カジノ紀行 第13回「ラスベガス総括」

 帰国して早や1ヶ月が経とうとしていますが、日本も暑いですね。やはり湿度、熱気が暑苦しさを増長しています。私もここ最近はどうにも気怠く、日中は動き回っていますが、夜は飲み会を減らして安静にしています。この猛暑も半分を折り返したので、なんとか病気せずに秋を迎えたいですね。

 さて、2回目のラスベガス紀行に関しては今回で総括します。観光内容やポーカーの戦歴を詳らかに書いていくと膨大な文字数になるので、要所だけお話することにしました。

 まず観光に関しては、前回、シルクドソレイユを観に行きました。MGMホテルのシアターでやっているKAです。これは1時間半のショーを2人で220ドルというなかなかの金額でしたが、内容は素晴らしく、他のショーも観たいと思いました。ちなみにシルクドソレイユはサーカス団であり、ラスベガスの各所でショーをしています。MGMのKAは中でも主役級ですが、もうひとつ主役級があります。それはベラージオのOです。

 ということで、翌週に観に行くことにしました。
 道端にあるチケット屋でチケットを購入します。

 なんと2人で355ドルでした。日本円で4万円弱です。KAの220ドルで「高い」と思っていたら、さらに上を行きましたね。価格設定が強気すぎます。これには参りました。

 とは言え、やはり内容は素晴らしかったです。KAも良かったですが、Oも凄かった。サーカスというより新体操、完全にオリンピックレベルです。むしろオリンピック選手の就職先という感じです。生で観ると迫力満点でした。

 7月初めに笑点で知られる歌丸師匠が亡くなりましたが、昨年2017年のインタビュー記事で「今日来たお客様は明日は来ない」という話をしていました。映画とは違って生身のショーですが、毎日同じショーをしていたとしても、見に来たお客さんは常にその時だけです。その為、「昨日は失敗したけれど今日は上手くいった」なんてことは赦されません。毎回が全力ということですね。内容自体も然ることながら、感動というのはこういうところにもありますね。

 以下は見所の抜粋です。音楽も非常に良かったので、BGMにどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=ku0P5Fdv0Tk&list=PL767CEBF8C7149B05

 KAは最後に花火で爆発していましたが、Oはプールがあるので飛び込んで泳いでいました。閉幕と同時に観客が立ち上がって拍手喝采、ピューピューと口笛が鳴っていたのはアメリカチックな感じが楽しめました。

 満足して帰宅した後、何か思い出の品が欲しいと思い、翌日にキーホルダーを買いに行きました。

 やはり思い出は形に残ったほうがいいですね。ひとつ12ドルなので、そこらに売っているキーホルダーの数倍はしますが、これは色合いが良いです。帰国後、思い出の品々を秘蔵している箱に入れました。本当に良い思い出になりました。

 この他、水族館に行ったりジョットコースターに乗ったりもしましたが、日本のそれと特に変わりありませんでした。違いはアメリカ人やメキシコ系・ヨーロッパ系が沢山いることくらいで、人の関心というのは万国共通だなと感じました。ちょうどこの夏で戦後73年目(終戦は1945年)です。私が大学生の頃、アメリカに留学すると祖母に伝えたら「なんでそんなところに」と涙を浮かべていたのを思い出します。その気持ちは、近い未来、我々の子供たちが「北朝鮮に遊びに行く」なんて言い出したときに初めて分かるのかもしれませんね。

 さて、私の戦いはポーカーです。
 先に総括として、戦歴を一覧にしました。

 結論から言うと、賞金3000ドル以上のトーナメントは全敗、収支はプラスではあるものの、暇潰しにやっていたスロットのほうが儲かりました。合算すると+1500ドルくらいですが、旅費・宿泊費・交遊費を引くと大幅マイナスです。来年のWSOPに向けた《練習》となりました。

