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自分の「好き」がやっぱり尊い

先週の金曜日、仕事をちょと早めに切り上げて、映画「勝手にふるえてろ」を見てきました。

映画を見た後に、いろんな方のレビューを漁るのが習慣なのですが、そんな中に多く見られたのは、「ヨシカ(松岡茉優演じる主人公)は私だ」という声。そして、わたしもその一人です。

ヨシカ、本当におかしな子なんです。世間的には「こじらせ女子」(この言葉、いろんな複雑さを無視している気がして好きではないのだけれど)。こんな子が会社にいたら異常…とも思われてもおかしくないような子でも、「私だ」と感じる人が大勢いる。

映画や小説を読んで感じる、「これは私だ現象」は、私の中でけっこう頻繁に起こっていて、とくに大好きな西加奈子さんの小説を読むと、些細な心の描写に、「なぜ私のことが分かってしまうんだろう…」と思うことがとても多い。ちなみに、私の中の西さんの小説には二種類あって、「私っぽい」ものと「私っぽくない」もの。ちなみに、「私っぽい」と思うものは、「円卓」のこっこちゃん、「きいろいぞう」のツマさん、「こうふく みどりの」のみどりちゃん、「漁港の肉子ちゃん」の喜久子…など。些細な描写だったらもっとあるんですけどね。

今私は、ここで「私もだ!」って思った方、多いんじゃないかな?って勝手に期待しております。

これまでの経験上、世界中の「私」は、みんなそれぞれ違うはずなのに、私が「これは私だ!」と感じた登場人物に同じ思いを抱く人が、驚くほど多いんです。

これって本当に不思議。でも、今回はここを考察するのではなく、一人の「作り手」として、私が「これは私だ」と思えば、それなりの数の人が「これは私だ」と感じるという事実はけっこう重要なんじゃないかということを考えてみたいと思います。

ちょっと話は飛ぶけれど、スープストックなどを生み出した、Smiles:代表の遠山さんの言葉で、ずっと引っかかっている言葉があります。スマイルズは、マーケティングをしないそうですが、その理由が、「アーティストが作品を作るときに、『どんな作品が見たいですか?』って調査しないでしょ?」だといいます。なるほど…。スマイルズは、会社にアート作品が飾ってあったり、芸術祭に会社として出品したりするだけではなく、経営面でも「アーティスト魂」を大切にしている会社。だからこその発言ですが、そう、自分の表現したいことがあったら、それを表現するのが一番シンプルで素直ですよね。そしてそれが世間に受け入れられている。すごく憧れるサイクルです。

そして、先ほどの話。「勝手にふるえてろ」の監督、大九明子さんや、西加奈子さんは、「観客/読者はこんな人を見たがっているはず」「こんな人を書けば、多くの人の共感が得られるはず」と思って作品を作っているのか…直接聞いた訳ではないけれど、きっと答えは「NO」だと思います。お二人は、自分の表現したいことを表現したのだと思います。そしてその結果、多くの人の共感を得た。

私は映像制作をしているのですが、撮影量が多く、編集もなかなか悩むタイプです。それ自体はそこまで悪いことではないと思うのですが(時間がかかるという意味ではマイナスですが…)、その原因の一つが、「プロデューサーが望むこと」「上司が好きそうな物」などを考えすぎていることにあるのだなと気づいたのです。

映像は一人で作っている訳ではありません。私はディレクターの立場で、映像が世に出るには、上司のチェックをくぐったり、プロデューサーのチェックをくぐったり、クライアントのチェックをくぐり抜けなければなりません。

もちろん私は小説家や映画監督など、自分の名前で仕事をとってきているのではなく、あくまでも会社に来た仕事を担当しているにすぎません。だから、私の好きだけを突き通す訳にはいきませんし、いろんな人の意見を聞くことで作品は良くなっていくものです。

でも、「私はこれが好きだ」「私はこれがいいと思った」ということを追求せずに、「これは入れておかないと何か言われるだろう」とか、「あの人がこれがいいって言っていたしな」とかいった考えが視界を遮ってしまって、結局自分の「好き」も伝えられずに中途半端な物になってしまっていることが多いのです。

でも、やっぱり思います。物を作る上で大切なのは、「自分はどこが好きか」ということ。自分が「好きだ」と思ったことがきちんと伝われば、それを「好きだ」と言ってくれる人がきっとたくさんいる。だって、自分は作り手でもあるけど、受け取り手も、世界中の「私」だから。

だから物を作るにしてもサービスを作るにしても、大切なのは、「何が望まれているか」ではなく、「自分はどこが好きか」を追求すること。そして、それをうまく表現すること。悩むならそこに悩むこと。それに成功すれば、きっと多くの人に受け入れられるはずです。

だって、世の中にはこんなに「これは私だ現象」で溢れているのだから。

私たちの作り出した物を待っているのは、私たちだから。

金曜の夜にビールを飲みながら映画を見るという幸せな時間を過ごした結果、物を作る上で、大切にしたいことが頭の中で何となくまとまったので、書き記してみました。でも大切だからもう一回書く。

自分の好きがやっぱり尊い。


写真は塩川 雄也 -Yuya Shiokawa- さん。あ、前にも使わせていただいたな。この写真、すごくキラキラしていて、少年の生命力とかがみなぎっていて大好きです。


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