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バラバラだったものがつながる瞬間

何かに一人前になるには、1万時間の積み上げが必要だ。

というのは、よくいわれていることだと思うのですが、最近、もっと緩やかな感じで、この言葉を実感する出来事がありました。

私たちには、「一流」まではいかなくても、「わかりたいな」「理解したいな」ということがあると思います。私でいうと、例えば百人一首がそれなんです。(あくまでも、趣味・雑学の領域ですが)

祖母の影響で、小学校低学年で、カルタ気分で遊んでいた百人一首。中学生のときに、冬休みの宿題で百人一首の暗記が出たときに一度全て覚え、高校で深く古典を学ぶ中で、意味が分かる歌も出てきました。(今はちょっと忘れてきているのですが)

百人一首って、すてきですよね。1000年も前に生きていた人たちの、その内面を映し出した歌。今読んでも共感する内容もあれば、当時の文化、習慣などを知って驚いたり、たくさんの技法が駆使されているそのテクニックに感嘆したり、何通りもの楽しみ方があります。

私は、百人一首のその文学のような、エンタメのような、歴史のようなところにすごく惹かれるのですが、「好き」なだけではなく、もっと理解したいな…と思っていました。

でも、これは「興味」の範囲なので、とことん突き詰めたりとか、研究したりとか、そんなストイックなことはしていなくて、関連する書籍を読んでみたり、テレビで特集されていれば見てみたり、緩やかに関わっていました。だから、興味があっても、しっかりと理解できてはいないという状況が続いて、私の中で百人一首は、「何となく分かっているけど、掴みきれないもの」という立ち位置だったのです。

そして最近、ある本に出会いました。話題になっているので、読んだ方も多いかと思うのですが、最果タヒさんと、清川あさみさんによる、「千年後の百人一首」です。

百人一首の歌、一つ一つに込められた思いを、清川さんが作品にし、最果さんが、「新訳」の詩をつけているというもの。

この最果さんの「新訳」は一般的な「解説」とは違い、歌の内容を説明するものではありません。でもこれを読んだとたんに、私の中でこれまでバラバラだった「百人一首」の歌の世界が、ぱっと「繋がった」という感じを覚えました。目の前にふわっと風景が広がり、その後に解説を読むことで、歌の世界をこれまで以上にスルスルと理解できたのです。

特に、多くの人が百人一首ではじめに覚えるであろう、坊主めくりのダークホース、蝉丸さんの歌

これやこの 行くも帰るも 分かれては 知るも知らぬも 逢坂の関

この新訳が、エモくて、エモくて…。

この歌に関する最果さんのTwitterはこちら

この他にもすばらしい詩が多いので、ぜひ読んでいただきたいのですが、このnoteで私が書きたかったのは、なぜこの本を読んだら、百人一首への解像度がグンと上がったかということ。

この本は、これまで、どちらかと言えばお勉強チックに百人一首に触れていた私に、新たな視点を与えてくれました。

一つは、頭の中に思い描けるような風景の「イメージ」。もう一つは、それを詠んだ人の「感情」。

この2点の視点が加わることによって、タイトルの、「バラバラだったものがつながる瞬間」に出会えたのだと思います。

しかし、だからといって、あまり知識のないときにこの本に出会っていても、なかなかこの瞬間には出会えなかったと思います。

これまで積み上げてきた知識があったからこそ、そこにほんのちょっと違う風が吹くことで、理解度が上がった。

これは、どんなことにも言えると思います。

何時間も勉強しているのに、なかなか理解できない。そんな時、ある先生の話を聞くと、びっくりするほど理解できるようになった…。これは、それまでの勉強の仕方が悪かったわけでも、先生が優秀すぎる訳でもなく、ある程度の積み上げを行って、そこに必要だったピースがはまったからに他ならないのではないでしょうか??

だから、思うのです。なかなか成果が出なくても、その積み上げは無駄じゃないんだよって。ただ、ほんのちょっとだけ違う視点を入れられれば、その積み上げが効いてくるって。そして、理解するにはやっぱり、積み上げが必要なのだって。

でも、その「違う視点」も、出会うタイミングによって、ピンとこなかったりするのが難しいところだし、むやみに積み上げているだけっていうのも、効率が悪いと言われてしまうのは事実。

ただ、私は、「要領は悪いけど、積み上げることができる」。逆に、「量はこなすのに、成果に結びつかない」という、「がんばり方がヘタ」なタイプだったので、「やってもやってもうまくいかない。私はダメなんだ」と思ってしまいがちだったんです。

そのままでいいとは思わないし、もっと要領よくできたらとは思うけど、でも、そんな私や、私みたいな人に、「積み上げてきたからこそ、ある時それがつながる瞬間があるよ」ということを、少し声に出して、言ってみたかったので、今回の体験をきっかけに、このnoteを書いてみた次第です。

それはさておき、とてもすてきな本なので、「千年後の百人一首」、おすすめです。

※お写真は、佐賀野宇宙さん。百人一首のイメージは、もみじなんです。青空と真っ赤な紅葉のコントラストがすてきで選びました。


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