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月例落選 短歌編 2023年3月号

角川『短歌』に投函したのは2022年12月13日。題詠は思いつかなかったので、雑詠四首の投稿のみ。

気休めに訳のわからぬ薬打ち破顔一笑冬の黄昏

老人に席を譲った八十五スマホ見つめて固まる地蔵

防衛費賃上げ値上げ税上げてあなた頼みで政治崩壊

ブルータスお前も君もブルータス忘れた頃に国葬続き

都の集団接種会場で4回目の注射を打つ時、看護師に「それでBA1とBA4・5はどう違うんですか」と尋ねた。一瞬の間があって後、
「それは先生に」
と言うので、
「そりゃそうだよねぇ」
と応えたら、なんだかおかしくなって、二人で大笑いになった。結局、人の行き着くところは、何があってもなくても同じなのだが、目の前のことでとてもあたふたする。不思議でもあり滑稽でもある。

12月の最初の週末、昼に母と新宿で待ち合わせて食事をした。そこに来る時、埼京線で手押し車を押して乗車してきた女性に席を譲ったと言う。
「だって、誰も席を譲ろうとしないんだよ」
と言うのである。その手押し車の女性が何歳くらいなのか知らないが、母はその時点で85(現在86)だ。老人同士で席を譲り合って利用する公共交通機関の車内の様子というのは、かなりシュールな気がする。おそらく、他の客はスマホを眺めて地蔵のように固まっているものなのだろう。つまり、血の通った人間のようではないらしい。ま、埼京線だし、こんなものか。母の話を聞いて大笑いした。

いろいろなものが値上がりしている。石油ショックだとかバブル経済だとかを経験しているので、この程度の値上げは個人的な感覚としては「値上げ」のうちには入らないというのが正直なところではある。しかし、国民生活に影響がないはずはない。ところが、政治に関わるところは、どこも誰もどこか他人事のような風情だ。何ができるわけでもない、という正直さがそうさせているのかもしれないし、本当に何もできない政治なのかもしれない。

古代ローマの終身独裁官であったガイウス・ユリウス・カエサルは独裁制固定化へ危機感を募らせていた共和主義者らによって暗殺された。その暗殺者の中に息子のマルクス・ユニウス・ブルトゥス(いわゆる「ブルータス」)もいた、とされている。それで、暗殺団に襲われた時、「ブルータス、お前もか」とか「息子よ、お前もか」と宣ったと、シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』の中の台詞にはある。本当に「独裁」と言えるような状況なら「殺すしかありませんね」というような物騒なことになるのだろうが、そこまで政治が衆目の関心を集めているとも思えないので、誰もが呑気でいられるありがたい世の中だと思っている。それでも昨夏のようなことも起こるので、本当のところはビンビンに緊張しているのかもしれない。

ちなみに、カエサルは享年58歳だったそうだ。山田風太郎の『臨終図巻』にもカエサルのことが書いてある。それについては以前に書いた。

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