 今回は2つだけ回想したいと思います。
 まずひとつはホテル「エクスカリバー」にて。

 まずはエントリー。2番テーブルの6席目ですね。開始は5000点から。これが曲者で、序盤でも300点や900点の応酬となるので、連敗すれば5000点なんてあっという間になくなります。この「無駄打ちできない」というのが難しく、K5やQ6といった手札で勝負しにいくと、KやQが落ちてくれてもキッカーで負けて痛い目にあう場合があります(K5持ちとKQ持ちがお互いにKペアで勝負になった場合、KQの勝ち)。なので、序盤からでも迂闊には参加できません。

 このトーナメントには3回ほど参加してから、以上の仕組みを理解しました。中には最初から1000点や2000点ものチップを投げ入れる人もいます。こうした傾向があるので、それまでは98やら33でも参加してストレートやスリーカードを狙いましたが、この回ではすべて棄てました。

 開始から30分後、クローバー同士のKと10が来ました(ちなみにKと10のハンドをKTと言います。TはTenのTです)。これはKがヒットしても10がヒットしてもなかなか強い手ですし、ストレートとフラッシュも狙えます。この場では私以外に3人がリンプインしました。

 フロップはKT2と来ました。クローバーは落ちなかったのでフラッシュは無理筋ですが、ツーペアです。KKやTTなら最初にレイズしているはずなので、怖いのは22持ちですが、確率は相当低いです。ひとりが先にレイズしたので、私はコール。すると後の一人がリレイズしました。最初のひとりはあっさりフォールド。たぶん2か10だけヒットして打診のレイズだったのだろうと思います。

 怖いのはAQとAJです。まだターンとリバーで2枚落ちてくるので、ストレートを引かれると負けます。ただ、このおじさん、これまでの展開ではがんがんレイズした後にショウダウンしたのがワンペアだったりして、今回もKのワンペアのみで強気になっている可能性が高いです。なので私はさっさとオールインしました。おじさんは間髪入れずにコール。

 おじさんが見せたのはKJでした。Kのワンペアですね。Jが落ちるかQとAか9が来ると負けますが、そうはならず私が勝ちました。破産したおじさんは即座に「リバイ」と言って、お金を払い、再び5000点を貰いました。

 5000点チップはプレイヤー1人分のチップです。これが1枚あれば、しょぼ手でも参加できる余裕が生まれます。なんといっても慎重にならざるを得ないので、参加率は少ないですし、レイズすればあっさりフォールドしてくれます。なので、特急券を得たも同然です。

 ちなみに先程リバイしたおじさん、初手のハンドでレイズしたら若者にオールインされて、また即座にコールしてしまいました。若者がAKでおじさんがTTでした。しかしあっさりAが落ちて、おじさんは再びの破産。頭を抱えて「unlucky」と呟くと、立ち上がってポーカールームを出て行きました。TTを棄てられない気持ちも分かりますが、AKでオールインした若者も迂闊というか無慈悲というか。おじさんがちょっと可哀想な気もしました。

 その後、私の手元にJTが来ました。これはストレートを狙う上で好きなハンドです。ここらへんは好き嫌いが分かれそうですが、AQとAJは強いものの「勝っているか負けているか分かり辛い」「勝ったと思ったら負けていることがある」といった難点があり、このJTやT9は「勝ち負けが分かりやすい」「負けていると思えばあっさり棄てられる」というのが良いです。特にストレートになった場合、ワンペアやツーペアで突っ込んでくるプレイヤーを吹っ飛ばせるので得点率も高いです。

 そして運命のフロップは、8QJでした。この時点でJのペア、9が来たらストレートです。T9から既にストレート完成ですが、流石にT9でリンプインする人は少ないですね。このときはQを持っていると思われる人からレイズが来て、私はコールしました。残り2枚で9が来てくれれば最高です。が、来たのはJでした。私の手役はスリーカードとなりました。

 88ないしQQを持たれていなければ勝利確定です。でもQQなら初手でオールインか3倍以上のレイズが来ているはずなので、怖いのは88です。こればかりは分かりませんが、相手が小さめのレイズをしてきたので、私はオールインしました。

