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GEMS COMPANY 1st LIVE「MagicBox」にて表現された臨場感とリアリティ――ライブジャンキー的視点から観たバーチャルとリアルの交差 #GEMSCOMPANY #MagicBox

2019年6月28日から30日にかけて計5公演、横浜の「DMM VR THEATER」にてGEMS COMPANY 1stLIVE 「Magic Box」が開催された。開催概要については「PANORA」および「ファミ通.com」に掲載された公式レポートが写真もレポートも充実しているため、そちらをぜひご覧いただきたい。

GEMS COMPANYはスクウェア・エニックスの斉藤陽介氏がプロデューサーを務め、芸能事務所であるディアステージとタッグを組んで展開されているバーチャルアイドルグループである。コンテンツの展開としてはYouTubeでの配信を主軸としたVTuber的な手法を取りつつも、その内実は全く異なるものだと感じられる。

いわゆるVTuberは「個人としての魂」をバーチャルのビジュアルに込めてYouTuberとして活動しており、ファンはそのバーチャルのビジュアルと向き合って対話を体験している、と表現できるだろう。しかし、GEMS COMPANYの場合は趣が異なり、YouTuberをメタ視点で捉えた上で、バーチャルなビジュアルのキャラクターがYouTubeを媒体として物語をリアルタイムに描いていくコンテンツ、であるように感じられる。言うなれば、ファンが1プレイヤーとしてGEMS COMPANYというフィールドをプレイするMMORPGのような構造になっているのではないか、というのが筆者の認識である。

このような特殊な構造であるが故に、現状におけるGEMS COMPANYのファン層は一般的なライブコンテンツやVTuberコンテンツとは一線を画すものであるように感じられる。他のコンテンツと比べて特に異質なのは「斉藤氏がプロデューサーを務めている」という点をきっかけにGEMS COMPANYに触れた層が一定数いるということである。その中には、GEMS COMPANYに触れるまではアイドルやライブコンテンツに触れたことがない人物もいるだろう。この点は、GEMS COMPANYについて語る場において意識しておく必要があるし、だからこそライブコンテンツに触れる機会の多い一ファンとしての筆者の視点から感じ取ったものを文章として記しておきたいと思ったため、本稿を執筆することにした。

GEMS COMPANYというコンテンツは、音楽面やVTuberとしての展開の側面、アイドルコンテンツとしての側面など、様々な視点から論ずることが出来る。だが、本稿では視点を絞り、筆者が本公演の[MC ERINGIBEAM.のじかん]公演に参加した経験を元に、VRライブの臨場感という観点にてライブを振り返っていきたいと思う。
演出手法などに触れる関係上、コンテンツの表現をいくぶんメタな視点にて語る点についてはご容赦いただきたい。また、筆者が断片的に持っている知識を元に執筆を行っているため、技術面などにおいて間違いや補足が必要な点などがあった場合は遠慮無くご指摘いただけるとありがたい。

1. VRライブにおける臨場感、リアリティとは

筆者は最近ではほぼ毎週末、何らかのライブやイベントに参加する程にライブ・イベントジャンキーである。参加するライブやイベントのジャンルは声優・アニソンシンガーのライブを中心に、アニメ作品イベントや、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」などの2.5次元ミュージカル、「レディ・ベス」などの3次元ミュージカル、「マジカルミライ」などのVRライブ、ポルノグラフィティなどの邦楽ライブなどにも参加している。

いままでに筆者が参加したライブやイベントの数は相当なものになっているわけだが、筆者がここまでの勢いでライブやイベントにのめり込む要素の一つには「現地でしか味わうことの出来ない、身体を通した感覚」があると感じている。言うなれば「ライブ感」とでも表することが出来るだろうか。自宅にてディスプレイを通してライブ映像やMVを観ているだけでは経験することの出来ない、身体感覚を伴った体験である。もちろん、ライブ感だけが唯一の指標というわけでは無いのだが、ライブ感に大きな魅力があるのは確かである。

