心に残るのは、少し厳しい正直な言葉

「人生で一番嬉しかったこと」はなんですか?

私が参加しているコルクラボで先日、漫画家のこしのりょう先生(こっしー)が主催する漫画倶楽部が開催されていて、参加したメンバーたちの絵がTwitterで流れてきました。(私は不参加でしたが…)

漫画のお題が、「人生で一番嬉しかったこと」。流れてくる様々な嬉しかった思い出を見ながら、自分のことも考えてみたのですが、最初に浮かんできたのは、自分の人生の転機となる瞬間でも、大事な人がくれた言葉でもありませんでした。

私は大学を卒業してすぐ、就職をせずにニューヨークに留学していました。(すねかじりのモラトリアムです。)一年間専門学校で映像を学んで、その後一年間、日系の映像制作会社でインターンをしていました。当時の私は、英語にすごく苦手意識があって、こんなんじゃ、ニューヨークで仕事はできないな…と思っていたのですが、「とりあえず1ヶ月はインターンでお試し」という前提で働かせてもらえることになったのです。

先輩社員さんのお手伝いや電話番、様々な雑務で慌ただしく過ごしているうちに、約束の一ヶ月はとっくに過ぎていて、私自身はここでもっとしっかり働きたいなと思ったのですが、責任を持って仕事を全うできる自信はありませんでした。

周りの社員さんや、友人に相談すると、みんな口々に、「あなたならできる」と背中を押してくれて、先輩スタッフさんが一人退社することもあって、思い切って自分から上司に「社員になってもっと仕事をしたい」とお願いしてみました。

上司から返ってきた言葉は、

「あなたにはまだ無理だと思う。」

という厳しいものでした。

でも、そのとき、落ち込むというよりも、なぜかほっとして、すこし嬉しかったのを覚えています。自分でも、無理だと思っていたから。

私は自分に自信がない系の人間で、何をするにも「自分には無理だ」と思ってしまうのですが、周りにいる人の励ましや、「自分が無理だと思うことに挑戦することが自分を成長させる」という言葉を信じて、えいやと飛び込むことが多かった。

そして、私の周りの人たちは、いつも、「あなたならできる」と背中を押してくれたけど、私の中では「そんな甘くないでしょ」という思いもいつもありました。また、周りの人が「よくやったね」といってくれても、自分では「これで評価されてもいいのかな」と思っていました。

正直に「無理だと思う」と誰かが言ってくれたのは、そのときが初めてだったかもしれない。

それまでは学生だったこともあり、挑戦が尊重されることが多かったので、なおさらその言葉が貴重に思えました。そして、「挑戦しなきゃいけない」と張りつめていた自分の糸が少し緩んで、「やっぱり無理なんじゃん」と安心できたのは不思議な体験でした。(怠惰と言われれば、そうかもしれません…)

その後は、引き続き先輩のお手伝いをしながら、少しずつできることが増え、メールアドレスをもらったとき、名刺をもらったとき、会社の鍵をもらったとき、その一つ一つの階段を登れていくことに幸福を感じていました。

結局先輩社員のようにばりばりと仕事をまかされることはなかったけれど、帰国を決めて退社を告げたときに、その上司が

「やめないで」

と言ってくれたことが本当に嬉しかった。そのとき、私はあの会社では何も残せなかったけど、でもちゃんと自分のできることをしたんだと自信を持つことができ、少しおかしな話だけど、「ああ、これで辞められる」と思ったのです。そんな、卒業証書のような言葉でした。


この経験から、だからどうだと語れることはないし、もっと抽象化できたらいいなとは思っています。

無理なことに挑戦するのはやっぱり大事だし、できないからって簡単なことしかしないで心の安定を保つのもなにか違うとは思っています。

でも軽はずみの励ましなんかじゃない、私をきちんと評価してくれたうえでの厳しい言葉は、励みになるし、救われることもあるんだな…ということをふと思い出したので、ただの思い出話になってしまったのですが、今回のnoteを書いた次第です。

「嬉しかったこと」でこの思い出が浮かんでくるとは思わなかったな。

読んでくれてありがとう。

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