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おふかい

今回の作品はいつも参加させていただいている
眠れる夜の奇妙なアンソロジー」へのオマージュとなります。
そのため非常に私的な作品となっておりますので、読みにくいところがあります。その点ご了承いただければと思います。
また、登場するキャラクターは私のほうで脚色をしたキャラクターとなりますので、実際のアカウント名の皆様のキャラクターとは似て非なるものとなります。
その辺は二次創作と思い読んでいただければ幸いです。
それでは、夜のお供に。
私の想像する「おふかい」の始まりでございます。

吾輩はクマキヒロシという。名前はまだない。

……
あれ?あるな。うーん、失敬失敬。
有名な小説の始まりの書き出しから使ってみたのに、随分とすぐに破綻した。
まあ良い。わはは。

さて、私はクマキヒロシという。
現代社会の中に居る。まあ、つまり昔の人間だ。
読んでいる人にとっては面白くもない古文となるわけだ。
まあ、多少現代文だから読みにくいとは思うが、付き合ってくれよ。

この時代の人間たちはインターネットに常に繋がっていない。
電子デバイスを携帯してインターネットと繋がっていた。
頭に直接接続する今と比べたらめちゃくちゃなやり方だと思う。
ほんと、びっくりするだろう?
石器時代じゃないんだからって、いま流行のツッコミはやめてくれたまえ。
わはは、まあ良い。

そーなると
「おふかい」なるものがあるわけだよ。
インターネット上はおんらい、そうでない場合はおふらいんという訳で、実際にインターネットで知り合った人と会う事をおふかいと言うらしい。
今の人にしてみりゃ、なんて効率の悪いことと思うかもしれないが
まだ、この世界には現実というものが非常に大きく横たわっているのだよ。
君らみたいに楽してないんですよ。こっちは!
あ、またおじいちゃんがなんか言ってるって顔してるし。
そういうところだと思うんだよね。
今の若い奴らって……
え? 良いから話を進めろって?
わかったよ、せっかちだな。
時間軸が一定でめんどくさいのは、この時代の普通なの!
あー、もう脇道にも逸れられないんだから……

まあ、おふかいがあるってことは、それをやってみたいじゃない?
私は早速、尊敬をしている方々に、つまり神のような存在であり、ある意味神みたいになってしまってる方々に連絡をして(もちろんおんらいんでだが)おふかいを開いたという話である。ええ。

パラパラパラパラ(連絡の通信音)

「えー、こちらクマキヒロシです。そちらは、ネムキリスペクトの神であるムラサキさんでいらっしゃいますか?」

「ん?クマキヒロシ? 知らぬなあ! 誰だ!」

のっけからこれである。
このお方、ムラサキ様である。
いや、多分分かっておられると思う。
もしくは幾分お酒を飲んでいらっしゃるか、幻覚をご覧になっているのであって、決して素面ではこんな対応をしない人でおられる。

「やあやあ、ムラサキさん、小イカすみ煮をご用意しています。お召し上がりください」
いや、実際にはおんらいんで話しているわけだから、そんなもの渡せはしない。
なに、嘘でも言わねば話ができんということだ。

「おー……クマキヒロシさん、これは久しい。してどうしました?」
うん。なんて変わり身の早さだ。
そりゃいかんですよ。ムラサキさん。

「なに、巷では『おふぅかい』なるものがありまして、それを一興しようかと思いましてね。かくかくしかじか……」
とまあ、趣旨と概要を説明した。
かの有名な悪魔である。いや、失敬間違えた。
神々であられる、ネムキ派による『おふぅかい』をしようということを話したわけだ。

先生はふたつ返事で回答をしてくれた。
「それはいいですね。皆さんにお会いするのは大変楽しみでもあります。そう、では私はちょっとばかし奮発して、大きなタコを持って行きますよ。」

