ローグライクハーフ: 混沌迷宮の試練その1

混沌迷宮の試練

聖フランチェスコに戻り数日経ったある日、パンと赤ワイン亭で朝食をつついていると、見知った顔が入って来た。こちらを見つけると宿の親父にコインを渡しミルクを注文して、俺の正面の椅子に腰掛けた。
「当たり前の様に座るな、待ち合わせしてるんだ」
「久しぶりだな、まだこの街に居てくれて良かったよ」
「聞いちゃいないな…。勘弁してくれ、あんたが来ると碌な事がない」
「まぁ聞けよ、叔父貴から直々の依頼だ」
叔父貴と聞いて、俺は天を仰いだ。こいつが叔父貴と言ったらあの男しかいない。
そこに親父がミルクを持って来た。
「だからさっさと出発しろと言ったろ?」
「あぁ、失敗したよ。あんたの忠告はいつだって的確だ」
親父はニヤリと笑うとカウンターの向こうに戻って行った。親父と叔父貴は懇意にしている、もしかしたら何か知っていたからわざわざそんな事を言ったのかも知れない。うまくのせられてしまったようだ。
「で?ギルド長様がこんな下っぱ冒険者に何の用があるってんだ?」
「おいおいおい、黄昏の騎士と薄暮の魔術師を倒して村を救った英雄様が何を言ってるんだか。オジキは昔からあんたに目をかけてたぜ。ようやく頭角を表してくれて、仕事を振りやすくなったと笑ってたぞ」
「あぁ、下手を打っちまったようだな…」
親父とアレックスが顔を見合わせて笑ってやがる。そして、ミルクを一口飲んで口を拭うと言った。
「お前、混沌迷宮は知ってるな?」
「まぁ、知らんことはない…。たがな、俺は寒いのは苦手なんだ」
「そうかそうか。いい機会だ、行ってくれ。叔父貴が白の魔術師を倒して出世のきっかけになった場所だ。わかるだろ?」
「聞いてたか?寒いのは苦手なんだ」
「安心してくれ、ギルドで人数分のマントと毛布を用意しよう」
「そういう事を言ってるんじゃない」
「道中に必要な食料もつける。あぁ、なんて大盤振る舞いなんだ」
「いや、だからな…」
「お前、叔父貴に恩があるだろ?そろそろ返してくれねぇかって言ってたぞ?」
「それは…」
「真面目な話、いい機会なんじゃないか?お前、レドナント村に金送ってるだろ。恩を感じてるなら顔を出したらどうだ」
目を見開き、サーウを見る。
「なんて顔してんだ。これでも情報収集のプロだぞ。孤児のお前を叔父貴が引き取るまで、村ぐるみで面倒見てくれたんだってな。そのレドナント村が、今大変な事になってるそうだ。お前がどんな目にあったかまでは叔父貴も話してはくれなかったが、今まで帰らなかったのは何か理由があるんだろう。しかしな、恩を返すなら今しか無いんじゃないか?」
「………」
「2日後、チャマイ行きのギルドの連絡船が出る。それに乗れるよう手配してある。そこからは還らずの森を迂回して、ネルドからゴーブへ。そしてレドナント村だ。闇エルフやオークの治める街には長居するなよ。それと、ウォードールは一体叔父貴に預けて行け、研究に使いたいとよ。代わりに剣士を1人用意する。他に聞きたいことは?」
「……報酬は?」
「現地で手に入れた物は全てお前の懐に入れていい。ギルドに報告する必要もない。首尾よく仕事を終えて無事帰ってくれば、叔父貴から追加の報酬もあるかもな。詳しいことはまた連絡する。準備をしておいてくれ。」
グイッとミルクを飲み干し、頼んだぞと言って出ていった。
俺はコップの底に残ったエールを飲み干し、覚悟を決めた。

野盗や野良のアンデッドや変異した化け物に遭遇したが、概ね順調な旅程であった。レドナント村に着いて村長と先行して調査に入っていた職員にギルドの委任状を見せると、一軒の空き家を当てがわれた。荷を解いて少し聞き込みをすると、昔を知ってる者はあまり残っていないようだった。成長し、人相も風体も変わった。俺に気づく者はいない。それならそれでいい。さて、今夜はゆっくり休み、明日からの仕事に備えよう。

翌朝、混沌迷宮に向かう道すがら森の近くを通ると、黒エルフの一団と遭遇。リーダー格の黒エルフが身構えつつ問いかけて来た。
「人間ども、貴様らはオークの手のものか?」
「いや、違うが?」
「この地にいるものなら我らとオークの争いは知っていよう。今は少しでも手が必要だ、我らに協力するなら悪いようにはしない。我らに付くなら、その印にこの黒スカーフを身につけよ。そうすれば黒エルフが貴様らに襲いかかる事はない。その代わりに、行方不明になっている我らの頭目の捜索に協力せよ。」
彼らの様子、出会い頭にこのような申し出、随分と焦っているようだ。危険を少しでも減らせるなら悪くはない。
「わかった、協力しよう。頭目の人相風体を教えてくれ。見つけたら必ず森に連れてこよう」
話が終わると、彼らは慌ただしく去っていった。争い続けて手は減る一方か。そのまま滅んでくれたらありがたいのだがな…

