デザインリーダーシップ

BNNさんより「デザインリーダーシップ - デザインリーダーはいかにして組織を構築し、成功に導くのか?」をご恵贈頂いたので、感想を書きます。
ちょっとメモしたポイントが多く、読むのに10分くらいかかる長いエントリになってしまいましたので、流し読み推奨

本書はO’Reilly Mediaより2016年に刊行された書籍の日本語版。
デザインファームFresh Tilled SoilのRichard Banfield氏が様々なデザイン経営企業のキーマンにインタビューし、デザインリーダーシップについてまとめた内容。企業文化、人材育成、営業活動など多岐にわたる「デザインリーダーシップ」をとりあげています。良質なインタビュー集といった内容。

どんな人向けか。

現場のデザイナーというよりデザイン会社経営者や組織のデザイン部門のマネージャー向け
デザイナー系インタビューではあまり話題として出てこない、デザインオフィスのキャッシュフローの話や採用のミスマッチング、事業フォーカスについてなど、デザイン会社経営者視点の話が多く、うんうんそうそうとなるような内容でした。独立前のデザイナーとかにもお勧めできるかもしれません(腑に落ちるのは独立経営始めて数年後とかかもしれませんが)。

本書の構成のユニークなポイント3つ

1.全章末尾のまとめページがわかりやすい(振り返りやすい)
2.挿絵や写真は一切ない(文字苦手勢にはキツいかも。その分濃い)
3.インタビュー対象の何パーセントがこういう意見だったみたいな記述(結局はケースバイケースだから断定していない)

構成は8章

第1章 企業文化
第2章 人材
第3章 オフィススペースとリモートワーク
第4章 個人的成長とバランスのとれた生活
第5章 将来計画
第6章 リーダーシップスタイル
第7章 セールスとマーケティング
第8章 最大の失敗から学ぶ

各章の印象的な部分と感想(こっから長い)

下の構成で各章の感想を。

読みながらとったメモ

感想

第1章 企業文化

文化は人が原点。仕事に費やす時間は生産性と相関しない。創業者が良くも悪くもその文化に最大の影響を与える。メンバーシップ組織と育成組織がある。両者の経営も運営も異なる。人はその履歴書よりはるかに複雑である。BankVue社ではチーム内で経歴やインスピレーション元についてのプレゼンテーションを行う習慣がある。インタビューでは、大多数のリーダーは文化が重要と認めたが、意見は相反するものが多かった。文化を管理できるかについて意見は一致しなかった。文化の理解と自社文化の育成にかなりの時間を投資しているリーダーが多かった。→コミュニケーションに時間を投資する人がリーダー。健全な文化は健全な人から生まれる。文化は完全管理は無理だが決して無視してはいけない。

デザインというもの自体が属人的な部分が多い仕事のため、自然と人のメンタル面やモチベーションのケアが重要視されるのは納得です。面白いな、と思ったのが、「会議とコミュニケーションは違うぞ」ということ。人と人がお互い笑わせあったり、お互いをリスペクトしやすく声もかけやすい空気を作ることは、効率的な会議体をつくるよりずっと難しく重要であるということです。そしてそれはそのチームの創設メンバーの空気が最大の影響を与えるということ。その空気の醸成にコミットするのがデザインリーダーだという明確な定義づけは新鮮でした。
紹介されていた、お互いの経歴やプライベートを紹介し合うプレゼンテーションイベントは真似しようかなと思いました。

第2章 人材

Think Brownstone は採用活動をビジネス開発のように扱う。候補者パイプラインを新規ビジネスパイプラインと同様の考え方で活性化させることが重要。公共の場で会社と仕事について話すこと。上級クラスは求人掲示板など見ない。上級クラスは通常とは違うパイプライン。人材パイプラインには様々な経路や柔軟性を受け入れる必要がある。合議制での新メンバー加入にはデメリットもある。人気は高くなくてもチームを前進させる重要人物が入れにくくなること。結局は最終選択はリーダーの仕事。コミュニケーションを楽しみ、細部に気を配る人、顧客管理が出来て費用管理が上手な人。それはデヴェロッパーに要求されるスキルセットと違う。デザイン分野で肝心なところは、異なるスキルセットを持つメンバーを作ること。デザインサービス会社の最大のコストは人材であるため、メンバーの追加は慎重かつ遅れないように進めなければならない。活用しきれてない人員のオーバーヘッドを持つより、わずかな要員不足くらいが望ましい。マイナスキャッシュフローのストレスに比べれば、要員不足の方がギャップは埋めやすい。自身のレプリカになるような人間を探してはならない。価値観やコミュニケーションスタイルは似ているが、経験や物事の見方、スキルセットが違う人を探せ。ソフトスキルがある新人がいい。なぜならソフトスキルはハードスキルに比べ、教育コストが高いから。日本では馴染みの深い徒弟制度はデザインアプレンティスシップという名を付けられ北米で流行り始めている。sparkbox, thoughtbot, upstatement, mergeなどがアプレンティスシッププログラムを運営している。結束の強いチームは、仕事上の意見が違ってもスムーズに仕事ができる。デザインビジネスは売上変動が大きいため、どこの会社も人材の固定費とビジネスパイプラインとのバランスに苦労している。