「先生、そりゃいかん。地球に入らんやつでしょう? やめてもらえませんかね? 地球が潰れちゃいますよ」

「なんだ、タコじゃダメか。じゃあイカで」

「先生、それはくにんさんのやつじゃないですか?」

「いや、失礼。こういうのは何にでもオマージュというのが成立するんですよ。クマキさん」
さすが言葉の魔術師である。
いけしゃあしゃあと他の神様の魔術を使えてしまうのだ。
こりゃあすげぇ。

「しかし、先生たちに直接来られると、地球みたいな星はパッと消えてしまいます。それで、一つ案がありましてね。かくかくしかじか……」
とどのつまり妖力も、神力も強いネムキ派の神々が物質界に直接来られると困るので(多分大災害になっちまうしね)、人形に魂を込めてからきてもらおうという企画を説明したのです。

「ほう、人形とな。これは面白い。さすがクマキヒロシさんだ」

「ヘェヘェ、褒めていただきありがたき幸せでございます」

(で? 今回のこれでテーマを乗り切ろうとするってわけですか?)

(え? やめてください、急に物語に現実の方の設定を入れられると、こっちの設定が崩れます。色々言いたいことがあるのはわかるのですが、今の所はやり切ってもらっていいですか?)

(まあ、これはこれで面白い試みにも思えますがねぇ。しかし、いかにも白々しい入りでしたねぇ。ここで"人形"を入れるとは。ねぇ?)

いやあ、参った。
今は私の物語の中でございますよ。ムラサキさん。
こうやって現実に戻されたら、皆さんが困ってしまいますよ。
ねぇ?皆さん?

ん?最初の方からさっぱりワカラナイから、別にもうどうでも良い。
ほう、それはいい。
では思う存分に。わはは。

(ということですので、一旦お引き取りください。ムラサキさん。さあ、もう一回神様っぽいのでお願いします)

(分かりましたよ。私もこういうの好きですからね)

しゃららーん

「して、クマキヒロシさん、他の方々への連絡は私の方でやっておきます。概要をお作りください。其れを皆さんにお伝えしておきますから」

「ははぁ!」

というわけで、なんとか本筋に戻れました。いやいや、びっくり。
さて、これを持ってして、ネムキ派の神々と私クマキヒロシによる「おふぅかい」を開催することになりました。
下記にて概要になります。

日時:年末
場所:東京駅前
概要:日頃のお疲れをお互いに慰労し、出会った祝いをする。
   お酒はクマキヒロシが用意
   皆様は「人形」に魂を込めて来られるように
   決して物質界に勝手に来ないこと。
   いいですか!地球が壊れたら困りますからね。
目印:クマキヒロシは猫の姿で、こたつを広げて待っております。

というわけで、都内某日、東京駅の真ん前にそれはそれは魑魅魍魎である、あの方々のおふぅかいが開催されることと相成った。

べべん!

「アイー、こちらへこちらへおいでましまし」
私はかなり昭和レトロな四角いこたつを用意した。とはいえ、私もネコの人形であるからして、こんなものは運べない。そこで、会社の後輩N氏にお願いした。
彼は会社ではおにぎりと呼ばれている。顔がそう言う風に見えるからだ。

「おにぎり、もう少しだけこっちだ。電源はあるのか? おお持ってきたのか。さすがだな。」
私はおにぎりと一緒に汗をかきながら神々たちの座るこたつの準備に勤しむ。
まあ、実際はおにぎり一人で頑張っているのだが。

「あい、ではこのこたつ布団をお願いたもろう」
これは洛中川という、京都の老舗にお願いした特注のこたつ布団である。
今回は、「かくかくしかじか」と店主に説明をしたら、特注にこだわってくれるとのことで、いろいろと難題を快諾してくれた。
いい店主だよ。

それでなにやら、ロシア産の羽毛で作り、超長綿、双糸300を利用した側生地で、定番の和柄で赤い文様にしてくれていた。
いやあ、素晴らしい出来栄えである。
おにぎりと私は一緒にこれをこたつに納め、それから蓋をするように天板を乗せておいた。

