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如意宝珠を求めて | 『大智度論』の物語

釋迦文尼佛本身,作大醫王,療一切病,不求名利,為憐愍眾生故。病者甚多,力不周救,憂念一切而不從心,懊惱而死,即生忉利天上。自思惟言:「我今生天,但食福報,無所長益。」即自方便,自取滅身,捨此天壽。生婆迦陀龍王宮中為龍太子。其身長大,父母愛重,欲自取死,就金翅鳥王,鳥即取此龍子於舍摩利樹上吞之。父母嘷咷,啼哭懊惱。

釈迦仏は過去世に、あらゆる病気を治せる医者になったことがある。名声やお金を求めるためではなく、人々を憐れむため診療していたが、患者が多く、とても救え切れる数ではないので、心配し、悩んで亡くなった。人間界で死ぬと、忉利天に生まれたが、「今、天上に生まれたのはいいけど、ただ福を消費するだけで、福を新たに作り出すことはできないのは良くない。」と考え、天人である寿命を自ら捨ててしまった。その次には、婆迦陀龍王のもとで、王子として生まれた。体が大きく、父母からたいへん可愛がられたが、その生にはやはり満足できず、わざと舎摩利しゃまりの木の上に這い上がって金翅鳥こんじちょう(龍の天敵)王に呑み込んでもらった。我が子を失った龍王夫婦は泣き叫び、深く悲しんでいた。

龍子既死,生閻浮提中為大國王太子,名曰能施。生而能言,問諸左右:今此國中有何等物,盡皆持來以用布施!眾人怪畏,皆捨之走。其母憐愛,獨自守之。語其母言:「我非羅剎,眾人何以故走?我本宿命常好布施,我為一切人之檀越。」母聞其言,以語眾人,眾人即還。母好養育,及年長大,自身所有,盡以施盡;至父王所,索物布施,父與其分,復以施盡。見閻浮提人貧窮辛苦,思欲給施而財物不足,便自啼泣,問諸人言:「作何方便,當令一切滿足於財?」諸宿人言:「我等曾聞有如意寶珠,若得此珠,則能隨心所索,無不必得。」菩薩聞是語已,白其父母:「欲入大海求龍王頭上如意寶珠。」父母報言:「我唯有汝一兒耳,若入大海,眾難難度。一旦失汝,我等亦當何用活為?不須去也!我今藏中猶亦有物,當以給汝!」兒言:「藏中有限,我意無量。我欲以財充滿一切,令無乏短,願見聽許,得遂本心,使閻浮提人一切充足!」父母知其志大,不敢制之,遂放令去。

龍の子は死んで、閻浮提えんぶだい(地球人類が住む世界)で大国王の太子として生まれた。その名前は能施のうせという。生まれた時から人間の言葉を話し、周りの人々に「この国の施せるものを全て持ってこい!」というので、みんながびっくりし、怖がって逃げまわっていた。子を守るためひとりだけ取り残された母親に「人喰い鬼でもないのに、なぜ彼らは僕を見て逃げたの?生来、人に与えることが好きなタチで、すべての人々のために施したいと思うのだ。」というと、母親は彼の言葉をみんなに伝え、人々は戻ってきた。太子は大きくなると、自分自身の所有物を残さずに人に施し、そして、父王の所に行って物を求めてはまた残さずに施していた。閻浮提の人々が貧しく苦しんでいる(貧しさゆえにさまざまな罪を犯し、その結果苦しむ)のを見て、さらに与えようとするにもかかわらず、物に限りがあることを泣き嘆き、人々に「どうすれば、世の中の人々が物を欠くことのないようにできるのか?」と尋ね、宿人たちは「如意宝珠चिन्तामणिの話を聞いたことがあります。この宝珠があれば、求めるものは何でも手に入ると言われています。」と答えた。太子はそのことを聞くと、父母に「龍王の頭上にある如意宝珠を求めて海に入ります。」と伝えると、父母は「私たちにはお前一人しか子供がいない。海に入ると、どんな困難に遭遇するかはわからない。万が一お前を失ったら、私たち二人は生きていて何の意味があるのか?行くのをやめなさい!蔵にはまだ何かしらあるし、全部やるから!」と答えた。太子は「蔵にあるものには限りがある。僕の施す心には限りはない。財物で世の中の全ての人々を満たし、欠乏のないようにと願っているのだ。閻浮提の人々のために、どうかお許しを!」と嘆願した。父母は大志を抱いた彼を止められず、行かせた。