例えば、視覚においては「ステージ上に演者が存在している」という事実を自らの視覚にて感じることであるし、また「会場内に反響する音」「自らの周りの観客から発せられるコールや歓声などの音」などは聴覚において、加えて「音により発生した振動」を触覚においても感じることとなる。自らの身体にて受け止めたそれらの感覚が「ライブ会場にいるんだ」という感覚、すなわちライブ感に繋がると言えるだろう。そのようなライブ感を得るためには、自身や演者など、場を構成する事物が「確かにここにある」という感覚、言うなればリアリティが必要となる。

現地にてスピーカーや周りの観客から発せられる音を体で受け止めることにより、聴覚や触覚においてリアリティを感じ取ることが出来る。しかし、GEMS COMPANYはバーチャルアイドルグループ、すなわち現実世界に質量を持った実体として存在しているわけではない。つまり、現実世界において視覚にて彼女たちからリアリティを感じ取ることは本来、不可能なはずである。
しかし、私はあの日、ステージに立つ彼女たちに対して確かに「そこに存在する」という感覚を得た。少なくともその瞬間、私の脳内において彼女たちはリアリティを得たのであるし、私の視覚は彼女たちを「その場に存在する」と認識したのである。

彼女たちはその場には居ないはずだ。しかし、その場に居るように私には感じられた。この状況を一言で表すならば、あの場には間違いなく「圧倒的な臨場感があった」という事になるだろう。では、VRライブにおける臨場感とは、ひいては「Magic Box」において私が得たリアリティとは一体何だったのだろうか。

2. ジェムカンライブにおける臨場感の表現手法

臨場感とは「あたかもその場に臨んでいるような感じ」の事である。例えば、映画館でアクション映画を見ている際に、主人公が車で猛スピードで疾走している映像を見ながら、自分自身も同様の体験をしているように錯覚する感覚である。
ステージ上に立っていたGEMS COMPANYのメンバー達は、淡泊な表現をすれば「光がスクリーンに投影されて表示されている」存在だったという事になる。しかし、単に映像をスクリーンに投影しただけでは、表現できる臨場感には限界があるだろう。圧倒的な臨場感の表現が成された「Magic Box」においては、次項から述べる「光と影によるライティングの表現」「物理法則に則った動きの表現」「インタラクティブなコミュニケーション表現」が重要であったように思う。

2.1. 光と影によるライティングの表現

ここからは「PANORA」および「ファミ通.com」に掲載された公式レポートの写真を参照・引用させていただきつつ論を進めていく。

まず、「DMM VR THEATER」にて使用されている映像投影の手法について確認しておきたい。「DMM VR THEATER」では「ペッパーズゴースト」と呼ばれる手法を応用した投影環境を使用している。上記記事にて解説されているように、ペッパーズゴーストを応用した投影においては、我々が視認している映像はハーフミラー性能のスクリーンに投影された映像ということになる。スクリーンに投影された映像ではあるものの、スクリーンの透過度が高いため、映像を視認した上で、スクリーン奥の壁面についても同時に視認することが出来る。


(Fig.1)
出典:PANORA「GEMS COMPANY、初ライブ「Magic Box」レポート 宝箱から飛び出した彼女たちの生々しさに感動」


上記画像(Fig.1)はジェムカンメンバー12名がステージ上に揃っている様子であるが、彼女たちの足下に影が伸びている様子を見て取ることが出来る。また、ステージ前方にいるメンバーは光が強く当たっており明るく見えるが、ステージ奥にいるメンバーは光の辺りが弱いため少し暗く見える。
ここで再び意識しなければならないのは、彼女たちは「現実世界に質量を持った実体として存在しているわけではない」という点である。現実世界では、光が当たっている箇所は明るく見え、光が遮られたところには影が出来る。我々はそのような現象を無意識のうちに受け止め、実体のあるものに立体感を得ながら生活している。
だが、ステージ上の彼女たちは実体として存在しているわけではない。つまり、映像において擬似的に表現されている明暗により、我々は彼女たちに対して立体感を、その場に存在しているというリアリティを得ているということになる。また、足下に彼女らから伸びている影を表現することにより、彼女たちの足が床面に接地しているという実感が得られるようにも意識されているように感じられる。立体的に見えるということは、明暗を見るということでもある。