なんだか神々しい。うん。

続いて、こたつといえばみかん。みかんといえば、こたつを謳うように、私は実家からみかんを取り寄せた。和歌山のみかんといえばそれなりのお供え物でもある。
あ、間違えた。
お供えは流石に不謹慎だ。うん。
これをカゴに納め、それからいつでも出せるように熱いお茶の茶の湯セットも準備ができた。
神々が座れるように、座椅子もセットして準備完了である。
おにぎり、ありがとう。もうしばし付き合ってくれ。
(なにせ給仕役がいないと心許ないのでな)

「Is that an event? It seems that you can get a glimpse of Japan's unique culture. Great. It ’s wonderful.」

道ゆく南蛮の奴らが、我々を指差して写真を撮りやがる。
何を言っているのか? さっぱり分からない。
まあ、東京駅の真ん中に、赤いこたつと猫の人形とおにぎりみたいな男がいたら、それはそれは観光の対象となってしまうわな。致し方がない。

さあ存分に納めろ。私を!

と仁王立ちをしてみたが、如何せん猫の人形である。ちょこっと座ったままやはり愛らしい顔を南蛮の写真に納められてしまった。
まあ良い。

さて、そろそろ神々がお越しになる。
他に重要なのはやはりお酒とお鍋だ。
お鍋は我が家の土鍋とカセットコンロを用意した。
牡蠣鍋が良い。出汁も出るし海のミルクだ。
これまたお供え物としてとても良い。
白菜も唸るほど用意した。これだけあれば大丈夫だろう。

それからお酒は羅生門、菊美人、中也の里と神谷バーに頼んで電気ブランを用意した。
こんなもんでいいですかね?

そういえば、ブルームーンを好む人が居たから……リキュールの上等なものを用意しておけばいいか。多分自分で作られるだろう。
ふと思い出したが、「印税生活」や、「締切前夜」とかなんだかそれっぽい名前のカクテルを出してくれるお店が新宿のゴールデン街にあったような気がする。あいわかった、そうだいっちょ誰かに頼んで持ってきてもらおう。
あまり頼みたくないが、仕方がない「お嬢」に頼むとするか。
同じ会社の酒豪で、飲むと「ちゅう」をしてくるやつだ。
あまり一緒には居たくないが、ことお酒のことならなんでも頼みを聞いてくれる。

「おい、おにぎり、一つ言伝を頼むぞ」
おにぎりはニコニコていたがお嬢の名前を聞いた瞬間、顔が青くなった。
まあ、仕方がない。
前回の飲み会でお持ち帰りされたともっぱらの噂である。
もちろん、おにぎりが。
命からがら逃れたのかもしれないが、その悪夢がもどってきたのかもしれない。
でも、頑張ってくれ。
だって飲んでみたいんだもん。

おにぎりが、こそこそ電話をしている間に、他に足りないものがないか考えていたら、
こたつにフクロウがいた。

やけに目の大きいフクロウだ。
それに、F1雑誌を開けている。
そこは神の座るところだぞ。わかってんのか?
あれ? フクロウの人形か?
うーん。どっかでみたことがあるようなないような。

「やあ、クマキさんちょっと用事が空いてしまいまして、早く着いてしまいました。何か手伝うことありますか?」

「いえ、結構でございます。くにんさん」

なるほど、くにんさんでございましたか。
言葉を発してもらってようやっとわかるという。

「しかし、楽しみですね。『おふぅかい』というのは。これはこれは普段はお会いできない皆様に直にお会いできるというのが面白いですねぇ」
くにんさんはにこにこと答える。
いやまあ、実際はあのアイコン通りの人形でお越しになられたのだから
「直に」というのは無理なのだが、
まあ、神々にとってはそんなことは些細な違いなのだろう。