 私が冗談めかして「スーパーオールイン」と宣言すると拍手が起こりました。何人かが立ち上がって、乗り出します。チップ遊びでシャッフルしていたので、点数が混ざっていますが、オレンジの5000点チップが数枚あるので相手は命懸けです。しかしあっさりコール。私も立ち上がりました。

 相手はATのクローバー同士でした。なるほどフロップでクローバーが2枚かつQJが落ちているので、ストレートおよびフラッシュの狙い目です。クローバーかKが来たら私の負けです。確率は最大25%くらい。

 ディーラーがゆっくりとカードを引き、ペロリとめくったのはスペードの6でした。私の勝ちです。負けた相手は全てのチップを私に寄越し、立ち去りました。

 その後しばらく勝ち負けましましたが、チップ数を維持し、上位陣に入っていました。A6は棄てて、A3ではリンプインします。理由はA3ならA2345のストレートが狙えるからです。この他、フロップで何も当たらなくても、ターンとリバーを見に行きたいときは少額レイズするのが良いと分かりました。チェックして回すと、相手がレイズ額を決めてしまうので、大きなレイズを叩き込まれる可能性があります。先にレイズしていれば迂闊にブラフはされませんし、レイズする気だった人もコールに留めてくれるかもしれません。もしレイズにリレイズして来るようなら「私のほうが勝っていますよ」と教えてくれるようなものなので、早々にフォールドします。仮にブラフだったとしても「ブラフしたら降りてくれる」と思ってもらうことで、役が入ったときにブラフさせてカウンターすることも可能です。

 ともあれ、十分なチップ数なので、腰を据えて増やすことより減らさないことを意識しました。1周で1回勝てば強制ベッド分の元が取れるので、弱い手は早々にフォールドします。そうして繰り返している内に休憩となりました。

 参加者は27人で、この時点で20人でした。賞金は3位までで、1位が432ドル、2位が259ドル、3位が173ドルですね。実はこの前日に3位を取っていたので、この日は何としても1位になりたいと考えていました。勝負手が来ればチップを押し出す覚悟です。

 休憩が明けると100点チップが両替されていました。
 ブラインドが500点-1000点になって、どんどん人が減っていきます。

 30分後、私はちょこちょこ増えつつ、他ではオールイン合戦が繰り広げられていました。私の後からオールインされてもいいように、76やK9のようなハンドは全て棄てます。怖いのはAJやKQです。フロップを見てペアが出来れば勝負にも出れますが、最初の2枚の状態では心もとないですね。チップが減ってきて、早々にオールインする人というのは77や44といったハンドだったりもしますが、運が良ければAAやKKも当然あります。となれば、リンプインするかどうかは、イコール「オールインできるかどうか」です。

 と、ここで運命の手札が来ました。JJです。これは間違いなく強い分類ですが、かと言ってJJより強い手札も沢山あります。棄てるには惜しいので、リンプインします。すると来ました。4人がフォールドしてからのオールインです。そして私の番まで全員がフォールド。さあ、どうする。

 私は立ち上がって頭を抱えました。実はこのオールインして来た相手、このトーナメントでは顔なじみで、和気藹々とジョークも交えていました。白人と黒人のハーフで、メキシコ系にも見えるナイスガイです。年齢も近く、ポーカーのレベルも同程度であり、今回も完全なブラフではないでしょう。かと言って、AAやKKを持っている確率も低いので、あるとすればATかKQあたりと読みました。最後は運勝負です。

 チップ数は私のほうが多かったので、負けても退場ではないですが、その後の勝機は失います。本当を言えば、この野郎とはこのまま1位と2位の争いをしたかった。そしてJJは状況的には降りるべきだったと思います。この時点ではチップを大きく突っ込んでいるわけでもなく、後からもっと勝算のある勝負に出れるはずです。しかしJJは私にとって特別な手札であり、ここで負ければ賞金は望めない状況で、チップを押し出したのはプライドでした。

