平成最後の夏・8月31日の夜

「もう暗くなってしまった、うーんテレビを見ても頭の中でいろんなことがいっぱいで内容が全然わからない」そう独り言をいいながら男はテレビのスイッチを切ると、ラジオに切り替えた。ラジオはいつも聞いているFMの洋楽番組が流れ始めた。DJが軽快に曲を紹介している。そのうちて曲が流れはじめた。だが男の気分は一向にもやもやしている。「やっぱりだめか、何もやる気が起きない。今日で夏休みが終わる、時計を見るのもいやだ。いつも長いと思っていたら、あっという間だもんな。8月の盆を過ぎたら・・・・。次の休みはえっといつだっけ・・・・はあ」
男はため息をつきながら呆然としている間にも時計の針は躊躇(ちゅうちょ)なく進んでいる、我に返ると深夜12時を過ぎていた「うわあ、もう9月だ、8月に32日なんかないんだ!」ラジオはすでに別の番組に切り替わっていたが、男はそんなことはもう耳に入ってもすぐに外に出ていくばかりである。「どうにか宿題は終わったけどね。ふう、なんかもう明日の朝の通学のシーンが頭に・・あそこに戻るのか・・・頼むから時間を止まってくれ」男は一人でぶつぶつ言いながらも、急激に睡魔が襲ってきたような気がしたので、焦るこおを諦めたかのようにベットに入る。「眠いけど今夜はなんとなく眠りたくないなあ。明るくなるまで起きていようか」なおもそうつぶやくが、知らぬ間に男は記憶を失って眠っていた。

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どのくらいたったのか?ふと男が目が開く。時計を見ると、朝の6時をすぎていた、すでに外は明るくなっているが、ここは自分の部屋ではなくどこかのホテルの一室。男は起き上がり、大きな窓に向かった。を見ると一面に青い空が広がり、青い海が時折白波を立てているのがわかる。
「ああ、そうだあれは夢だ。うん、しかし昨夜は久しぶりに凄い夢を見たなあ。あれは何年くらい前だろう。中学か高校生の頃だから軽く10年以上前か・・・」男は、鮮明に覚えているさっきまでの夢を思い出しながら、その時の記憶を頭の中からよみがえらせる。「あの時の8月31日の夜は確かに辛かったなあ。別に誰かにいじめられていたわけでもないんだけど、学校がどうも嫌で嫌で仕方がなかった。あの頃は毎年7月になれば、うれしくなるけど8月も20日を過ぎるといつも悩んでいたなあ。今考えたらその時点で10日以上も休みがあったんだよ。子供の時ってなんだろうね。社会人になると・・・そう今年の夏休みは6日間だけだしね」

くしくも、今日は夢の続きであるかのごとく9月1日朝であったのだ。
「交代で取る夏休みの申請を8月31日から出して、そのままこの常夏の島インドネシアのバリ島に来たたけど、そうそうこの日を選んだのもあの時のトラウマのなせる業だ」

男はそういいながら、ベットの方に振り向くと若い女性が眠っている。女性は男の婚約者である。「平成元年5月生まれの俺が、平成最後の11月に結婚が決まって、独身時代最後の海外旅行を彼女とこうやって常夏の島で迎えるのか・・・・。うんあの夢はちょうど平成の15年くらいだったかな。ちょうど人生の半分か・・。あの時は凄く必至に生きていたつもりだったけど、今考えたら些細(ささい)な事だったなあ。それにしても懐かしき思いでだった。もういいや、昨夜遅くに来たばかり今日からおもっきり彼女と常夏のビーチで遊ぶぞ!」そうやや大きい声でを出しながら、来年の新元号になった時には30歳の大台を迎えようとしている男は、婚約者の優しそうな寝顔を見てひとりほほえんだ。(終)

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