「そうでございますね。地球という狭いところではございますが、是非是非楽しんでくださいませ」

ホーと一言フクロウの言葉で返事をするくにんさん。
ちょっとキャラクター作るの後からじゃないですか?
まあ、いいか。
返事は全部これで行きますよ、くにんさん。

「あ、やめときます。だってほら、他の方々がどう出るかわかりませんしね。ホー」
やめるんじゃないんですか?
とツッコミたいけど我慢しよう。
そもそも設定などなく、キャラクターもこちら次第でもあるわけですから、ね?
うん。

さておき、くにんさんは一人あったかいミルクを飲んでおられ、その間に私もいそいそと準備をする。
熱を産むためには電気とガスが必要だ。
猫の人形というのは動きずらいところがあるが、致し方がない。
あいよ、あいよと電気を産んで、ガスを使う。
ふむ。いい感じだ。
それから、ガスもセットして、昆布をつけて水を入れる。ふむふむ。

するとくにんさんが、目を光らせる。
なんですか? 急に。

「ああ、どうですか? あたりにほんの少しデコレーションをしてみました」
そう、文豪という奴らは地球ではただの魔法使いと同じになる。
だって、現実世界を何にでも書き換えてしまうわけだから。

辺りには灯がともり、どこからともなく陽気な昭和なレトロ音楽が流れているじゃあないか。
周りにいる紳士淑女はいつの間にか大正ロマンな和服や礼装になっている。
時代の設定を統一してもらえませんかね!
まあ、良いか。どちらも洒脱でありますな。
しかし、地球で勝手なことをするとあとで面倒なんですけどね。
とはいえ、私もこれが楽しみでもあったわけだから。

「一気に華やかになりましたね。くにんさん」
私も喜んでいると、くにんさんも体を揺すって笑っていらっしゃる。
「ホーホー」
笑い方がフクロウのそれというのも一興ですな。

そうして、あたりの闇夜が深くなったら、どこかともなくほんのり甘い香りがするじゃあないか。

「来ましたね」
「ええ、お越しになられました」

じゃららんと、ジャジィな曲が流れ始め。
周りの紳士淑女もどこか落ち着かない。
どうやら、あのお方がお越しになられたようだ。

「やあ、敬愛なる諸君」
まるで歌を歌うように、彼はやってきた。

「ウネリさん!」
私と、くにんさんは声を合わせた。

「やあ、やあ。さて、それにしても楽しいねぇ。こんないゔぇんとを催すなんて、まるで青い星の小さな子猫のようなくるりとした瞳のようだよ。つまり愛おしいってことだよ」

と、Gif画でお越しになられたウネリテンパさんが言うのだ。
ふぅむ。このおしゃれでおしゃべりな文体、なかなかコピーができないぞ。
難しいぞ。
と思っていたら、カクカクと同じ動きをなされる。
y.さん制作のGif画はいいが、そもそも人形できてもらわないと、こちらの企画が破綻するのだが、どこ吹く風である。

こっちの気も知らずに、ふぅとタバコの紫煙を撒き散らすのである。
すると、不思議に周りに黄色い小さな像が溢れかえるわけだ。

「ああ、愚者の楽園ですか?」
くにんさんがそらでウネリさんの名作のタイトルをだす。

「そうさ。今宵は少し不思議な夜。となれば、我々を囲うものもゆかいな仲間であるべきだと。ね? だから、さ。僕の想像ができる範囲で、しかし想像以上のことが起こるであろうことを用意しないと」

そう言うと、すぐに小さい象たちが二匹に分裂した。
まずいな、地球が黄色くなってしまう。まあ、別にいいか。
早速、電気ブランを開けて、ウネリさん、くにんさん、私の杯におにぎりが注ぎ。
始まりの乾杯をした。

チン。

グラスが重ねると、象たちがまた分裂した。
キューイキューイと鳴いている。
そうして、恥ずかしそうに色んな物陰に隠れ始めた。

美味しそうに飲み干したくにんさん。
楽しそうに破顔するウネリさん。
そして、下戸だが人形なのでいけると思い飲み干す私。
それぞれが、それぞれのグラスをこたつに置く。
その振動でまた、黄色小さな像が分裂するし、あたりの雰囲気は大正ロマンがどんどんと着飾られていく。

おいおい、まだ全員揃ってないのにこの異様な世界観。
まずいな。どうなるこのあと?