 全員の目が釘付けになりました。私はチップを押し出してから、JJを叩き付けると、相手のメキシコ野郎も手札を中央に叩き付けました。AQです。マークは違うのでフラッシュ性はないですが、AかQが落ちたら私の負けです。各3枚ずつの合計6枚からですが、フォールド率も高かったので、山札に眠っている可能性が高い。

 ディーラーが重々しい様子で、ゆっくりと開きました。1枚ずつ見えてきます。まず最初の3枚の中にはAもQもありません。又、Jもありません。そしてターン、出ず。最後のリバー、出ず。まるで深海に叩き込まれた状態から、ゆっくり水面に上がってくるように、私のJJは勝ち残りました。

 ディーラーが彼のチップを崩しながら私のほうへと寄せました。メキシコ野郎は荷物を纏めると足早やにテーブルから去りました。しかしポーカールームを出たところでこちらを向きました。目が合います。私は手を振ることもなく、彼が数秒の間を置いてから背を向けたので、テーブルに視線を戻しました。

 これがこのトーナメントの山場でした。まだチップを片付けていない状況で、次に来た手札はAAでした。こんなこともあるんですね。私はチラッと見てから、チップを整列させつつ、手番ではコールだけしました。すると隣の人があっさりオールイン。全員がフォールドして私の番にきたので、1枚のチップを親指で弾いて「コール」宣言。隣のおじさんが意気揚々と広げたのは、KQでした。しかし今回の私はJJではなく、AAです。KかQが2枚来るか、AJTあるいはJT9、あとはフラッシュにでもならない限り、おじさんの勝ち目はありません。ディーラーが再び5枚を並べました。QとJが落ちたもの、そこまででした。

 あっという間に残り3人になり、賞金獲得が決まりました。私ばかりが命を賭け、2人は何もせずに賞金圏に入ったことになります。特に右隣のお爺さんは5000点チップが3枚あるだけでした。血管の浮いたよぼよぼの爺さんですが、生き急いで討ち死にする新兵たちに対して、生き残ってきた老兵の貫禄すら感じます。

 この人数になると自分の番がすぐに来るので、なかなか写真を取るタイミングもありません。チップ数は私が断トツなので、この2人が勝負を付けるまで見送ります。お爺さんの敗色が濃厚でしたが、私のフォールドでチップを稼ぎながら、オールインでも2連勝し、なんと2位争いでチップ数が逆転しました。

 そうこうしている内に77が来ました。レイズすると3位の若者がコールし、お爺さんはフォールド。賢明ですね。私が若者を破産させれば、お爺さんは2位確定です。フロップが開かれると、AJ7でした。ラッキーセブン、7のスリーカードです。おそらく相手はAを持っているはずなので、Aペアで突っ込んでくると思い、私はチェック。読み通り、オールインが飛んできました。

 コールして77を広げると、相手はATでした。フラッシュ性はないですが、KとQが来ればストレートです。まあ、そんなことは起きないですね。ターンとリバーは6と8でした。これで私とアメリカン爺さんの一騎打ちです。

 チップ数は私が3倍以上持っていたので、フォールドさせるだけでも勝てると思い、最初に来たA7でオールインしました。するとお爺さんもオールイン。なんとここでKKを繰り出して来て、フロップにもKが落ちました。いきなり王者の風格を漂わせ始めます。

 しかもこのオールインで6:4くらいになりました。私のほうが多いですが、次のオールイン勝負で負けると1対9になるので、敗色濃厚になります。ここまで勝ち上がってきたのに、こんなところで逆転されるわけにはいきません。まるで干支のネズミとウシではないですか。とにかく勝負手が来るまで全てフォールドします。

 ブラインドも大きいので、フォールド連打で気付けば私のほうが僅かに少なくなっていました。56や49なんかは一瞬で棄てて、K7やA8でも話になりません。そうして棄てに棄てて、ようやく来たのがKJでした。なんとか勝負に出られる役です。私がオールインすると、そろそろ家に帰りたくなったのか、お爺さんも1000点の山をジャラリと流し込んでコール宣言しました。

 出てきたのはA4でした。私なら即座に棄てるハンドですが、このオールイン勝負、KもJも来なければ私の負けです。そして私が負ければ、これで終わりです。

 ディーラーが私のKJとお爺さんのA4を置いて、ゆっくりとした手付きでフロップを開きました。出てきたのは――547!!

