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服装は伝えるアイテムです!

自民党のトップを決める総裁選。立候補届出締切りのギリギリで野田氏が加わり、候補者4人が出揃いました。それぞれの立場でひとりでも多くの支持を得ようと、特色を活かした論陣が張られています。テレビ番組でも、ニュースでもこの4名の顔を見ない日はありません。

そこで気になるのは各候補の政策です。日本をどこに向かい進めてゆくのか。その推進力をどこに求めるのか。そして、個別の政策では何に主眼を置くのか。その政策実現の目安はいつなのか。それぞれに個性が出るところです。他方で、これまで折に触れ強く訴えてきていた政策が影を潜めたかのように全く聞かれなくなっていたり、トーンダウンしていたりする候補者もいます。後ろにつく方々への配慮なのか、能ある鷹は爪を隠す、のか。この辺りもどこまで隠すのか、いつ表に出すのか、その辺の戦略も興味津々です。

でも、どんな政策も、伝えたいことを国民に伝わるようにするためには、その方法を選ばなければなりません。これには二つの方法があります。ひとつは言葉です。言葉は、伝えたいことを話したり、印刷物にしたりして、相手に伝える直接的な手段です。そしてもうひとつの方法は、言葉以外の音や物、そして服装などで伝えるという方法があります。これらはコミュニケーションとして「バーバルコミュニケーション」「ノンバーバルコミュニケーション」とも言われます。

政治家は言葉が命です。ですから常に「何を言ったか」はとても重要視されます。でもそれは「どう言ったか」によって相手に伝わる印象が変わってくることがあります。言葉だけでなく雰囲気も含めて「どう言ったか」。これがノンバーバルの威力です。

バーバルとは会話や文字情報などの「言葉」によるもの。これに対してノンバーバルとは、言葉以外の表情や声のトーン、話すスピード、身振り手振り、更に服装などによって相手に与える印象のことです。何かを伝えるためには言葉が重要なのはもちろんですが、ノンバーバルによって、その伝わる印象がガラッと変わるのも事実です。

例えば、総理大臣が、小さな声でぼそぼそと大切な話をしていたとしたら、それを信頼して「よし、この人を応援しよう」と思えるでしょうか。また、あなたの選挙区の政治家が、襟の汚れたシャツに膝の抜けたズボンを履いて駅前で演説をしていたら、その人を信頼して応援しようと思うのは難しいのではないでしょうか。

これが言葉の情報以外が印象を左右するノンバーバルの影響力

今、メディアでは、総裁候補の背景や主張についてたくさんの報道がなされています。そこで、あえて今回は、言葉以外のノンバーバルが与える印象に焦点を当てて、各候補の服装を中心にお話ししたいと思います。


スーツが与える印象


男性のスーツ用の生地で定評があるものには、「ドーメル」や「ロロピアーナ」、「ゼニア」など有名ブランドが沢山あります。しかし、総裁候補者が着用するものとして重要なのは、どのブランドを着ているか、ではなく、どんな生地を選んでいるか、です。スーツは、生地によって与える印象はガラッと変わります。これは男性でも女性でも同じです。例えば、生地の艶は、その生地を織りなす糸の太さや素材によって変化します。更に艶は下品にならずに程良いさじ加減であることがとても大切です。でも、今はまだ「候補」の時期です。まだまだ「総理」と見紛う艶出しは控えた方が無難なタイミング。例えば、モヘアというアンゴラヤギの素材がありますが、皴になりにくさから、忙しい時や汗をかき易い時期には特にモヘアの素材はおススメですが、他方で艶感が出過ぎる危険性があります。私のクライアントの政治家には、「堂々と見せたい」ときにもお勧めする生地ではありますが、総裁選という場面ではこの艶感を選ぶのは控えた方が無難です。「既に総理の風格」の艶感を見せることが候補者である今の自分にとって有利かどうか。この視点で検討したとき、今は「煌びやかに見せる」というタイミングではありません。

スーツの生地で大切なのは、艶だけではありません。色の奥深さ襟の幅とネクタイとの調和、シャツの襟元、そして何よりご自身の身体にあったものかどうかが重要なポイントになります。最近は、オーダースーツ流行りで既成品とさほど変わらない価格でオーダーできるお店もあるようです。でも、メジャーを持つ人の技術の高低が如実に表れてしまうのもオーダーの特徴です。どこのテーラーさんのどんな人に採寸してもらったものなのか。仮縫いで注意するポイントはどこにあるのか。自分の身体の特徴を知り抜いていなければ、体にフィットした良いスーツはできません。総裁選に立候補するときに身に着ける服は、戦の時に着用する「鎧」です。手に持つもの、身に着ける小物は「武器」です。今日はそれぞれの候補の鎧と武器を見ていきたいと思います。