こうやってやっている間に、おにぎりはせっせとお鍋の準備をしてくれている。野菜も十分である。ぐつぐつと煮込みがはじまり、出汁の香りが立ち込める。はやくお二人がお越しにならないかしら。

私たちの話の花が咲き誇り、あたりの小さい像は増えるばかり。
くにんさんは光の糸を上からいっぱい降らし、皇居の隣にゴビの砂漠をいれる。
砂漠のラクダをみながらお酒もいいもんだと、東京の大都会で笑う。
月の代わりに大きなナスが見えて。いや、あれが月だよと浮かれる3人。
もはや東京駅の前は皆さんのご存知の世界ではなくなってしまったその時。
突如、あたりが紫色の青海波が東京駅を包んでしまう。
そうして、とんでもなくでかい鼻の穴が北の夜の空に浮かび上がり、そこから線路が伸びてきた。


ポ ポ ー


ととんだ間抜けの汽笛が鳴り響く。おもちゃのようである。
そうして、夜汽車が鼻の穴からつらーっと伸びてきているわけだ。
やあやあ、我等のムラサキさんの登場というわけだ。

東京駅に夜汽車は滑り込み、青海波が幕袖に消えていく。
そうして汽車の扉が開くと、天狗が降りてくる。

「え?」

「やあ、クマキヒロシさん。こんばんは」

朗らかな声で、天狗が言う。
待て、人形じゃないじゃないか。

「いや、これは最乗寺境内にある、大天狗をお借りしたまでですよ。ちょっと拝借。大丈夫ですよ。朝には戻しておきますので」

わはっはっはと豪快に笑われるムラサキさんと、ウネリさん。
私とくにんさんは目を見合わせてしまいました。
石像だからぎりぎり人形ではありますが…
いまごろ、最乗寺のお坊さんは焦っておられることでしょう。
くわばらくわばら。

夜汽車からは顔のない奇妙な人型の生き物が続々と降りてくる。
北の夜空に浮かぶ鼻の穴には大きな鼻提灯が膨らんでいる。

おおおい。
これは不味い不味い。もはや人間の住む世界ではない、
まあ良いか、私は人形だ。
猫の人形にこれ、怖いことなどなしとな。
わはは。

で、横を見ると青ざめたおにぎりが居るわけだ。
おーおーすまん、すまん。君のことをすっかり忘れていた。
君も電気ブランをいきたまえ。
そうすりゃ全部夢である。
わはは。わはは。

ムラサキ大天狗様がお座敷に座られて、さあ、これで『おふぅかい』の始まりとなったが、アイヤーもうお一方が来られておりますまい。

うーむ。
地底の人であられる民話ブログ殿がまだである。
いわゆる乾杯の儀は始められないので、用意しておいた日本酒を皆さんに振る舞い
民話ブログ殿の到着を待つしかない。

そうして、鍋に牡蛎をいれていいころ合いを待つことにした。
牡蛎鍋をつつくというのはこれまた一番いい冬の過ごし方である。

そうこうしていると、季節も違うのに桜の花びらが舞ってきた。
そうして、御所の方面からどでかいがしゃどくろが出てくる。
アイヤー、民話ブログ殿がお越しになられたようだ。
竹笛と鐘の音がリズミカルに鳴り響き、あたりの温度が5度寒くなる。
どこからか地底人の声のような男の声が聞こえ、
琴の音で旋律が奏でられた。
それにあわせてがしゃどくろが少しずつ近づいてくる。