 なんと爺さんの4がヒット。Aじゃないので、まだKかJが来れば私の勝ちですが、もう駄目です、心が折られました。KJは勝負手ではなかった。と後悔したとき――

 ターンにJ、そしてリバーにJが!
 Jが助けに来てくれた!

 私が「ジャァァァック!」と指差すと、お爺さん以外の全員が拍手しました。この瞬間だけは残しておきたいと思い、写真を撮らせてもらいました。

 私とお爺さんのチップ数は9対1になりました。次に来たのは64で、お爺さんがオールインしたのでコールしました。3回か4回負けると再び逆転されますが、40%以下の運勝負でも3連敗する確率は20%程度です。お爺さんはKQを広げましたが、フロップで6と4が来てツーペアになりました。勝ちました。優勝です。お爺さんと握手して終了です。

 賞金です。受取のサインする際、ふと周囲を見渡すとJJで勝負したメキシコ野郎がポーカールームの柵にもたれながらこちらを見ていました。きっと次のトーナメントに参加するのでしょう。勝負の場で十分に語り合ったので、何も交わすことなく、私は後にしました。


 続けて翌日、140ドルのトーナメントに行くことにしました。ホテル「アリア」です。

 参加者は平日でも50人以上、だいたい60人から80人は参加しています。優勝賞金は3000ドルくらいです。なんとかこのトーナメントで勝ち星を上げたいものです。

 140ドルを渡してエントリーします。これが2回目でした。1回目は全く運が向かずに敗退、特にストレートドロー(あと1枚でストレート完成の状態)でレイズにコールして引けなかったのが手痛かったです。その後はストレートを諦めて、上位ハンドでのみ手堅く打っていたものの、ツーペアがフラッシュに潰され、フルハウスが上位フルハウスに負かされました。両者拮抗状態から「最後は運」の部分で負けるのがポーカーの理不尽さです。

 ただやはり、「4回に1回は賞金圏にいける」が私の勝率なので、1回目でいきなり勝つのは難しいですね。とはいえ、何回も挑戦できるわけでもありません。時間もお金もかかりますから、常に真剣勝負です。

 これが最初のチップです。12000点あります。5000点スタートのエクスカリバーと比べて、ストレート狙いやクズ手からのツーペア狙いなど、戦略に幅があります。問題はチップに余裕があるので、序盤に500点くらいで勝負しているところに2000点とか4000点といったレイズを仕掛けてくるアグレッシブなプレイヤーも沢山いることですね。

 この回は帰国の前日でもあり、落ち着いて参加するつもりでした。初手はA6が来たので、とりあえずAが入ったことからリンプインしました。するとフロップAK3と来て、Aがヒット、キッカー勝負では不利なのでチェックしました。レイズしても良かったですが、序盤はチェックチェックで進んでショウダウンするのが通常です。

 が、私の左隣、サングラスの若い黒人がいきなりジャラリとレイズしました。200点で参加しているところに600点を入れました。ブラフでなければAかKを持っているはずです。皆がフォールドして私。Aを持っているので、ここはコールしました。ターンできたのは――6!

 私の手札はA6なので、いきなりツーペアです。AAかKK、あるいはAKでなければ私の勝ちです。AAやKKなら初手からもっとレイズしてきそうですし、AKもなさそうです。これは貰ったと思いました。アグレッシブな野郎なので、レイズさせようと思いチェックすると、やはりレイズが来ました。その額、2500点。かなり大きいです。しかし勝っている可能性が高いので、内心は喜びつつ、渋々とした様子でコールしました。

 そしてリバー。これが難儀なKでした。私のツーペアは潰えました(AA66K→AAKK6)。もうチェックチェックでショウダウン勝負したいと思い、チェックすると、このアグレッシブ野郎、オールインしやがりました。