人材の章はかなりうんうんそうなんだよねとなる部分が多かったです。デザイナーやエンジニアのソフトスキル(コミュニケーションや対人スキル)はリーダー側は重視しているけどメンバー側は最重要視していないというのはよくあるミスマッチパターン。教育コストもバカにならないし、ソフトスキルは総じてつきっきりで育成しなければいけないので、すごく投資が必要なんですよね。立ち上げ初期のデザイン会社がもっともつまずき火傷するのが人材に関することで、自分も経験したケースが多く、共感することばかりでした。

第3章 オフィススペースとリモートワーク

インタビューしたデザインリーダー全員が、オフィスのレイアウトと内装の選択に重要な役割を果たしていた。美しくデザインされたスペースは人材獲得を容易にするが、同時に初期段階の会社に見られるミッション重視の献身的姿勢は失われることにもなる。古びたオフィスに何度も来たがる人は本物。

ステキなオフィスは大事だけど、オフィスが贅沢じゃない段階でも信じてリスクを負って入って来てくれる人は本物というのはなんとなくわかる気がしました。

第4章 個人的成長とバランスの取れた生活

有力メディアは一匹狼のリーダーに熱い視線を送るが、現実には、ほとんどのビジネスの成功はサポートし合うリーダー群がかたちづくっている。多くのリーダーは、求められる仕事に対処しつつも、個人的に成長できるルーティンを考案していた。成功したリーダーたちは仕事とそれ以外を区別していない。曖昧さを認めて、生活と仕事の統合を受け入れている。仕事と生活を互いに良い影響を与え合う流れを作ること。運動の重要性。歩きながらのミーティングやスタンディングデスクは、デザインリーダーがよく使う戦術。リーダーシップは未完成の仕事。リーダーが学習する意欲を見せれば組織も合わせて成長する。

この章はチームというより、リーダー自身の成長や生活についての章でした。仕事にどのくらいの時間をかけるか、どういうスタンスでのぞむのかというのは正解はないのですが、本書は結構余裕を大事にしているリーダーのケースが多かった印象です。素敵なデザインを生み出す組織が必ずしもゆったり組織かというとそうではないと思いますが、私の周りでも物量とコスト競争で戦っていないデザイン会社は結構ゆったり仕事にのぞむ系が多いなという印象はあります。オラオラデザインリーダーの組織は納品納品コスト競争&深夜作業とかで疲弊して負のループになりがちに見えます。

第5章 将来計画

日常のオペレーションから視線を上げて外の世界に焦点を当てることがリーダーシップの必須事項である。1つの市場セクターやトレンドに頼りすぎることは危険。計画づくりの柔軟性とは、組織文化にとって良いことと市場にとって良いことを常にバランスさせることである。流行りのテクノロジーではなく、その背後にある人の欲望に注目するべき。計画づくりは単独で行う活動ではない。デザインリーダーは人の助けを借りずに将来の課題に挑戦することを期待されているわけではない。

この章はデザイン組織に限らず、ビジネスでチームを率いるリーダーが常に意識すべきだよなという内容でした。どうしても目先の一週間を考えちゃうのは人間の性ですが、常に一歩引いて全体を眺めて、視座高く物事を捉えよというのは定期的に思い出すべきですね。