森からしばらく歩くと、いよいよ混沌迷宮に辿り着いた。さて、鬼が出るか蛇が出るか。警戒しつつ、入って行く事とする。


固定マップモード
固く冷たい石造りの通路を進んでいくと、正面に扉が1つ。従者たちに停止するよう指示し、1人で近づき聞き耳を立て、慎重に扉を開ける。

迷宮の1
出目14 エール酒の大瓶
部屋にはこんな迷宮に似つかわしくない噴水が設置されている。魔法の力が働いているのか、水は止めどなく噴き上がり続けている。見ると噴水の傍に大きな酒瓶が置いてあり、中には8割方エール酒が入っている。こんな状況じゃ嗜好品など滅多に手に入らない。村の連中が喜ぶぞ。
少し気になって左手の壁面を探ってみると、押し込む事ができた。壁の向こうは埃っぽい小部屋で、宝箱が一つ、ポツンと置いてあった。開けてみると、中には金貨が1枚。仲間たちと顔を見合わせて笑ってしまった。

宝箱: 金貨1枚

右手壁に扉、正面は通路に繋がっている。
さて、正面の通路に行ってみようか。


迷宮の2
出目03 何も起こらない

特に何の気配も感じないが、慎重に歩みを進める。左側手前と奥に扉、その中間に右へ折れる通路がある。
扉はひとまず置いといて、右折路に入る事にする。

迷宮の3
出目33 作業場

角を曲がる前から何やらさまざまな匂いが漂って来た。覗き込むとそこは厨房で、5人のオークの料理人が忙しなく動き回っていた。連中がこちらの黒スカーフに気付くと手に包丁だの鍋だのを持って立ち向かって来た。

1ターン目 冒険者とウォードールが難なく倒し、魔術師もスタッフで殴り倒した。過半数を倒し、オーク逃走。
食料を1つ手に入れた。

様々な調理器具に雑多な食材。獣の肉の中に人型のものまで見えて、かなり気分の悪い場所だ。脂に塗れた床に足を取られぬよう慎重に進む。角を曲がると正面に扉が見える。警戒するよう従者たちに伝え、そっと近づいて行く。

迷宮の4
出目32 聖域

部屋の中央に置かれた彫像の肩に、1羽のフクロウが止まっている。鳥は片眼鏡をかけ、一冊の古文書を脇に抱えていた。
レドナントの村に伝わる聖なる守護者、賢者マトーシュだ。
平和を愛するこの鳥人は長いこと行方不明で、もう死んだとうわさされていた。
請け負った依頼について手短に話し、協力をあおぐ。
「報酬に目がくらんで、二種族間の殺し合いに加担しているというわけか」
マトーシュは軽く息をつく。翼の先端で片眼鏡の位置を直してから、呆れたように言う。
君は首を横に振る。
元々レドナント村で育てられた過去を話し、村の為に動いていると伝えた。両方の種族と敵対したままでは、この迷宮を生きて出ることすらおぼつかないと判断したのだと、説明する。
彼はひとしきり観察すると、君に対する判断を保留して助言をくれる。
オークと黒エルフは定期的に小競り合いを繰り返しているが、今は黒エルフの指導者が相手の捕虜にされているため、戦いが激化している事。その人物を救出すれば、一時的に両陣営が戦いの手を休めることにつながる事を話してくれた。
マトーシュは迷宮内にある、オークの拠点付近に位置する「人目につきにくい小洞窟」の場所を教えてくれる。その場所に、救出するべき人物が閉じ込められている可能性は大きい。
「冒険者と略奪者の差は紙一重だ。冒険者という肩書きを建前に、無法を働く輩になるでないぞ」
賢者は別れ際にそう言葉を残すと、古文書を足の鉤爪でつかみ、飛び去っていく。

「手がかり」を得た。

賢者を見送ると、彫像の奥の壁の扉もなく直接繋がっている通路に向かって歩き出した。

迷宮の5
出目04 投げ槍

突き当たりの壁を調べていると、周囲を警戒中の剣士の足元で小さくカチッと音がした。直後、壁から小振りな槍が飛び出して来て、剣士の首を貫き、反対側の壁に縫い付けた。あまりの事に言葉を失う一同。槍を引き抜き、剣士の遺体を彫像のある部屋に安置すると、皆で祈りを捧げた。事が済んだら村に連れ帰り丁重に埋葬する事を誓い、先を急ぐ事とした。

