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冬に現れるカモメ ユリカモメ

 ユリカモメは、冬、関西に現れるカモメの一種です。

 カモメと言えば、夏の青空をバックに颯爽と飛翔する白色の姿が想像されます。また、童謡「カモメの水兵さん」で唄われた「白い帽子、白いシャツ、白い服。波にチャプチャプ浮かんでる。」の歌詞から可愛らしくて、純粋なイメージを持ちます。
 しかし、実際のユリカモメは違うようです。どちらかというと狡賢い、荒くれ者です。

 ユリカモメは、カムチャツカ半島やシベリア東部の北極圏で繁殖します。日本には、10〜11月に帰ってきて、4〜5月に北に旅立つ冬鳥です。
 体長約40cm。冬の姿と夏の姿は異なります。冬は全身、白っぽい色です。頭〜胸・腹は白色、背中・翼は淡い灰色、嘴と脚は赤色、嘴の先端は黒色、眼の後と周りに黒い紋斑があります。

ユリカモメ(2024/1/6)
ユリカモメ(2023/11/12)

 一方、夏は頭が黒色になります。実際は、チョコレートのような黒い褐色です。夏羽のユリカモメを見るなら4月から5月。完全に黒くなった頃には、北に飛び立つので、その直前です。4月ぐらいから徐々に黒くなり始め、5月のゴールデンウィーク頃には、黒い褐色になっています。

頭が黒くなりかけたユリカモメ(2023/4/29)
頭が褐色になったユリカモメ(2015/5/3)
頭が褐色になったユリカモメ(2015/5/3)

 なお、ユリカモメの英名は、"Black-headed Gull"、頭の黒いカモメ。夏羽の姿をそのまま現しています。

 一方、和名は、現代になって、鳥類の名前を決定する段階で、いろいろな事情があって、ユリカモメになったのではないかと想像しています。

 ユリカモメは、西暦800年代には「都鳥」と呼ばれていたようです。平安時代(700年代後半から約400年間)に成立した「伊勢物語」に『白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、皆人見知らず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」といふ』と記述されています。
 『白い羽、嘴と脚が赤、シギ(鴫)ぐらいの大きさ、水上を飛んで、魚を食べる。京では見たことのない鳥。船頭は「都鳥」という』。この記述にピッタリ当てはまるのはユリカモメしかいないので、都鳥は、ユリカモメと考えられていました。
 現在、ミヤコドリと呼ばれる野鳥は、ユリカモメとは似ても似つかないチドリ目の黒色の野鳥です。

ミヤコドリ(2017/2/18)

 何故、チドリ目の黒色の野鳥がミヤコドリになったかと言うと、江戸時代の文人が、「伊勢物語」の「しろき鳥」は、「くろき鳥」の間違いであるとし、「黒い羽、嘴と脚が赤」に当てはまるチドリ目の野鳥がミヤコドリになってしまったようです。ただ、チドリ目のミヤコドリは、魚ではなく貝が主食なので、やはり、伊勢物語の都鳥はユリカモメのような気がします。

 都鳥の名前を奪われたユリカモメの名前は、英名のように黒い頭から名付ければ良かったのではないかと思いますが、既に頭の黒いカモメという頭黒鴎(ズグロカモメ)がいるので、名付けられなかったのかも知れません。

頭が黒くなる前のズグロカモメ(2016/2/14)
頭が黒くなったズグロカモメ(2017/2/25)

 結局、ユリカモメとなったようです。名前の由来は、白くてスマートな身体がユリの花のようなのでユリカモメになったという説、入江にいるのでイリエカモメと呼ばれていたのが、ユリカモメになったという説があります。
 漢字表記が、「百合鴎」なので、ユリの花から名付けられたのではないかと思っていますが、今ひとつしっくりしません。
 ただ、当の本人からすれば、ミヤコドリでもユリカモメでも関係ないとは思います。

 ユリカモメは、海辺や池や川にいます。また、水辺がある都市公園にいたりします。単独でいることは珍しく、天敵から身を守るために数羽〜数十羽の群れで行動しています。

砂浜に集まるユリカモメ(2019/11/24)
海岸で佇むユリカモメ(2016/1/10)
都市公園の池の欄干にとまるユリカモメ(2017/1/22)
河口付近の橋の欄干にとまるユリカモメ(2009/1/18)
干潮でできた砂地に集まるユリカモメ(2018/2/18)
一斉に飛び上がるユリカモメ(2018/2/18)
飛び上がったユリカモメ(2018/2/18)

 ユリカモメは、人懐っこく、フレンドリーな野鳥です。真っ白で、可愛らしいので、人も優しく接してくれて、食べ物をくれたりするので人をあまり恐れないようです。
 先日も海辺でユリカモメを見ていると、こちらのことは気にするそぶりもなく、休憩しているのですが、突然、騒ぎ出し、一斉に飛び上がりました。理由は、食べ物をくれる人が現れたので、我先に食べ物を貰おうと飛び上がりたということです。完全に人と共存しています。たぶん、ユリカモメ達は、食べ物をくれる人や現れる時間を把握しているようです。

食べ物をくれる人を待っているユリカモメ(2024/1/6)

 ここまで、書いた内容では、狡賢い、荒くれ者というイメージにはなりません。

 ユリカモメは、群れで行動し、可愛らしい外見からは想像できない濁った声で「ギューイ、ギューイ」「 ギャー」と騒がしく鳴き、他の鳥が捕まえた魚を群れで威嚇して、奪ったりします。また、水辺にある残飯など何でも食べるので、「海辺の掃除屋さん」と呼ばれているいます。
 この姿は、必ずしも好かれていないカラスの姿にダブります。群れで猛禽類を追いかけまわし、ゴミ箱から残飯をあさる。カラスそのものです。
 でも、ユリカモメは、カラスのような悪いイメージを持たれていません。行動が海辺なので、あまり人目に触れないのと、白色の姿が悪いイメージを持たせていないのだと思います。
 それと、ユリカモメを見ていて思うことは、「自分達は、カラスと違って白色で可愛い姿なので、人間は優しくしてくれる」とわかっているのではないかと。他の鳥を襲う時は、目つきが悪い顔で襲っているのに、人には可愛い顔で、「なんか、ちょうだい」という感じで、近寄ってきます。
 こんなユリカモメの姿を見て、江戸時代の文人が、ユリカモメに都=江戸を冠する名前をつけてはいけないと考えて、白を無理やり黒にして、ユリカモメの都鳥という名前を奪ったのではないかと想像しています。

 ユリカモメを観察していると脚に標識をつけられた個体に出会うことがあります。
 ユリカモメは、行動がよくわからなかったので、標識をつけて調査した結果、日本に現れるユリカモメの大部分は、カムチャッカ半島で繁殖し、日本に飛来することがわかったようです。
 先日も標識のついたユリカモメと出会いました。

標識をつけたユリカモメ(2024/1/6)
ユリカモメにつけられた標識(2024/1/6)

 標識からユリカモメを確認した海辺から10km弱離れた池で、6年前に放鳥された個体とわかりました。6年間でカムチャッカ半島まで、片道3,000kmを6往復しているということです。小さくて可愛い姿ですが、渡りを行う野鳥は、凄いなと思います。

 こんな感じで、ユリカモメを観察しています。

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