是時,五百賈客,以其福德大人,皆樂隨從;知其行日,集海道口。菩薩先聞婆伽陀龍王頭上有如意寶珠,問眾人言:「誰知水道,至彼龍宮?」有一盲人名陀舍,曾以七反入大海中,具知海道。菩薩即命共行。答曰:「我年既老,兩目失明,曾雖數入,今不能去!」菩薩語言:「我今此行,不自為身,普為一切求如意寶珠,欲給足眾生令身無乏,次以道法因緣而教化之。汝是智人,何得辭耶?我願得成,豈非汝力!」陀舍聞其要言,欣然同懷,語菩薩言:「我今共汝俱入大海,我必不全,汝當安我尸骸,著大海之中金沙洲上。」

その時、海に入る商人が五百人いたが、太子が人徳のあり、強運な人だとわかり、皆喜んで従おうとして、太子の出航日を知り、みんなが海へ通じる道に集まってきた。太子は婆伽陀龍王の頭上に如意宝珠があることを聞いたが、どうやってそこに行けば良いかはわからず、人々に「龍の宮へ行く道のわかる人はいるかい?」と尋ねると、中に陀舍ダッシャという目の見えない人がいて、彼はかつて7回も海に入ったことがあり、海の道路を熟知しているという。だが、太子に同行を命じられると、陀舍は断った。「私は年老いて目が見えなくなったため、昔のように海に入ることはもうできません。」太子は、「私が如意宝珠を求めるのは、自分自身のためではなく、すべての人々のためです。みんなが物に不自由のないよう、そして、教化が受けられるようにしたいと思うからです。あなたは智慧のある人ですから、断る理由は無いでしょう。もし、私の願いが叶うなら、それもあなたが協力してくれるおかげではないでしょうか?」陀舍はその言葉を聞いて考えをあらためて喜んで同行することにしたが、太子に「これから一緒に行くけど、私は絶対に生きて戻れない。どうか私の屍体を海中の金砂の洲に安置してください。」と頼んでおいた。

行事都集,斷第七繩,船去如馳,到眾寶渚。眾賈競取七寶,各各已足。語菩薩言:「何以不取?」菩薩報言:「我所求者,如意寶珠,此有盡物,我不須也。汝等各當知足知量,無令船重,不自免也!」是時,眾賈白菩薩言:「大德!為我呪願,令得安隱!」於是辭去。陀舍是時語菩薩言:「別留艇舟,當隨是別道而去。待風七日,博海南岸,至一險處,當有絕崖,棗林枝皆覆水。大風吹船,船當摧覆!汝當仰板棗枝,可以自濟。我身無目,於此當死。過此隘岸,當有金沙洲,可以我身置此沙中;金沙清淨,是我願也!」

準備が整い、7番目の縄が断たれ、船は疾走し、しばらくすると宝物のたくさんある中洲に到着した。商人たちは競って様々な宝物をこころゆくまで取った。そして、太子に「なぜ取らないのですか?」と尋ねると、太子は「私の求めるのは如意宝珠であり、ここにあるような有限な物ではない。君たちはそれぞれ足を知り限度を知り、船を重くしないようにしなさい。」と答えた。その後、商人は自分たちの安全を代わりに祈願するように太子(徳のある人の呪願はよく効くため)に頼み、別れた。陀舍は太子に「船を残して、私たちはこちらの道を進みましょう。風が七日間吹いたら、南岸まで航海し、ある険しい場所に到着すると、断崖が見えるはずです。そこには、枝が皆水に浸かった棗の林があります。その後、強風によって船が転覆しますが、あなたはそれらの枝に身を乗せると、命は助かります。だが、私は目が見えないので、そこで死ぬでしょう。そこを過ぎると、金沙の洲がありますので、私の体をそこに置いてください。穢れのない金砂に骨を埋めるのは私の願いですから。」と言った。

