沈黙

「あ、最近私に連絡した?ごめん、しばらくLINEブロックしてたからさ」

だらしなくベッドに寝そべって生命力を感じながら、日本の友人と通話してそんな報告もした。

日本ではそろそろ日曜の午後が終わる頃で悲しみが増す時間帯だろうけれど、その友人は忙しいのが当たり前の生活を送っているから、何曜日であろうと社会の荒波に揉まれている。

真逆の性質を持ったその友人は、交わることのないような私の生き方を受け入れてくれる。

私は全部がおかしかった。全く、狂っていた。それが疑いなく本性にも思える。初めて刃物を腕に突き刺したいと強い欲求に支配された。それと同時に体が痙攣して、刃物なんか持てる状態ではなかった。生きることも死ぬこともできない。ああ、シュレディンガーの猫。

魂の瀕死状態で俗事に追われて、自分の存在を忌み嫌っていた。そういうとき。LINEはブロックする、スマホは電源を切る。

友人にはやっぱり驚かれた。スゴイとも言ってくれた。わたしだったら誰かに電話かけちゃう。

その誰かが今日は私だったので、友人の声にならない声をじっと聞いて、やるせなく落ち着いて来てから、ああそうだ自分はこの大事な友人のことも数日ブロックしていたのだけどその間に何か連絡が来なかっただろうか、と事務的な疑問が降ってきたのだ。

私は自分の世界を破壊してしまいたくもなるけれど、そこに他者を道連れにしたくない、と無意識でも意識されている、優しさというよりは諦めといった方が正しい感覚が、見事なストッパーとなってくれた。

私は好きな人にまで、だからこそ、酷い暴言を吐くかもしれなかった。

ドイツに会いに行けます、と遠距離にいる私のために文字通りものすごい金と熱量をかけて飛んで来てくれるその人に。
「ドイツに来るな。会いたくない。しばらく連絡を断ちましょう」それくらいのことは平然と言っただろう。そう本当に文章を打って、ギリギリのところで送信しないで自分の中だけに抑え切って。もっと忠実に、ぐじゃぐじゃに全てをすり潰したかった。

あんまり美しすぎて憎いのだ。私はあなたのそばにいるには相応しくない、苦しい、幸福に怯えてしまう。

私は一個体の私だけではあれない。魂、精神、体。それぞれがいくつもにバラバラになり、引っ張られ、互いに傷つけ合う。

私であって私でない化け物が、好きな人を傷つけようとする。それは駄目だ、決してしてはいけない、と別の私が引き止める。ありがとう、それがせめてもの正解だったよ。

一部分の感情の発露で大切な人を傷つけてはならない。私はだったら黙っていろ。

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