「え? あれ? セーブポイント間違えたかな?」
こたつで男の声が聞こえるので振りむくとミイラがいた。

気持ちわるい……

おにぎりは腰を砕けてしまった。
見た目も、登場もおどろおどろしいのに、本人はいたって軽やか。
いや、さすが民話ブログ殿。

「お早い到着でしたねぇ?」
と、ムラサキさん。

「何と云う奇祭! 鬼才! 非日常の日常の一声。まったくもって素晴らしい」
と、ウネリさん。

「(^^)/ホー こういう、日常と非日常が懸濁している世界観。民話ブログさんの呪いの力ですかね?」
と、くにんさん。

そう言われて照れながら、ミイラのままみかんの皮を剥いている。
図体がとてもでかく、隣のムラサキさんの大天狗様より大きいわけだ。
あ? この人も人形じゃないなじゃん。
いや? ミイラも人形といえば人形か。
じゃあ、いいか。

こたつの四角い四つの辺に全員着席。
それぞれの杯にタプタプと羅生門を注ぎ、乾杯の儀である。

「みなさん、こんばんは。 今宵のテーマは『おふぅかい』。
 普段はおんらいんのなかでしかあえない皆さんとこうして物質界の方でお会いできる機会となりました。
こうして見ると、人形での参加としておきながら、見た目も見た目、奇々怪々の面子が揃いましたねぇ。
生きているはずのない人形たちに、斯様に命を感じるのは見るものの勝手か、作り手の魂か。それとも、魔界の手ほどきか?
眠れぬ夜はあなたとともに。
眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー【おふぅかい】今宵も始まりでございます」

ムラサキさんの開始の合図と共に皆で乾杯を。
そうすると、ゴビの砂漠の向こうに湖ができはじめ、黄色い像たちはさらに増えつづけ、北の夜空の鼻の穴が膨らみ、がしゃどくろが喜ぶ。

いやぁ、開催を企画したが、こりゃ世の終わりにしか見えないな。
一人でごちていると、おにぎりが三角座りをしていて動かない。
生身の人間がこの瘴気の中にいたらそりゃそうなるな。
と思い、彼の者に狐のお面を寄越した。

「ほれ、しゃんとせぇ。お面でもつけていればお前も妖怪だ。構わん、今日は人間をやめてしまえ」
と言うと恐る恐るとお面をつけた。
顔が大きいので、左右上下とはみ出しているが、まあ良い。
即席の狐の給仕に酒と牡蠣鍋を振舞われ、神々は大いに喜んでいた。

「いやあ。クマキさん、狐に酌をされるというもいいですねぇ」
大天狗、ムラサキさんが喜ぶ。
「狐、その酌で濡らす、、なんちゃって。ホー」
ダジャレをかます、くにんさん。
「ロマンだね」
と、ウネリさん。

おにぎりもこれは嬉しいだろうねぇ。
ありゃぁしっぽまで振って。
この方々にここまで言われるなんて。
ん? しっぽ?
ありゃ、だれかに尻尾を書かれたな。
こりゃいかん、本当に妖怪にされてしまった。
おにぎり狐はそうともしらずに、神々に酌をした。

いつのまにか皆様顔を真っ赤にしながら、次々と酌を空けていく。
羅生門もそろそろつきそうだ。
電気ブランもだいぶ無い。
お酒が回り、神々がまあそれは適当に筆力を発揮し始める。

突然甲高い声が聴こえ始める。いや唄か?
そう、外骨格人間が丸の内のビル群という森の中で唄い始めたのだ。
ムラサキさんか……

すると、夜空に浮かんだ大きな茄子が破裂して、東京駅は水に沈む。
ああ、こら、ウネリさん私は人形なんだよ。水が沁みてしまうよ。ゴボゴボ。

どこからか羊が沢山泳いできた。その中に黒い羊がいるじゃあないか。
くにんさん、何気に一番怖いの連れてきたじゃん。酔ってるんですか? 
え? 我々は夢から夢へと転身し続けるしかないじゃあないか。
あ、黒い羊が消えた。 嗚呼、ほら言わんこっちゃない。

あれ? でっかいおばあちゃんがいっぱいいる。
丸の内のビルと同じ大きさのでっかいおばあちゃんが、はしゃぎながら
目からビームを出してる。
めっちゃ恥ずかしそうに笑ってるけど、民話さんの仕業ですよね?
どうすんですか? これ!!!
シンゴジラの火の海より絶望的ですけど、今の東京!!!!

