逆ナン

とある日の新幹線内での話。

私が座っていた席の近くにおばあさんと若い女性を連れた車掌がやってきた。
「こちらがお席になります」
どうやら二人を案内してきたようだった。
「ありがとうございます!」
「ほんとありがとうございます」
おばあさんと若い女性は交互に感謝を述べる。
「いやいや、私共の方こそご利用いただき誠にありがとうございます」
深くお辞儀をし、その場を去ろうとする車掌。

「あ、ちょっと待ってください」
そう言って車掌を引き留める若い女性。
「はい。いかがいたしましたか?」
足を止め振り返る車掌。
「…しゃ、写真を撮っていただけますか?」
「もちろんです。はい、チーズ!」
おばあさんと若い女性の写真を撮る車掌。
「こちらでどうでしょう」

「はい。ありがとうございます。ところで…凄い素敵ですね」
「え?」
そこから若い女性の逆ナンが始まる。
いつから車掌なのか、どの辺に住んでいるのか、仕事は楽しいか、給料はいくらなのかなど…
かなり深い部分まで質問していた。


「好きな食べ物は?」

「好きなスポーツは?」

「好きな映画は?ジャンルとか」

「好きな女性のタイプは?」


車掌も適当に答えていく。


「かつ丼ですかね」

「バスケットですね。小学校から大学までやっていたので」

「SAWです。ゴリゴリのスプラッター映画が大好きです」

「強いて言うなら物静かな女性ですかね」


車両内は時間が遅かったこともあり、他の乗客はイライラし始めていた。
かくいう私自身も、
「はぁ…(早く解放してあげなよ。車掌さんだって仕事あるんだからさぁ)」

すると、女性がついに聞いた。
「来週の週末ぐらいでお時間合う日ありませんか?お食事でも」
私もイライラしていた乗客もこの質問には耳を傾けた。

車掌は左手の手袋を外し、女性に薬指の指輪を見せつけこう言った。
「申し訳ありません。他の駅に停まるつもりはありませんので」

乗客は心の中で激しく拍手した。

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