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春夏秋冬

音楽が枯れてくれたら、生々しさはとっくに消え去っている。煙草を吸う人を好きになってはいけないよ、においで思い出してしまうから、とお婆さんが赤頭巾ちゃんに諭す温度で、それでも時計は動き続けた。
桜の季節になったら思い出す。梅雨になったら相合傘を求める。夏は旅先で待ち惚けた通知を見返す。秋は勧めた詩集を開く。冬はイルミネーションより綺麗だった横顔が浮かぶ。
夢にまで潜入したその人は、砂時計をひっくり返したようにさらりと美しく、音もなく、消えた。
残ったのは内出血に苦しむ私と、見知らぬ種子。

#詩 #春 #冬

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