最後の晩餐こみよがしである。宵の祭りであるからして。
こういうものもまた一興だ。

私も一緒にはしゃぐ。東京駅はさらに混沌へ。
このお話もさらにいずこかへ。

プカプカと東京駅海に浮かぶこたつの晩餐。
多くの人がそこかしこで茄子の海に浮かんでいる。

「おい、酒が尽きる。あまりよく無いことだ。そろそろお嬢の出番だが……」
と私がぷかぷかと浮かぶおにぎり狐に尋ねると、プルプルと震えながらおにぎりは大天狗様を指差す。
ああ、大天狗、ムラサキさんのお付き人のようにお酒を酌しながら、自分で酒を呷ってる奴がいるじゃぁ無いか。
お嬢め、いつの間にか晩餐に混じっておった。

「やあ、お嬢。お前さん着いたなら着いたと言わんか?」
そうすると、三角になった目でこちらを睨みながら
「あら、それが新宿くんだりまでお酒を取りに行った同志への掛け言葉からしら?」
とまた、お酒を呷った。
それを見て、ムラサキさんは大層喜ぶ。
「いやあ、先ほどからこちらのレディがとても飲みっぷりが良くて。見ているこちらが気持ちがいい」
それを言われてお嬢は口元をハンカチで隠しながら、襟元をすっと閉じた。
まあ、奥ゆかしい。
待て、いつも罵詈雑言を私に吐くじゃないか。
こんな時だけ、おめかししやがって。

「それでこちらのレディが、面白いカクテルをご準備してくれるそうだ」
両手で神々が大歓声。
待て?
準備?
どういうことですか? お嬢。
持ってきてほしいって頼んだんですけど。

ウィンク一つ。
リップが音も立てずにこう言う。
「Just leave it to me. 」
(全部私に任せて)

寒気しかしないよ。お嬢。
そうして懐よりいきなりシェーカーを出してきた。

きっと、行った先のお店でそこの店主と意気投合して、作り方を教わってそのまま作りたくなったんだと思われる。
ああ、なんて豪胆なお嬢よ。

なぜそれを振る舞う気になれるのだ。
この人たち、ほら今東京とかただの魔界じゃん。
怒ったって知らないよー。

などと、やはり適当な私は責任を明後日へ放り投げた。
そもそも私がこれを催したことを忘れるために。

お嬢は、含み笑いのままゆるゆるとカクテルを作り始めた。
まずはウォッカとオレンジジュースとなぜかアマレットまで入れて振り始めた。
なに?
それからしっかりシェイクして、くにんさんの前に出した。
それから、干し杏をぽちゃんと入れた。

「くにん様には『物語は一つの真実』を」
なに? そのタイトル? え? やだ恥ずかしい。やめて!

「えへへへ。ありがとうございます」
やだ、くにんさん、お嬢に乗っかっちゃった。

 
続いてショットグラスを用意して、バースプーンを背にしてグラスに沿わせる。
スプーンに沿うようにカルーアを、次にベイリーズを、最後にグランマルニエを注ぐ。
美しく綺麗な三層のショットグラスができる。
そこへ、ミントを浮かべた。

それをウネリさんの前に出し
「ウネリ様には『嘘つき』を差し上げます。三回以上はつけませんからね」
とウィンクである。
ウネリさんまでデレてる。
まじか、まじか、お嬢。

次に、清酒にブルーキュラソー、レモンジュース、ライムジュースをシェイカーに加えてシェイクしてグラスに注ぐ。
そのあと、日本酒をかき氷にした白いものを浮かべた。
まるで青い海に浮かぶ氷山である。

それを民話ブログさんの前に出す。
「さあ、民話ブログ様には『クラーケン』です。北欧の神話とのランデブーに落ちてくださいね」
と満面の笑みである。
民話さんはミイラのまま下を向いて、鼻を擦っているわけだ。
なに、照れてんですか?!