 まだ初手ですよ。始まって1回目です。腹立たしいことにカードも均等にシャッフルされておらず、こうしてKが2枚出る事態となっています。いきなりオールインなんてするなよ、と思っても真っ黒なサングラスに真っ黒な肌、何を考えているかは分かりません。

 私が勝っている確率は60%くらいです。オールインは「フォールドして欲しい」の意志(ブラフ)である可能性も高い。しかし負けている可能性を考えて、仕方なくフォールドしました。フロップとターンでレイズにコールした為、初手から3000点ほど失いました。これは手痛い。

 しかし堅実な撤退が功を奏したのか、2手目に来たのはAAでした。身を切ればチャンスは来るものですね。初手からレイズすると、先のアグレッシブ野郎ともう1人がコールして来ました。この野郎、ぶっ飛ばしてやる、と思いつつ、フロップを見ると47Kと来ました。ストレートを引かれる可能性は低く、レイズにコールするハンドレンジから考慮すればツーペアも確率が低いです。

 私は再び2倍レイズ、アグレッシブ野郎がコール、そしてもう1人がなんとオールイン。平均的なアメリカ人の40代前半くらい。私はオールインすればフォールドすると思われているのではないかと頭に来つつ、即座にオールインコール。アグレッシブ野郎はポイッとフォールドしました。ショウダウン。

 オッサンが何を見せたか覚えていませんが、ディーラーが手早くターンとリバーをめくり、私の勝ち。私は初手で大きく失っていたので、オッサンは退場にはなりませんでしたが、残り僅かとなって、私はチップリーダーになりました。

 そびえる1000点チップ。合計18000点くらいでしょうか。12000点スタートなので、序盤にしては上出来です。その後は手堅くフォールドし続けました。アグレッシブ野郎はどんどんレイズして、ショウダウンに到る前に不戦勝、どんどんチップを積み上げていきました。反感を買うとはいえ、こういう技術も見つけなくてはいけないですね。

 1時間ほどして、KQが来ました。チップの山を築いたアグレッシブ野郎が私の後ろでレイズするので、私はいつもコールのみです。フロップでKが2枚落ちてきました。他のカードでスリーカードになった人がいるとフルハウスで負けますが、そうでなければKのスリーカードは相当強いです。ここでアグレッシブ野郎のレイズに全てコールして、ショウダウン。TTを持っていましたが、私の勝ちです。

 続いて89でリンプインすると、フロップが67Tといきなりストレートが完成しました。アグレッシブ野郎は殊勝にもフォールドしていたので、ポッドは膨らまずにワンペアとぶつかって小勝ちに終わりました。

 積み上がってきました。隣のアグレッシブ君は頑張ってレイズしたところからカウンターを受けて、半減していました。やはりアグレッシブはハイリスク・ハイリターンですね。勝ち上がっているプレイヤーはアグレッシブばかりですが、その裏には他のアグレッシブたちの屍があります。

 しばらくして88が来ました。全員がコールのみだったので、安手でフロップを見に行くとQQ8でした。フルハウスです。加えて、プリフロップの弱弱しさからしてQQ持ちはいなさそうなので、Qの1枚持ちがいたところでスリーカード、私の勝ちです。スロープレイでバリューの引き上げを狙います。まずはチェック、レイズされてもコールのみです。

 そして来ました。隣のアグレッシブ野郎がレイズ、2500点を入れました。あっさり全員がフォールドして一周、私はコール。サングラス越しにこちらを見ていますが、表情はありません。ターンで6が落ちてきて、私はチェック、アグレッシブ野郎が再びレイズで5000点を入れました。怖いのはQを1枚持っていて、もう1枚が8か6という展開です。8は私が2枚持っているので可能性が低いですが、6はありえます。

 そして最後のリバー、このリバーがポーカーの怖さでもあります。いつだってリバーで引っ繰り返ることを懸念しなくてはいけません。今回ここで落ちてきたのが、Aでした。こういうのはやはり見たくないですね。