第6章 リーダーシップスタイル

失敗が起きるたびにリーダーが立ち会って指摘するのは難しい。教師がいない時の学習を支える環境を作ることの方がはるかに効率的である。リーダーは育成と厳しい決断を両立させる綱渡りをしている。デザインのハードスキルとソフトスキルのバランスを取るのがデザインリーダーの課題である。デザイン会社のようなサービス会社ははっきりとした出口戦略を持つ会社と違い、買収やIPOは珍しく、そのため長期的な現状維持に集中することになる。チーム全員との1on1を1日でこなすことで、リアルな今の状況が総合的に理解できる。他の人の最高の力を引き出す能力とは、自分の慣れ親しんだ思考法を捨てさせること。メンバーが最高の自分になれるよう指導するのがデザインリーダーの役割。リーダーシップスタイルは個人の性格と経験が複雑に絡み合ったものでビジネスも違うので、理想的なリーダーシップというのは存在しない。

この章はリーダーシップの具体的なアクションが多く紹介されています。おそらくデザイナーをやりたくてデザイナーになった人が、あまりやりたくないだろうなということがリーダーシップのアクションなんだよなと理解できる章です。優秀なデザイナーとデザインリーダーがイコールではないのがよく理解できる章です。人には向き不向きがあります。

第7章 セールスとマーケティング

突き詰めるとデザインリーダーとは、マーケターおよびセールスパーソンの仕事ができる人だ。デザインリーダーはしばしば、自分がそう得意ではない分野に誘い込まれてしまう。自分たちの価値とビジョンを作り、適切なクライアントを選び、計画づくりをして、そしてセールスパイプラインを作るハンター、クローザー、ファーマーの三レイヤーの役目がセールスパーソンには必要。デザインリーダーをソートリーダーに仕立てるコンテンツづくりをマーケティングとする。見込み客の話を聞く→自分達が出来なそうなら適切な友人を紹介する。クライアントと応対する人の肩書きは大事である。オーナーシップあるものが対応に来るのとそうじゃないのではミーティングの価値が違う。リーダーの関与とは全てを行うことではない。プロセスを理解して全体を効率化させることである。クライアントとの打ち合わせを省略できるように準備をしておくことは大幅な時間と費用に節約になる。ミスマッチのビジネスは辞退し、長期のセールスパイプラインに投資し、一つのクライアントからの利益が総利益の20パーセントを超えないようにする。セールスパーソンのインセンティブをコミッションにしてしまうと、クライアントとの適合性より、成果報酬に重点が置かれてしまい、間違った営業をして来るようになる。利益面の成果ではなく、企業目的のレベルで動機付けするべきである。自社のセールスレンズを作る。クライアントの質と質問事項を整理しておく。足切り基準も作る。セールスに特効薬は有り得ない。

独立直後のデザイナーや初期のデザイン会社に最も役立つ章かもしれません。デザインリーダーとは結局トップセールスマンのことだ、と。いわゆる有名デザイナーの事務所とかでも、有名デザイナー本人は実務は全くしてなくて、営業しかしてないなんていうケースは決して珍しくありません。ここまでの章でもデザインリーダーに求められるのは、様々な仕事のリーダーが求められて来た一般的なビジネススキルとかなり近いということがわかります。その感覚を読んでいるデザインリーダー(の候補者)が徐々に腑に落ちていけるというのが本書の一番の効果かもしれません。本章に出てくる「見込み客判断シート」は面白いアイデアだなと思いました。

第8章 最大の過ちから学ぶ

ビジネスはデザインプロジェクトである。デザインリーダーにとってはデザインの技巧を学ぶより、事業経営の技巧を学ぶ方が重要。模範的な良いデザインは、ほとんどの場合、物語のあらゆる側面を理解することから始まる。厳しすぎるリーダーになるより、共感を持って失敗に対処することで信頼を得るリーダーになることで、より深い洞察を得ることが出来る。創造的になれる場所を用意することがデザインリーダーの最優先事項である。デザインリーダーであることは単にプロダクトをデザインすることではない。大半は人と期待を管理することである。間違ったコミュニケーションはすべてのデザインプロジェクトにおいて最大の問題を引き起こす。デザインリーダーの特徴は、過ちはあるものと心得て人生に取り組む能力。従業員とクライアントの期待を管理する。大げさな約束はしないこと。現実的な期待感を抱かせることが最良の方法。

全体

デザイン書籍と思って読み始めると文字しかない&抽象的な話が多いので結構読むのに時間かかっちゃう人も多いかと思います。私はデザイン会社経営も組織でのデザインリーダーもいくつか経験している人間なのですが、読みながらそうなんだよねー、なるほどそういう考え方もあるのかーと学びは多かった印象です。

BNNさん、ありがとうございました。

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