見出し画像

つよくはなれない

毎日さんぽをしている。

今日もする予定ではある。

さんぽをしながら色々と考えている。

過去のことを思い出す。

中学生の頃。
仲良くしていた人に「なんであの子と仲良くするの?」と言われた。
あの子とは。
隣のクラスの立田さん(仮名)
立田さんは女の子で、体型はふくよか。
髪の毛は天然パーマで毛量が多く、肌はつやつやぷっくりしていた。細い目を細めて、にっかりと笑顔を作るのが印象的だった。

彼女はアニメや漫画が好きだった。
私は当時美術部に所属していた。
所属していたといってもその頃は完全な幽霊部員で。担当教員は美術に全く関係ない人がついていた。美術部という名の元に行われる「アニメ漫画研究会」の雰囲気に、私はなかなか追いついて行けずにおさぼりをくりかえしていた。

けれども部員とは仲が悪いわけではなく、私も好きなマンガやアニメの話をすることがたびたびあった。

立田さんは、上述したように見るからに今でいうところのリア充でもカースト上位勢でもなかった。もさっとして、ダサくて、彼女は完全なるオタク女子だった。

そして彼女の肩にはいつもふけが乗っていた。

私の学校はブレザータイプの制服だったので、濃いグレーのジャケットの上のぽつんぽつんと見えるふけは目立つ存在だった。

不潔。

不潔も人から嫌われる要素のひとつなのかもしれない。

でも私はあまり気にしてなかった。ふけで自分が死ぬわけでもない。かんけーない。別にどうだっていいじゃんか。ふけくらい。

女子中学生というのは私のまわりではグループを作る子が多かった。
私はそういうものがわずらわしい一方で、どこかそれに忖度しないと、この世界で生きていけないことも肌身で感じていた。

「なんで?」と言われて、私はなんと答えたのか忘れている。

なんて答えたのだろう。
私はどうしたのだろう。
しかし、唯一覚えているのは
その時自分がひどく傷ついたこと。

何に傷ついたのか
今なら少し見えそうな気もしている。

あの頃は、そうやってグループをつくって排除するともだちに傷ついていたのだと思う。

でもそうではない。

私は私にがっかりしたんだと思う。

私は自分の思ったことを相手にきちんとことばにして伝えることができなかった。
そして...今だって、それはできていない。そしておそらくこれからもできないと思う。

ともだちだってもしかして排除したくて聞いたわけではないのかもしれない。
それは私の思い違いかもしれない。
きちんと対話をすることをあきらめていた。

私はずっと思っている。
あきらめて生きている。
人とはわかりあえないし
自分のこともよくわからないから。

ことばにできる強さもない。

弱い人間。

対話なんてできない、そう決めつけているのは

誰?



ただ、覚えていること。
立田さんがくれた下敷きのこと。
彼女は私が当時好きだった
ふしぎ遊戯の井宿というキャラクターの下敷きを私にプレゼントしてくれた。

「くまさん好きだったよね!井宿」

「この前ねアニメイトで売ってたから買ってきちゃった。あげるね」

彼女は他者の好きなものをきちんと覚えていて、そしてそのやさしさを渡してくれる子だった。

そういうところ。好きだった。
なんで言えなかったんだろう。

本人にも伝えられなかったな。



娘がはじめてネイルをした。
それはとてもつやつやしていて、素敵だった。

私をはげまそうと彼女は「お母さんも同じ色でつけてみたら?」とネイルを貸してくれた。

息子は姉の爪をみて「虫歯のようだ」と表現した。

おねえちゃんもそういう歳になったのか...とまるで親のように感慨深い発言をするので、思わず笑ってしまった。

久しぶりでうまくぬれなくてガタガタしてるけども、私は今この漆黒の色が似合っているような気もする。深くて暗くて1人の夜のような色。
あさってから仕事だから明日までの限定のお遊びだ。



タイトルの

「つよくはなれない」


あなたは、どのように読みますか?



「強くは、なれない?」

それとも

「つよく、離れない?」


人間なんていい加減で


ことばなんて曖昧で


はなった瞬間


誰かのものになる。


それは


「きょうふのみそしる」を


「今日、麩の味噌汁」と読むのか

「恐怖の味噌汁」と読むのか


それくらいどうでもいいことなんだけども


でも、その揺れや違いが


また人を生かす力になることを


私は忘れてはならないと思っている。



サポートは読んでくれただけで充分です。あなたの資源はぜひ他のことにお使い下さい。それでもいただけるのであれば、私も他の方に渡していきたいです。