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書評「知ってるつもり -無知の科学-」

本書は認知科学・心理学の視点からチームワークの重要性を論じている。

リハビリテーションは、理学療法士や作業療法士だけで成り立っているわけではない。患者(クライアント)を中心として多職種が協働するチームがあって、はじめて効果を発揮する。

これは自明であるように思われるが、私たちはこのように考えることはないだろうか。自分が担当している患者のことは誰よりもよく知っている、患者を一番理解しているのは自分である、と。

これが正しくないことは、患者のことを説明してみればすぐわかる。

年齢はいくつであるか?

発症したときはどのような状況であったか?

どのような薬を飲んでいるのか?

他職種はどのような介入を行っているのか?

地域で利用できる社会資源にはどのようなものがあるのか?

すべてを正確に説明できる人はたぶんいない。

実際にはわずかな知識しか持ち合わせていないのに理解していると錯覚する。これは知識の錯覚といわれる。

水洗トイレの仕組みを説明したり自転車の略図を正しく書いたりできるだろうか。本書ではこれらを例に挙げて、知識の錯覚が身近にあふれていることを示している。物事は思っているよりも複雑であり、人は思っているよりも無知なのだ。

なぜ知識の錯覚が起きるのか。

それは、私たちが知識のコミュニティで生きているからである。

私たちの知識は環境やシステム、そして他者に依存している。知識の大部分は自分の外界にあり、それらにアクセスする方法を知っているという認識が、自分の知識と外界の知識との区別を困難にしている。

これは認知バイアスの一種といえる。

コミュニティでは価値観や信念が共有されて、知識の錯覚はさらに強固になる。それは、特定の理論への価値観や信念を共有する学会や研究会に所属することで、知識が増えたように思い込むことと似ている。

しかし、私たちは他者の知識に依存することで、さまざまな認知的課題を解決しているという側面もある。つまり、知識の錯覚を抱くのはコミュニティの一員であることの証でもあると、著者は述べている。

大切なことは、知識の錯覚を自覚することであるように思う。

個人の知識の限界とコミュニティの知識の重要性を認識し、コミュニティとしての成果に貢献できる個人の役割を理解する。チームワークの本質ではないだろうか。

知識の錯覚を自覚できれば、他職種との対立も少なくなるかもしれない。

医療従事者に限らず、おすすめしたい一冊である。

スティーブン・スローマン フィリップ・ファーンバック 著(2018年)

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