迷宮の6
出目15 月影

突き当たりの壁の向こうには小部屋があり、台座の上に、黒エルフたちが月影と呼んでいる武器が2つあった。なかなか便利そうなので、ありがたく持って行く事とする。 
引き返し、扉のない通路に向かう。

迷宮の7
出目62 オークの猛者

通路の先に、やたらガタイの良いオークが仁王立ちしている。明らかに強者と行った風情に、緊張が走る。
「んん?そのぐろいすがーふ、おメラひ弱なえるぐどものみがたか。いますぐブッゴロシでもいいが、おではかんようなおどご。かねをおいでげばみどがじてやっでもいいぞ?」
完全に一同を下に見て、ワイロを要求するオーク。冒険者はおもむろに矢を放った

0ターン目 冒険者の矢が命中。残り6点
1ターン目表 冒険者・ウォードール・剣士の攻撃がヒット。オークの猛者の生命点が半分を切り、逃走。

冒険者の放った矢はオークの左肩に命中、一瞬怯むオーク。その隙を逃さず、間髪入れずに攻撃を叩き込む。いくつもの傷を負ったオークはたまらず逃げていった。

宝物表 5+1=6    大きな宝石(金貨35枚相当)

逃げるオークが落としていった皮袋には、大きな宝石が入っていた。これで罠にかかって亡くなった剣士の弔いもしっかりやってやれそうだ。一行はさらに先の通路へ進む。


迷宮の7
出目02 何も起こらない

迷宮の8 中間イベント: 火吹き獣

部屋に入ると疲れ切った兵士達がいた。どうやらゴーブの街から派遣され地下城砦を探索してきたが、人数が減って退却を検討しているようだ。途中で手に入れたエールを振る舞い、彼らに事情を話すと、片腕にからくり製の義手をつけた兵士が申し出る。
「混沌には炎が効果的だ。だから、できればあんたにこいつに連れて行ってもらいたい」
冒険者は兵士の意を汲み【火吹き獣】を貰い受けた。そしてしばし休憩すると、兵士たちに別れを告げて部屋を出た。通路を戻り、さらに探索を続ける。

従者に【火吹き獣】を追加

迷宮の9
出目54 混沌のクモ

0ターン目 火炎獣の攻撃がヒット。残り5匹
1ターン目表 冒険者・ウォードール・火炎獣・剣士の攻撃がヒット。混沌のクモ、逃走

扉を開けると、巨大なクモと甲殻類を融合させたような奇怪なクリーチャーが6匹。どうやら混沌の生物のようだ。あちらが動き出すより早く火炎獣が飛び出し、得意の炎を浴びせる。続く冒険者達の攻撃により、混沌のクモは瞬く間にその数を減らし逃げていった。
一行は彫像のある部屋から通路を辿り、さらに奥へと歩みを進める。

迷宮の10
出目66 大食らい虫

0ターン目 冒険者は月影を2つ投げて両方ともヒット。火吹き獣の炎は当たらず。残り12点
1ターン表 太刀持ちから剣と盾を受け取った冒険者と剣士の攻撃がヒット。残り10点
1ターン裏 冒険者は大喰らい虫の攻撃を避ける。
2ターン表 冒険者・ウォードール・剣士・魔法使いの攻撃がヒット。残り6点。大喰らい虫は逃げ去った

その部屋に入ると巨大なイモムシが床から顔を出していた。飯を食わせれば大人しくなると聞いた事はあるが、あいにく持ち合わせがない。従者達に支持を出し、連携を取って多方面から攻撃を加える。大喰らい虫の攻撃を躱し隙を狙って攻撃を重ねていると、たまらず地中に逃げて行った。また出てきてはやっかいなので、周囲の瓦礫で可能な限り埋めておく。

宝物表 5   小さな宝石(金貨15枚相当)

穴を埋めていると、瓦礫の中に光る物を見つけた。小さな宝石だ。こんな物でも少しは村の助けになるだろう。
ある程度埋めると、先を急ぐ事とした。

迷宮の11
出目05 油の入った壷

通路を進んで行くと妙に油の匂いが鼻につく。従者達に警戒を強める様伝えようとした瞬間、天井の一部が開き、流れ落ちてきた油を魔法使いが被ってしまった。先を急ぎたいが、まずは汚れを落とせる場所を探さなければならない…

