインができるため、短い時間で製品やサービスとして実現しやすいデザインができるのが特徴で、近年デジタルサービスやデジタルプロダクトのデザイン現場で活躍しているデザイナーです。デザインエンジニアを名乗ってはいないが、デザインエンジニアスキルを持っているデザイナーも増加しています。

カーデザイナー
車のデザイナー。車のデザインは他の工業製品とは違った強い文化的背景や流派があり、工業デザイナーが保有していない独自のデザイン技術と知識を持っています。彫刻的な形状の作り方はしばしばカーデザイナー独自のデザイン技術だと言われます。

UIデザイナー
ユーザーインターフェース、利用者と情報機器の接点を設計するデザイナー。ウェブやモバイルアプリなどの画面の構成や意匠面全般をデザインします。静的なビジュアルだけでなく、画面の遷移をデザインするUIデザイナーも多い。UXデザイナーと兼務しているケースも多く、自身でコードを書いて動くUIを作れるエンジニア的デザイナーもいます。

UXデザイナー
ユーザーの体験全体を設計するデザイナー。主にウェブサービスやモバイルアプリなどを利用した際にユーザーが体験する物事の順序や各局面で必要な情報の整理などをするデザイナー。ユーザーがアプリなどに触れている以外の時間の体験を考慮するなど、広い時間軸で最も良い体験とは何かを思案し設計するデザイナーです。UIデザイナーやウェブデザイナー、工業デザイナーと協働することが多く、これらのデザイナーを兼ねる場合もあります。

インタラクションデザイナー
インタラクションとは相互作用のことであり、情報機器とユーザーの間に起こる相互作用、どういう操作をしたらどういう反応をするかということをデザインするのがインタラクションデザイナーの仕事です。UXデザイナーよりも単位が短い時間軸で具体的な表現含めた作法を考えます。グラフィック的な表現から造形表現、音や香りまでデザインします。

サービスデザイナー
ユーザー体験のみならず、サービス提供側のオペレーションなども含めた、総合的にサービスの仕組み全体を考えるデザイナーです。細部のビジュアルやインタラクションをデザインすることは少なく、俯瞰的にサービスをデザインする役割です。

ビジネスデザイナー
企業の事業コンセプトをデザインします。その企業が持つリソースや経営のスタイルを鑑みながらサービスからビジネスモデルまで設計します。事業立ち上げにフォーカスし、クリエイティビティを売りにした経営コンサルタントのようなデザイナーです。プロダクトデザイナーやサービスデザイナーとタッグを組むことが多く、ディレクター的な動きを担う場合が多いようです。経営レイヤーに近い考え方をするデザイナーです。

デザインストラテジスト
具体的な対象をどうデザインするかがデザイナーの役割ですが、デザインストラテジストはデザイナーの動き方や文化を主導する役割です。デザイナーというリソースも含めた企業のデザイン資源の運用、製品やサービス開発におけるデザインをどう考えるか等、企業におけるデザイン戦略を担います。デザイン部門がどう動くかを考える役割のことも多く、様々な部門の仲介者のような動きをすることも多いようです。経営レイヤーに近い考え方ができるデザイナーです。

デザインマネージャー
デザイナー含む組織のメンバーの動き方や考え方をマネジメントするデザイナーです。デザインストラテジストとかなり近い概念ですが、デザインマネージャーはデザイナーとしての実制作を担うこともあり、より現場寄りでデザイン戦略や組織デザインを行う役割と言えるでしょう。デザイン部門以外もデザインプロジェクトに巻き込むようなマネジメントがメインの役割のです。

クリエイティブディレクター
主に広告デザインの領域で使われる肩書きで、デザイナーやコピーライター、フォトグラファー、ミュージシャンなどがどういうコンセプトや方向性でやるべきか、そもそもプロジェクトはどういう進行をしていくべきかなどの全体を考える役割です。広告デザインの業界では上級職と認識されているようです。広告のようにメッセージやクリエイター同士のコミュニケーションをかなり丁寧に舵取りしないといけない領域では番頭として大きな責任を担います。広告領域以外でも企業の創造的アウトプット全体の舵取りをする役割としてこの肩書きを持っている方はいます。

アートディレクター
クリエイティブディレクターがクリエイティブプロジェクト全体の責任者であるのに対して、アウトプットとしてデザイナー達が仕上げてくるもののディレクションやクオリティコントロールにフォーカスした責任を担うのがアートディレクターです。ビジネスサイドのコミュニケーションやマネジメントは行わず、世に出るクリエイティブアウトプットの品質や世界観を担当します。クリエイティブディレクターがアートディレクターをアサインして、マネジメントするといった体制が一般的のようです。

デザインコンサルタント
企業のデザインに関する諸問題の相談相手として、解決案を出したり、プロジェクトの素案作りにアドバイスをしたりする役割です。何らかのデザイナーとしてのバックグラウンドを持っており、その知識を使って企業のコンサルティングを行います。現役の何らかの領域のデザイナーがコンサルタントとして仕事を受けることも多く、その場合コンサルタントとしてライトなプロジェクトを請け、次のステップでデザイナーとして実制作のより重いプロジェクトに進むといったケースが多く見受けられます。コンサルティングなので実際に手を動かすのは発注側のインハウス人材になります。自社に作れるデザイナーはたくさん抱えてるので、そのリソースは活かしつつデザインプロジェクトを進めたいという要望は多く、デザインコンサルタントはそういった体制と相性がいいデザイナーです。

このようにデザイナーと一口に言ってもかなりの専門領域があります。

また、今回は記述しなかったコンテクストデザイナー、テクニカルディレクター、UXライターなど新しい職種も生まれてきています。

自社に必要なのはどのデザイナーか?

これらの肩書きはデザイナー自身の独自解釈と定義による場合も多いため、同じ肩書きのデザイナーでもアウトプットに違いがあることも多いため上記が必ず当てはまりません。
デザインストラテジストと名乗っているから発注側としてはかなりビジネス解像度が高い戦略をアウトプットとして期待したのに、現場寄りでクリエイター的なアウトプットしか出て来なかったなどのミスマッチが起こることがあるので、肩書きはあくまでも目安でしかないことを知っておきましょう。

発注側としては、自社が必要なアウトプットがどの領域のデザイナーの仕事か知っておくのが絶対に必要です。知らないとお願いするデザイナーを探す時間コストがかかりすぎることになります。なんとなく、自社にはデザインの力が必要なんだ!くらいのあやふやな状態から相談先を探す企業もありますし、それが決して悪いわけではありませんが、上記のリストと自社の状況を照らし合わせ、パートナーにすべきデザイナーはどの領域の人なのか整理しておくことは必須でしょう。
そして多くの場合、事業には複数領域のデザイナーの仕事が必要になるため、それぞれの領域を依頼するデザイナーを複数候補をあげる必要もあるでしょう。複数のデザイン領域をできるデザイナーも稀にいますが、基本的にレア人材だと思った方がいいでしょう。
実際に事業立ち上げの経験、事業運営の経験、デザイン組織立ち上げの経験といった貴重な現場経験を持っているデザイナーは経営目線から対話が可能なため需要が非常に多くかつ希少なため、こちらもレア人材です。

次回はデザイナーのビジネスモデルについて

(リアクションやコメント等頂いたら追記したり修正していくと思います)

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