 私はもうポッドは十分だと思っているので、チェックしました。でもアグレッシブ野郎は赦してくれません。オールインが来ました。私の役は888QQですが、最強(ナッツ)ではありません。このボードではAA、QQ、AQ、Q8、Q6に負けます。

 しかしここは初手の一件もあり、このアグレッシブ野郎にカウンターを入れたいと思いました。かつてはアグレッシブな相手に恐怖を感じていましたが、今や感じるのは不愉快と復讐心です。フルハウス同志で勝負して負けるなら本望でしょう。私はコール。

 相手が広げたのは96でした。
 なんと6のワンペア。
 よもやそんな手でレイズしていたとは。

 さようなら。

 さて、リベンジも果たしたところで、テーブル上でプレイヤーが減ってきました。席替えなどで慌ただしくなりつつ、なかなかツキも来ず、しばらくベタ降りです。チップが目減りするものの、まだ十分にありました。そして来ました。このトーナメントで2回目のAAです。

 初手でオールインするのは勿体ないと思い、ワンペアで突っ込んでくるプレイヤーを飛ばしたいと考えました。レイズはせずにコールのみで、4人が残りました。ここで恐ろしいことが起きました。フロップで出たのがKQ9で、内2枚がスペードでした。

 まずリンプインしていることからKかQあたりは持っているはずですし、ワンペアどころかこの時点でツーペアになっている可能性もあります。そしてフラッシュ狙いでリンプインした人もいそうです。おまけに9QKなので、TJならストレート完成です。AAとはいえ、ワンペアのみの私は敗色濃厚です。

 私の番が先だったので、様子伺いの為にチェックしました。すると誰もレイズせず、ターンが落ちてきました。クローバーの8でした。フラッシュ性は進展しなかったものの、ツーペアの可能性は高くなりました。ポケットペアでスリーカード狙いなら既に4パターンもあります。

 これはレイズするべきと考えて、ポッドの半分、2000点をレイズしました。3人中2人がフォールドして、1人がコール、ヘッズアップ(一騎打ち)になりました。最後のリバーはJでした。スペードではなかったのでフラッシュの危険性は潰えましたが、10を持っているだけでストレートになります。

 私は最後に5000点レイズしました。相手はリレイズで10000点。これは持っているだろうなあと思いつつも、もう5000点払って見に行きました。私はAAを、そして相手はAと10でした。ストレートでした。

 これぞ、リバーですね。初めからJ待ちでコールして来たわけです。プリフロップあるいはフロップの時点でオールインしていればフォールドして貰えたかもしれませんが、ストレートが完成した時点では揺るぎないでしょう。

 がっつり持っていかれたので上位陣から外れましたが、まだ中堅にはいます。どこかでオールインしてダブルアップする必要があります。ここは気持ちを落ち着かせて、雌伏の時です。負けそうな手はフォールドし、22や66が来たらコールしてフロップだけ見に行き、セット(スリーカード)が引けなければフォールドです。

 耐えること20分ほど、QTのクローバー同士が来ました。ストレートとフラッシュが狙える、なかなか強い手札です。3倍レイズした人がいたものの、私を含め4人がコール、5人で勝負となりました。そして出てきたフロップ――AAK!

 逃げ出したくなるようなボードです。5人もいれば、AやKを持っている人はいるでしょう。あるいはペアを持っている人も勝機があります。私はJが来ればストレートになりますが、レイズされれば逃げようと思いました。ところが全員がチェックして、ターンが開かれます。何が来たかは忘れましたが、Jではなかったです。そして再び全員がチェック。リバーが来ます。来ました。心の中で「ジャックよ、来い」と念じたのに呼応するように、ゆっくりとJが開かれました。感動的です。

 しかしあまりにも全員が弱弱しいので、レイズしたところでフォールドされればストレートを引いた意味がありません。かと言ってチェックで回してもバリューが足りません。大負けから耐えに耐えての、今このストレートです。フラッシュの可能性もありません。

