マガジンのカバー画像

アンビバレンス

84
どんな形容詞も邪魔だ。
運営しているクリエイター

記事一覧

二月の詩

二月が嫌いだ。固くなった雪の跡。いつがサヨナラだか知らない間に、二度と会えなくなる。使いかけのライターだけ、残されたって困るね。宙に浮いた言葉ばかりいつまでも降り注ぐ。くさくなったマフラーを洗いたいような温存しておきたいような泣きたいような気持ちで春を信じる。見る、聞く、引き戻される。迎える腕はもはやないのに、馬鹿正直な僕のからだは飢えを訴える。苦しいそうです。出会わなければよかった、って綺麗ごと

もっとみる

騙されてもいいや

二人で夜道を歩いていた。まんまるの満月は妙に紅く染まっていて、ドラキュラが出てきてもおかしくなかった。

きっと愛し合っていたにも関わらず、私たちは手を繋ぐでもなくキスするでもなく、お互いが以前した男とのセックスの話をしていた。

内に秘めたもので噛み付く牙を私は彼女に対して押しとどめていて、それどころかすっかり神聖な気分にさせられていた。その頃には私は好きな相手の体験談に血迷った嫉妬を禁

もっとみる

アウラ

大きな欠陥を、もう見抜いてしまいましたか。あまりにも自明だけれど。悔しいとか恥ずかしいとか、もう全部の感情がどうでもよくなってしまった。きみも、わかっているんだろう。

人の絵が、描けないんだ。人でなしの僕には、人の絵を描くことは不可能なのだ。

ヨーロッパ圏の文化では特に、人間賛美のオンパレードだね。僕の絵は美術館の地下の角部屋に展示されることも叶わず、路上で人の目につこうと粘っていたら

もっとみる

清朝(成鳥)

固まった使用済みコンタクトレンズを蛇口に貼り付ける不躾さを自身に恥じるほど、彼女との生活は懐かしく馴染み、それでいて規律正しく機能していた。

洗面所を出ると、彼女が並べた机の上に寝袋を敷いて眠っている。効き過ぎた冷房を気遣って深夜に彼女の生脚にパーカーをかけたのだが、それは肌けて床に落ちている。

奇妙な寝床だった。無償で泊めてくれるキリスト協会の一室には、小学生用の机が無造作に並べられ

もっとみる
『思い出のマーニー』

『思い出のマーニー』

魔法使いみたいな言葉遣いをする人がいるもので。その人といると、心地よい宇宙旅行をしている気分になるの。ふわりと漂って、呼吸も忘れる。それでも、生きていける。星々の瞬きは、二人を歓迎しているよう。

それはきっと、運命に導かれている。だから何一つ無理はしないで、リンゴが木から落ちたり風船が空へ舞い上がったりするのと同じく、ごく自然に幸せが降り注いでくる。怖いくらいの幸せだ。

『思い出のマー

もっとみる
蛇

あっちは素晴らしいのよ。
こちらもいい所でね。
こんなのはどうだい。

僕はにょきりとついて行った。首を伸ばして、舌をちゅるちゅるさせながら。

一、ニ、三…。

ぎゅっとか、ぶちっとか、窒息すれすれの音がした。
律儀にいいとこ取りをした頃、僕は動けなくなっていた。長い体が絡まって、幼稚園生の下手くそなリボン結び状態でさ。

全部丸呑みにしたからだ。大事なものだけ取り込めばよかった

もっとみる

ジェンガの詩

ひと休みするとき君は忙しく
私が泣くとき君は笑う。
アンバランスでしか生きられないのね。

君が言葉を語るとき あんなに一生懸命だったのに
私は余所見して 景色を見ていた。
とても綺麗だと振り返るとき 君は信号の先に。

最後の一歩になる前に総崩れすること
それだけがありがたい希望だった。

惑星を支える透明な糸で繋がり
波打つ罵倒とは分離してたしかにそっと
私と君はいた。

わた

もっとみる

一生友達。

二日間も禁酒続かなかったと照れまじれに嘆く友人は、ミルク多めのアマレットミルクを口に含む。
偶にはオシャレなバーに行きたい大学生後半戦。とはいえ醒めない酔いに屈して、未知のウイスキー等に挑戦するガッツはなかった。

キャンドルの素敵な窓側の席だからいつもの学生街が少しだけ大人びて見える、なんて魔法はかからない。

セックスとか生理とか、雰囲気に削ぐわない言葉が並んでいる気がするけど大丈夫

もっとみる

精神的童貞

世の中全部マニ教なのかと突っ込みたくなる。二元論で飽和している。

「会いたいときに会え」

「孤独こそが人を強くする。会えないときこそ宝だ」

自分の欲求に従えば、相手は離れる。
自分が我慢すれば、相手は幸せであるらしい。

ひとりでいることで、精神は進化したようにも思う、
けれども高まる欲求は退化し、より原始的にただ会いたいと願うようになった。会えば解決するわけでもないのに、ただ側

もっとみる

私は虚数ですから、現実で生きる貴方の役には立ちません。逃避したくなったときだけ振り向かれる夢みたいな存在だという自覚はあるのです。数えることも触れることもできません。しかしそれは無限の包容力を有限の貴方に誇っています。虚しくも、誇り高く。

#詩小説

マトリョーシカ

「ねえかあちゃん、星が光っているよ」
キツネのぼうやは言いました。

「そうだなあ。ぼうは、一番星を見つけるのが得意だね」

その調子でウサギをとっ捕まえるのも早いといいんだけどね、と母ギツネは皮肉を言うのも忘れませんでした。

群青色の空に、ぼうっと一番星が浮かんでいました。

だんだんと、他の星々も見えてきました。
半透明の糸で、星々が神や動物の姿を映し出します。

「ほら

もっとみる

暴動ではなく革命

あらゆる面で真逆な友人がいる。

とはnoteで繰り返し書いたけれど、どれだけ言っても書いても足らないほど、あまりに違うので、今回もまた語らずにはいられない。

どれほど彼女と私が違うかというと、例えば私が大量出血して彼女の血を輸血するとなったとして、血液型としては問題ないのだけど、あまりに異質な存在なものだから管が血を届けた瞬間に私の神経は破裂してしまうかもしれないくらいだ。内側から爆発する

もっとみる

降雹

あいちゃんさっき大人のひとに足ふまれたの、そうなんかぁちゃんと謝ってくれたか、うんゴメンって言いながら足ふんだのそのひと、そうかゴメンって言ってたなら仕方ねえなあ、という電車内優先席の祖父と女の子の会話を聞く。

ごめんとリピートして許される世の中なら、私はあのときあの人をあんなに怒らせることはなかったのに、といつでも回想できてしまうあたり私はまだまだ過去を別モノに消化/昇華させることができな

もっとみる

真逆すぎる友人と自分が、もはや違いすぎて似ているように見える、との指摘を共通の友人からも言われた。
「+17と−17って、なんか似てるじゃん」
スッキリ、する感覚ってこれか。