こんな変な再会あるものか。

その日も私は塩おにぎりみたいな平静な顔でいつものバイト先へ行った。通っていた大学の隣に位置するため、バイト全体も一個のサークルの雰囲気がある。店長は若い時さぞヤンチャしてただろうなあと思わせる元気なおばさんで、鍛えられた腕一本で大鍋に潜むカレーをかき回す。そこでバイトし始めてから世間でいうところの味覚障害だったに違いない私は、そのスパイスいっぱいのマグマ色に煮えたカレーを美味しいと思っていた。

店長が、新しい子を紹介するねと新人さんを呼んできた。佇まいからしてやっぱり同じ大学の人なんだろう。聞くと、私と同じ大学の同じ学部の人だった。彼女は私を見るなり「前に会ったことあるよね?」と生命力ある瞳で言ってきた。

まるで記憶がなかった私は、覚えてないと素直に答えると、「ほら、前に私にビールくれた」と何でもないことのように言われた。

思考回路がドドンパ級に滑走し、一瞬で思い出すことができた。そうだ、私は彼女に飲みかけの缶ビールを押し付けたことがあったのだ。

「あっ思い出した!2015年10月××日の××時頃会ったよね!?」と私は言っていた。サイコパス?!と驚かれた。当然の反応かもしれない。ついさっきまで全然覚えていなかった相手が、急に具体的な日時まで叫んだらそりゃキモチワルイ。私は数字記憶能力が無駄にいいのである。

その2015年10月××日××時、私は顔の広い友人と共に歩いていた。横断歩道を渡る。すると、向こうから渡ってくる人は友人の友人だったらしく、熱のある挨拶が始まる。友人の友人としてお互いを認知した私と彼女は、些細な言葉を交わした、はずだ。

それから私は持っていた缶ビールを指して「ビール好き?多いから、あげる!」とかなんとか言って、会って10秒もしていないさっきまでの他人に、自分の飲みかけの缶ビールを渡した(押し付けた?)のだ。

その相手が今、バイト先の同僚みたいな立ち位置で目の前に立っている。こんな変な再会あるものか。


#エッセイ #小説 #大学

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?