迷宮の12
出目26 傭兵の一団

水場のある部屋に、荒事を生業としていそうな者たちが7人。冒険者の顔を見ると立ち上がって言った。
「これはこれは、あの有名人とこんなところで出くわすとはね。実はな、少しばかり有名になっちまったあんたの首には賞金がかけられている。そして俺たちは金が欲しい。さて、どうする?」
傭兵たちのリーダーが、不敵に微笑みながら剣を抜き放つ。
「そうか、わかった。では、俺があんたらを雇おう。これで一仕事頼みたいが、どうだ?」
冒険者は弓を下ろして、小袋を男の前に投げる。
傭兵のリーダーは剣先で器用に小袋を開けると中身をを改め。ニヤリと笑った。
「いいだろう、交渉成立だ。あんたの指示に従うと誓おう」
「あぁ、よろしく頼む」
心強い味方が増え、油まみれの魔法使いはその身を清めた。さぁ、目的地は目の前だ。

迷宮の13
最終イベント:監禁部屋

傭兵団対ミイラの戦士長
1ターン表 傭兵団の攻撃、全員外れ。
1ターン裏 ミイラの戦士長の攻撃、外れ。
2ターン表 傭兵団の攻撃、1ヒット。残り4点
2ターン裏 ミイラの戦士長の攻撃、2ヒット。残り5人
3ターン表 傭兵団の攻撃、3ヒット。残り1点
3ターン裏 ミイラの戦士長の攻撃、外れ。残り5人
4ターン表 傭兵団の攻撃、2ヒット。撃破

最奥の部屋に踏み入れると重武装のミイラの姿。そしてその奥に、拘束された黒エルフの部族長と思しき男が。我々の姿を認めたミイラがニヤリと笑った気がした。不死者であるにも関わらず、ミイラは戦えることが喜びを感じている様だ。生前は名のある剣士だったのかも知れない。錆びた剣を踊らせ、冒険者達に襲いかかる。
「仕事だ。君たちの腕を見せてくれ」
「ハハッ!旦那もキツいなぜ!まぁ見てな、伊達に荒事で食ってきたわけじゃねぇ。行くぞ前ら!」
「「「おぉ!!」」」
裂帛の気合いと共に駆け出す傭兵団。言葉を交わさず共に各々が役目を把握し、見事な連携を見せる。化け物相手に上手く立ち回っている。が、傭兵の攻撃を受けバランスを崩したミイラの力任せに振るった剣が、2人の傭兵を薙ぎ払う。団長は瞬時に指示を出し、大振りになった所に空かさず攻撃を畳み込む。大きく傷ついたミイラの攻撃は、最早傭兵達には届かず、団長が首を落として幕引きとなった。
団長は落とした首を冒険者の方に蹴り飛ばし息を整えて言った。
「おぅ、どうだ?仕事は完遂したぜ」
「あぁ、見事な腕前だった。2人には申し訳ないことになったが…」
「気にするな、仕事の内だ。どうしても気になるなら、奴らの弔いに金貨を何枚か出してくれ。遺族に送ってやるからよ」
「わかった…」
「じゃあ、ここまでだ。またどこかで会ったらよろしくな。あばよ」
団長は仲間達を促し、出口に向かう。
「ゲイル!」
「あぁ?まだなんかあるのか?」
「この近くにレドナントって村がある。あんたに頼みたい仕事があるからそこに行ってくれ。用を済ませたら、俺もすぐに戻る」
「あー、気が向いたらな」
「あぁ、きっと気が向くさ」
ニヤリと笑うと、ゲイルは仲間達を引き連れ去って行った。


冒険の達成 ≪1回目の冒険≫
ミイラの戦士長を葬り去ると、監禁によってひどく衰弱した部族長を抱えて、地下迷宮をあとにする。
「カオスマスターだ」
 恐ろしい忌まわしい名前を聞き、冒険者は足を止める。嫌な汗が止まらなくなる。恐怖に満ちた記憶が甦り、震えが止まらなくなる…
混沌たちは大きくなるほどに知能を増す。そして大きさがあるラインを越えると、魔法……【呪術】を使えるようになる。カオスマスターだって?まさかな…
 人々がカオスマスターを恐れる理由は、もうひとつある。彼女には歪んだ性愛の嗜好があり、知能をもつ他の生きものをいたぶることを何よりも好む。あるのは知能だけで、倫理観など持たず欲望のままにおもちゃにするのだ。
 最初の迷宮探索から帰還した冒険者は部族長と話し合い、敵種族との会合を計画する。だが困ったことに、敵の部族長はここにはいない。「混沌の迷宮」の第2層へと潜ったというのだ。
冒険者はどんな困難にも立ち向かい、必ずカオスマスターを倒すと決意した。

 各主人公は1点ずつ経験点を獲得する。

#ローグライクハーフ
#FT書房

「ローグライクハーフ」1stシナリオ『黄昏の騎士』 /FT書房 作:杉本=ヨハネ 監修:紫隠ねこ

「ローグライクハーフ」基本ルール入手先URL。 ftbooks.booth.pm/items/4671946

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