(Fig.2)
出典:ファミ通.com「GEMS COMPANY 1st LIVE“MagicBox”が開催――新次元のライブはまさに魔法」

続けて、上記画像(Fig.2)を見ていただきたい。こちらは「fulfill」の両名がステージ上に立っている様子であるが、ステージ後方の壁面を見ると、両名のシルエットが後方壁面へ投影されている様子が見て取れる。後方の壁面は映像を投影するためのスクリーンとして使用することが出来るため、本公演においても一部演出においては、後方の壁面上部へ映像エフェクトを投影するなどの演出が行われていた。しかし、壁面下部への映像投影は多くの場面では行われず、代わりに彼女たちの動きとライティングに合わせてシルエットが投影されていた。この事により、彼女たちの臨場感は更に強化されることとなる。



(Fig.3)
出典:ファミ通.com「GEMS COMPANY 1st LIVE“MagicBox”が開催――新次元のライブはまさに魔法」

もう一点、上記画像(Fig.3)を見ていただきたい。こちらは「citross」の3名が歌唱直前にステージ上へスタンバイしたタイミングの画像である。
筆者が観覧していた際、ステージ上にライトが強く当てられているタイミングでは、スクリーンに投影されている彼女たちの姿越しに奥の壁面と床面との境目がうっすらとではあるが見えている場面もあった。スクリーンに映像を投影している以上、映像が明るい場合は奥側のコントラストが強い部分が透けてしまう事もあるのだろう。
しかし、驚いたのは歌唱直前のスタンバイ時、ライトが弱く当てられている状態だ。うっすらとライトが当てられた状態の彼女たちの姿はあまりにリアルで、ステージ袖から彼女たちが歩いてきたのを見た瞬間、私は「生身の人間が歩いてきた……?」と本気で、迷い無く思っていた。この瞬間、私の脳は彼女たちを実在するものとして認識していたということになる。
この件については、同じくnoteにてあさはか氏が執筆されていた記事にて、私とまったく同様の見解が述べられていたので、本稿にて引用させていただきたい。「脳がバグる」とは絶妙な表現である。

特に実際に見た方ならうんうんうなずいてくれると思うのが特に暗転時の表現。曲が始まる時、袖から出てきてセンターに立つとき。曲の演出でステージが暗くなるとき。このときの特に衣装の白い部分、発光している部分の表現方法があまりにもそれっぽい。アイドルやそうじゃなくても生身のアーティストのライブに行ったことがある人は見た経験があるんじゃないでしょうか。あまりのリアルさに最初見たときは「普通に人間が出てきた!?!?!?」などと思ったほどです。脳がバグる。バグった。Citrossとか衣装全体が白いので暗闇にぼうっと浮かび上がっている様子がマジだった。いた。あるいてた。ここはどこだ。なにを見にきたんだっけ。次元が歪んでいる。現実とは。バーチャルとは。アセンション。

2.2. 物理法則に則った動きの表現

本節ではまず、上記のYouTubeリンクから、ニコニコ超会議2019の「VTuber Fes Japan 2019 GEMS COMPANY JGJ!!!SPステージ」にて披露された「JAM GEM JUMP!!!」の様子をご覧いただきたい。上記の埋め込み動画は11分54秒から再生されるように設定しているが、もし反映されていないようであれば、11分54秒辺りから視聴していただければ幸いである。

本動画を見ていただけるとわかるように、まず映像のフレームレートが非常に高いため、ジェムカンメンバー達の動きに遅れを視認することなくステージを観賞出来る。
動きの滑らかさに加えて筆者が特に驚いたのは、人物の動きに物理法則に則った加速・減速が見られるように感じられた点である。動画の中でメンバー達がジャンプする場面やステージ上を走り抜ける場面に注目して欲しい。
まず、メンバーがジャンプする場面。質量を持った物体が真上へジャンプ、すなわち飛び上がるとき、頂点へ向かうにつれて減速し、頂点から落下するにつれて加速することになる。この点については筆者の感覚に依る部分が大きいため、読者の方々にも実感していただけるかどうかはわからないのだが、私にはこのような加速と減速がメンバーたちの動きにおいても再現されているように感じられるのだ。
また、メンバー達がステージ上を走り抜ける場面。広さに限りのあるステージ上であるため、ある場所からある場所へ走る場合は急加速して走り出し、到着点の手前で急停止する必要がある。このような加速と減速についても映像内で再現されているように筆者には感じられた。