 私はまるでブラフをするように、しかし弱弱しく、1000点チップを3枚だけ掴み、転がしました。3000点です。するとあっけなくフォールド、フォールド、フォールドと来ました。残念です。が、最後の1人がフォールドの流れを止めました。口元をマスクで隠している若者です。そして、チップの山から1000点チップを掴み、10枚――1万点を押し出しました。私はこのとき彼が「お前、ブラフだろ? コールできないだろ?」と言っているように感じました。

 ここまで来たら、全力勝負になります。オールインしました。すると相手は顔を上げ、躊躇することなくコール。私はQTを放り投げ、「ストレート」と言いました。そして立ち上がり、相手が見せるハンドを覗き込みました。スリーカードかツーペアか、あるいはブラフか。

 出てきたのはAKでした。
 なんとAKです。まさかのAK!

 これが本当に起きました。
 現実です。
 このバカげた展開にディーラーに対して怒りが湧きました。

 つまりフロップのAAKが出てきた時点で、勝負は付いていました。彼は最強のフルハウスを手にしており、フォーカードの危険性もなく、絶対に勝てる状況で、私からバリューを引き出しました。私はストレートを過信せずに、オールインではなくコールに留めておけば良かった。ということです。

 これで退場となり、終了しました。しかしAKが来て、フロップでAAKが来るような展開が運次第で起きるなら、他の誰かではなく私の手元で起きて欲しいと心から思いました。そして、ちょっと、疲れました。こんなことが起きるのなら、ポーカーで勝ち続けるのは無理だと思いました。20人や30人の勝負では優勝できても、100人から1000人を超える大規模なトーナメントで不運を避けて勝ち残る勇気がなくなりました。少なくとも、この日はそう感じました。

 帰国したら、しばらくポーカーから離れることに決めました。ただ負けっ放しにはしたくないので、これらの経験も踏まえて考え直したこともあります。続きは下部にて。


 以下は今回のラスベガス紀行における【食べたものメモリアル】です。やはり人間、何があっても食う・寝るは至福ですね。

 いやあ、おいしかったです。
 体重は動き回っていたので、特に増えはしませんでした。

 書き切れなかった《こぼれ話》は今後また随所に盛り込んでいきます。一旦総括ということで、3週間に亘るラスベガスでの記録は以上となります。これからの予定に関しては前述の通り少々疲れてしまったのと、ここ最近になって新しく動き出したものがあるので、次回にお話します。


 以下、今回の《読者枠》ですが、これまでの経験から【ポーカーにおける不運回避の為の追加戦術】を考えました。帰国してからはオンラインのトーナメントに幾度と参加し、以前に比べて順位を上げることができるようになりました。

 参加者354人から5人まで生き残る。
 その後3位で終了。

 参加者296人から14人まで生き残る。
 その後11位で終了。

 参加者141人から6人まで生き残る。
 その後4位で終了。

 参加者549人から13人まで生き残る。
 その後12位で終了。

 オンラインポーカーはこのブログを書いている際に手元でやっていたりするのですが、最近は結構な割合で上位まで生き残れています。AAやKKが何度も来たり、89からストレート、44からスリーカードになるような豪運状態もたまにはありますが、やはり問題は27とか38ばかりが来て、ようやく絵札が入ってもQ6やK2程度の不運状態にどうするかですね。

 帰国してからも本は読んでいます。トッププレイヤーのプレイを見ながら「自分ならこうする」と思うこともあります。しかし大きな賞金を得てきたプロのやり方に「自分ならこうする」などと考えた時点で勉強できていないわけです。学びというのは、つくづく難しいものですね。

 様々な経験も踏まえて、結局のところ《強さ》というのは、自分が負けているときに即座に受け入れて降参できるかどうかです。降参できなければ大敗して大きな損失を被ることになり、早かれ遅かれ退場することになります。どんなに運が続いても、最後の最後まで生き残ることは現実的に無理です。サイコロの6を1回も出さずに100回転がせるかといえば、不可能でしょう。

 ということで、【ポーカーにおける不運回避の為の追加戦術】です。



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