最後に、シェーカーにドライジン、バイオレットリキュール、レモンジュースを入れてシェイクする。グラスに注いで、ホワイトチョコレートのクリームをのせ、その上に金粉を降る。

「ムラサキ様には『ペンネーム』でございます」
きらびやかな金粉がチラチラと月夜の灯を跳ね返している。幻想的である。
でもこたつに足を突っ込んだ魑魅魍魎たちの集いですけどね。
ムラサキさんもこれには喜び、手を叩く。

「あれ、私の分は? お嬢」
しかしあっちを向いたまま、聞こえない振りである。
先ほどの労いがないのを怒っているのだ。
全く、これだから。

「お嬢、素晴らしいじゃないか。この会に花を添えてくれてありがとう。新宿まで行ってくれて嬉しいよ」
猫なで声で言った(実際猫だから仕方あるまい)

こちらを見たお嬢は、ニヤリと笑って
「じゃあ、今度、また飲みに連れてってね」
と、いけしゃあしゃあと奢りの約束を取り付ける。
お嬢とお酒を飲むと一ヶ月分の小遣いが吹っ飛ぶのだから困る。
でも仕方ない。

私には、カルーアミルクを作ってくれて、皆でもう一度乾杯をした。

世にも珍しい二度目の満月が東京駅海(今名付けた)の地平に浮かぶ。
でかいおばあちゃんたちが、目からビームを出しながら阿波踊りを踊っている。
茄子の海の上にぷかぷか浮かぶ小さな黄色い象たち。
羊も一緒に泳ぎながら、その上でタラスク様が浮いてらっしゃる。
かぼちゃをかぶった便所サンダルの男がふわふわと浮いている。その横にスマートフォンも。
裸に女性もののランジェリーをつけた50代の男が宙に二人浮いてお互いに見つめ合っている。

あれまあ。
こりゃまずい、みなさん大いに酔ってらっしゃる。
昔書かれたご自分の作品の話をしながら、あーだこーだ言うから全部この世に来ていますよ。
みなさまーー。

しかし、お嬢のカクテルや酌のスピードは止まらない。
かく言うお嬢は中也の里の一升瓶を手酌しながらグイグイいってる。
こたつが空中に神通力で浮き始めた。
こりゃどうなってるんだ。

東京駅の上に赤いこたつがうく。
そこには魑魅魍魎の類の人形たちが大いに笑っている。
おにぎり狐も一緒に浮く。
お嬢は豪胆にも笑って器を乾かす。

世にも奇妙なこたつ。

それは、夜の向こう側へと行くように。
まるで、ラピュタの最後のように。
我々は。

そう、宇宙へと。
時の中へと。

さようなら。

これにて、終。




敬愛する、ネムキ派の皆様を登場させてしまいました。
勝手な想像でのご登場いただきありがとうございました。
また、勝手にご登場させてしまったこと、この場をお借りしてお詫びいたします。
合わせて、ある種のオマージュとはいえ、皆様の作品をお借りしましたこと、もしも気に触ることがありましたら、すぐに取り下げいたしますのでご連絡ください。
普段の、皆様への感謝の気持ちを込めて。
                         -クマキヒロシ-


皆様の全作品を網羅してご紹介できないこと申し訳ありません。
まとめて雑破ではありますが、ご登場の皆様のトップページをご紹介いたします。



#ネムキリスペクト
#ものがたり
#オマージュ
#11000字

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