彼女たちの動きはモーションキャプチャによってデータ化され、3Dモデルであるバーチャルな身体においてそれらの動きを再現していると思われるわけだが、それらキャプチャされた動作の再現性が凄まじく高い。彼女たちの体が現実世界において質量を持って動いていると感じさせるだけのデータ精度および再現度の高さが、彼女たちの臨場感、リアリティを生み出しているのではないだろうか。

2.3. インタラクティブなコミュニケーション表現

GEMS COMPANYのライブにおいては、ライブ中やMC中におけるインタラクティブ性、つまり一方向ではなく双方向でのコミュニケーションが成立していたことも臨場感に繋がっていたように思われる。その点についても本節にて触れておきたい。

本公演においては、計5公演あるステージにて、それぞれの公演で各ユニットがMCを担当するという形式が取られていた。例えば、筆者が参加した[MC ERINGIBEAM.のじかん]では、ERINGIBEAM.の二人がMCを担当するという形式である。
MCコーナーではトークや企画コーナーが展開されたのだが、MCが展開される中では一方的にトークが展開されるのみではなく、ステージ上の二人から観客席に対して質問が投げかけられたり、その質問に対して返ってきた回答を元にトークを展開する場面も見られた。これはライブという点では当たり前の展開ではあるのだが、この当たり前を実現することがバーチャルなビジュアルの臨場感を演出するために非常に重要な役割を果たしていたのではないだろうか。

一般的なライブシーンにおいて、観客はステージにて行われる演目を観賞する観客として存在しているわけだが、ステージ上の演者から観客席の観客に対して問いかけや煽りが行われることにより、一方的だったコミュニケーションは双方向性を持ったものとなる。この双方向性をバーチャルな身体において実行することが、リアルな身体を持った演者が行う一般的なライブシーンの体験をバーチャルへと繋げる一助を担っているのだと言えるだろう。

MCパートにおいて特に筆者がインタラクティブ性を感じたのは、MC中にねねちゃん(文体に合わないが、敢えて愛称で表記したい)が観客席に対して手を振っていた場面である。ねねちゃんが観客席を見渡しながら観客に手を振ってくれているのを見たとき、私の頭にはリアルなライブにおいて演者が手を振ってくれている場面が浮かび、意識せずにねねちゃんに対して手を振り返していた。MCの途中であったため、ねねちゃんはレイカ様に呼びかけられて慌ててMCに戻ったのだが、それらが筆者にとっては非常にリアリティのある光景であった。

3.  GEMS COMPANYに感じた可能性

以上、本稿では自身がライブジャンキーであるという立場から、GEMS COMPANYのライブにおける臨場感とリアリティについて考察を行った。

GEMS COMPANYのライブは臨場感の表現、そこから発生するリアリティの表現力が凄まじく高い。楽曲のMVを見た時点でその技術力の高さには度肝を抜かれていたのだが、ニコニコ超会議2019の映像、そして「MagicBox」を現地で観賞したことにより、GEMS COMPANYに抱いていた期待は確信に変わった。バーチャル技術を用いたライブは今後、更に面白くなる。

端的に言えば、筆者はリアル空間におけるライブが好きである。そして、ライブが好きなのと同じくらいに、アニメやゲームなどの2次元コンテンツが好きである。だからこそ、ライブというコンテンツにおいて、このバーチャルとリアルを混ぜ合わせる技術革新が進んでいることが心から嬉しい。

GEMS COMPANYが切り開いた地平の先には、どのような景色が待っているのだろう。

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