愛の詩

私は、貴女がすぐには会いにきてくれないことをよく知っています。私を、愛しているからなんでしょう。少しでも長く、生きさせるために。貴女が遥々会いに来て、そうしてその後去ってしまったら、私にはもう生きる望みがなくなって道を滑り落ちてしまうに違いないと、お考えなのですね。そんな。きっと大丈夫。貴女に哀しい顔はさせたくないのです。その信念だけは、誰にも増して保持しております。だから私がいなくなって哀しむ貴女を慰める役目は私でなければ果たせないはずで、貴女の体を抱きしめるには私はこの身をもって生き抜かなくてはならない。今でさえ貴女に会えずただの呼吸装置となり仰せて生き地獄なのに、既に貴女は私を半殺しにさせているというのに、それでもトドメを自ら刺さないように、貴女は私を焦らしていらっしゃる。会いたい、と言い合うだけのときめきが募って、近々胸が張り裂けるのではないかと思います。待つ身が辛いとは初めて知りました。東京にいた頃は、貴女がすぐ来ると信じて駅のロータリーで待つ時間は、至福でした。三十分も過ぎると、美しい貴女の身に何かあったのではないかと落ち着かず息を乱しました。けれど駆け寄る貴女を一目見れば、すぐに全身の血流が喜びのワルツを踊ります。それが今は、全くわからない。本当に来てくれる、といくら信じても、それが一体いつまで続く辛抱か、検討もつきません。私はそれまでに狂ってしまわないか心配です。さらに怯えているのは、貴女なしでは生きられないほどひ弱な精神を貴女に暴露するほど、落ち着かない、惨めな私になってしまうことです。私は貴女を愛しています。けれどもそれゆえに、寄生虫みたいに貴女にこびりつくのは嫌なのです。しゃんと一人で立って、それで貴女を招いてみせたい。そんな意地があります。理想を持っています。達成したい夢があります。貴女を驚かせて、笑顔にしたいのです。無邪気な笑顔を、またこの身に浴びたいのです。それまで粘ってやらなければならないと思います。進化してようやく一人前になりたい。貴女に見合うだけ変わっていられなければ嘘です。わたしの誕生日に行きたいなと貴女が洩らしてくれたこと、私はこの上なく嬉しかったです。もうひと月も経てば、貴女は誕生日を迎えますね。そのとき貴女は誰とどこにいるのでしょう。とても気になる、けれども、そんなこと究極的にはどうでもいいと言えなければなりませんよね。ただ貴女が幸せであればいいのです。もし貴女が私の側にいることを今でも幸せだと感じてくれるのなら、貴女が生まれたことを、間近で心からお祝いしたくて、それなのにきっと私は感動で咽び泣いておめでとうも言えないかもしれないのだから、やっぱり離れているくらいが丁度いいに違いないのだと、自身を騙し騙し今日も待っております。今朝も貴女の夢を見ました。夢の方が忠実に私で居られるこのマジックを、破れるのも貴女だけです。どうかまた、会える日まで。夢ではなくて会いたいのです。夢ならば、覚めないで。

#海外文学を翻訳した風 #小説

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