即如其言,風至而去。既到絕崖,如陀舍語。菩薩仰板棗枝,得以自免。置陀舍屍,安厝金地,於是獨去。如其先教,深水中浮七日,至垒咽水中行七日,垒腰水中行七日,垒膝水中行七日,泥中行七日。見好蓮華,鮮潔柔軟,自思惟言:「此華軟脆,當入虛空三昧,自輕其身。」行蓮華上七日,見諸毒蛇,念言:「含毒之虫,甚可畏也!」即入慈心三昧,行毒蛇頭上七日,蛇皆擎頭授與菩薩,令蹈上而過。過此難已,見有七重寶城,有七重塹,塹中皆滿毒蛇,有三大龍守門。龍見菩薩形容端政,相好嚴儀,能度眾難,得來至此,念言:「此非凡夫,必是菩薩大功德人!」即聽令前,逕得入宮。

その言葉通り、風が吹くのを待ってその場所を後にした。断崖に到着すると、陀舍の教えに従い、枝の上に身を乗せて死を免れた。太子は陀舍の屍体を金の砂に埋めてから一人で去っていった。あらかじめ教わっておいた通り、深水の中で7日間もぐり、喉までの水の中で7日間歩き、腰までの水の中で7日間歩き、膝までの水の中で7日間行き、泥の中をまた7日間歩いた。すると、一面に蓮の花が見えるところに来た。清らかで美しい蓮だった。ふんわりとした花びらを傷めないように、「虚空三昧こくうざんまい」に入り、体を軽くして通り過ぎようとした。蓮の花の上を7日間歩くと、今度は毒蛇をたくさん見つけた。そこで、「慈心三昧じしんざんまい」に入り、毒蛇の上を歩こうとすると、蛇らはみな、太子の足を受けようとして頭を差し出した。こうして7日間が過ぎると、7階建てのお城が見えてきた。その周りには堀が7つあり、中に蛇がうようよいた。毒蛇だった。そして、守衛に3匹の大柄の龍がいた。守衛の龍は太子が容姿端正で、風采のある人と見て、さらに、様々な困難を乗り越えてここまで来たことを知り、「これは普通の人ではない、必ず菩薩並みの大きな功徳を積んだ人に違いない!」と思い、宮殿へ入ることを止めなかった。

龍王夫婦喪兒未久,猶故哀泣;見菩薩來,龍王婦有神通,知是其子,兩乳汁流出。命之令坐,而問之言:「汝是我子,捨我命終,生在何處?」菩薩亦自識宿命,知是父母,而答母言:「我生閻浮提上,為大國王太子。憐愍貧人,飢寒勤苦,不得自在,故來至此,欲求如意寶珠!」母言:「汝父頭上有此寶珠,以為首飾,難可得也!必當將汝入諸寶藏,隨汝所欲,必欲與汝。汝當報言:『其餘雜寶,我不須也,唯欲大王頭上寶珠;若見憐愍,願以與我。』如此可得。」


龍王

龍王夫婦は子供を亡くした心の傷が未だに癒えず、おりに触れては悲しんでいた。菩薩(太子のこと、以下は菩薩と書く)を見て、神通力じんずうりきを持つ龍王后が、それが自分の子だったことがわかり、思わず乳汁が流れ出した。彼に座席をすすめ「あなたは私の子だった、私を捨てて今はどこに生まれているの?」と尋ねた。菩薩も自分自身の前世がわかり、彼らが昔の父母だったことを知っているので、母親に答えた。「閻浮提に生まれて、大国の王太子になったが、貧しい人々が飢えや寒さなどで苦労することが多く、財物に不自由であるのを見て可哀想に思い、如意宝珠を求めるためここまで来たのだ。」母は「如意宝珠は、お父様の頭にあるけど、飾りとして愛用しているので、簡単には手放さないと思う。あなたを蔵の中に連れていき、欲しいものは何でもやるというでしょう。その時に、『大王の頭上にある宝珠以外は何もいらない。もし、私のことを思ってくださるなら、それをください』というようにするといいわよ。」と教えた。

即往見父。父大悲喜,歡慶無量;愍念其子,遠涉艱難,乃來至此,指示妙寶,隨意與汝,須者取之。菩薩言:「我從遠來,願見大王,求王頭上如意寶珠;若見憐愍,當以與我,若不見與,不須餘物!」龍王報言:「我唯有此一珠,常為首飾,閻浮提人薄福下賤,不應見也!」菩薩白言:「我以此故,遠涉艱難,冒死遠來,為閻浮提人薄福貧賤,欲以如意寶珠濟其所願,然後以佛道因緣而教化之!」龍王與珠而要之言:「今以此珠與汝,汝既去世,當以還我!」答曰:「敬如王言!」

菩薩が父に会いに行くと、父は深く悲しむと同時に、たいへん喜んだ。自分の子が、困難を乗り越えてはるばる来ていることを思いやり、素晴らしい宝物などを見せ、欲しいものを取るように勧めた。すると、菩薩は言った。「遠くから参ったのは、大王に如意宝珠を恵んでいただきたいからです。もし私になさけをかけたいつもりなら、如意宝珠をください。他は何も要りません。」
「私には宝珠が一個しかない、いつも飾りとして大事に使っているのだ。閻浮提の人間は福が薄い下賤の者ばかりで、こんな良い物を見る資格はない!」
「だからこそ、命懸けて困難な旅をしてここまで来たのです。如意宝珠の力を借りて、福の薄く貧しい閻浮提の人を助け、そしてその後で仏の教えと縁を結んでやるため、ここに来たのです!」と菩薩が再度願うと、龍王は珠を出して渡し、「わかった。この珠をお前に渡すけど、お前が世を去るとき、わしに返すんだよ!」と念を押した。
「はい、約束します!」と菩薩は答えた。

菩薩得珠,飛騰虛空,如屈伸臂頃,到閻浮提。人王父母見兒吉還,歡悅踊躍,抱而問言:「汝得何物?」答言:「得如意寶珠。」問言:「今在何許?」白言:「在此衣角裏中。」父母言:「何其泰小?」白言:「在其神德,不在大也。」白父母言:「當勅城中內外,掃灑燒香,懸繒幡蓋,持齋受戒。」明日清旦,以長木為表,以珠著上。菩薩是時自立誓願:「若我當成佛道、度脫一切者,珠當如我意願,出一切寶物,隨人所須,盡皆備有!」是時,陰雲普遍,雨種種寶物,衣服、飲食、臥具、湯藥,人之所須,一切具足。至其命盡,常爾不絕。

菩薩は珠を手に、空に飛び上がり、瞬く間に閻浮提に戻った。人間界の父母は我が子が無事に帰還するのを見て喜び、抱きしめて尋ねた。
「何かを手に入れたか?」
「如意宝珠を手に入れましたよ」
「今はどこにあるの?」
「裾の裏にあります。」
「なぜこんなに小さいのか?」と父母が訝しんだ。
「その力は、大きさに関係するものではありません」そして、父母に「城の中でも外でも、人々に掃除をし、香を焚き、家屋を飾り付け、斎戒さいかいをするように命じると良い」と勧めた。

そして、その翌朝、長い材木の上に宝珠を置き、菩薩は誓願を立てた。「もし私が仏道を成就し、いきとしいけるものを解脱に導くのであれば、この宝珠は私の意のままに宝物を出し、人々の必要に応じて全てを備えるように。」

いきなり雲が立ち込め、さまざまな良い物が雨のように天から降りかかり、衣服、飲食、寝具、薬、人々の生活に必要なもの何もかもあった。菩薩が亡くなるまで、絶え間なく続いたのだ。

龍樹नागार्जुन菩薩『大智度論』  鳩摩羅什くまらじゅう 漢訳