河野太郎氏

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河野氏はその話しぶりに歯切れの良さが光ります。眉間のしわも、時折り少し甲高くなる声も、自身の主張を分かり易く伝えるアイテムとなり光っています。服装も品よくまとまっていて、そう悪くはない印象です。生地は「ゼニア」の「トロフェオ」でしょうか。番手の細い糸を使った濃紺のスーツは、ほど良い艶感で総理総裁にふさわしい上品な印象を与えます。特に大きく外している部分は無いようにみえるのですが、気になるのは、ネクタイと上着の襟です。

ネクタイと襟元

先ず、ネクタイの色はともかく、ネクタイの素材がスーツの生地と合っていないように見えるのが気になります。スーツが糸の細い「トロフェオ」クラスのものでしたら、ネクタイも光沢感のあるものの方が、バランスが良くなります。そして、河野氏のスーツは、襟の幅が割と太めの作りになっていますが、その襟の幅にネクタイの幅も合わせるともっと堂々と見えてきます

もう一つ言うと、ネクタイの締め方がちょっと甘い。もっと根元をキリリと締めこむと、シャープな印象が更に増し、話す時のストレートな印象とマッチして良いと思います。この時お召しになっていたスーツは、相当立派な品でした。議員が国会議員バッヂをつける部分をフラワーホールと言いますが、この襟のフラワーホールが手縫いで縫われていました。今どき、このようなことができるテーラーさんはあまりないと思います。さすがサラブレッドですね。

岸田文雄氏

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岸田氏は、上品な殿様顔が印象的です。4候補の中でも落ち着きぶりはピカイチでしょう。ただ、強いて言えば落ち着きすぎて、活動性、力強さに欠ける印象になっているのが残念ポイントでしょう。

シャツ

岸田氏がいつも身に着けるシャツの襟は、「レギュラーカラー」というオーソドックスなものです。どんな骨格の人にも似あうデザインですので、失敗にはなりにくいのですが、堂々とした印象を作るにはスッキリしすぎです。そして、何より本当に残念なのは、シャツの襟元のサイズがご本人の首のサイズと合っていないことです。お痩せになられたのか、元々あっていないのかはわかりませんが、襟周りは、ジャストサイズが絶対条件です。

シャツの使い方で参考になるのは小泉進次郎氏です。小泉氏のシャツはワイドカラーという襟元が横に広がっているデザインがほとんどです。

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ワイドカラーは、ネクタイを外した時もきれいに襟が開くので、夏場にも爽やかな印象をつくることができるのが特徴です。そしてこのワイドカラーは、ネクタイの結び目をしっかり見せるので、堂々とした印象を作ることができます。ネクタイはその先端を「剣先」と呼びます。男性にとってネクタイは剣という武器の象徴です。その剣を強くたくましく見せることは、日本の総理を決めることとなる総裁選挙では重要なポイント。

そのネクタイを活かすシャツの襟元を活用されると、「さすが派閥の領袖」という堂々とした印象を与えることができるのではないでしょうか。今回の総裁選で、自分の派閥を持っているのは岸田氏だけです。この強みを活かしそこを魅せるのは、シャツの襟を変え、堂々とした印象を作ることが良いのではないかと思います。

高市早苗氏

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高市氏が、この総裁選に出馬すると発表した会見で、驚いたのはその印象の変化でした。総務大臣のときも、もっと柔らかなイメージでした。変えたのは、話すときの声のトーンと、話すスピードです。随分と時間をかけて準備されてきたことが窺われます。

まず、堂々と見せるため声を、一段低くしていました。そして話すスピードもぐっと落としてきました。総理総裁が、甲高い声で早口で話していたとしたらと思うと、ちょっとがっかりしますよね。どの組織もトップに立つ人は、堂々とした印象が何より大切なのです。この点、高市氏はとても上手く印象を整えてきました。

ただ、残念だったポイントが二つあります。
一つはメイクです。

女性はメイクができるところが強みです。ですから、今回のように男女と性別の違いが見える戦いでは、メイクアップで印象を作ることができる点は、男性に比べるとメリットです。その逆に、メイクを失敗するとだらしない印象になってしまったり、作りこみ過ぎると整形したかのように見えてしまったりして、信頼を損なうことがあります。

高市氏の場合、メイクで残念だったのは、眉の作り方です。眉頭をハッキリ描きすぎたことで不自然さを見せてしまいました。眉は人相学でも「生命力」を表すといわれて、心理学では「意思を表現するパーツ」とも言われています。どちらも政治家にとってないがしろにできることではありません。男性の政治家でも眉だけはメイクをお勧めすることがあります。あまりに薄い眉は、生命力が儚く見えることがあるからです。ただ、これも濃く描きすぎると、作りこみが見えすぎて信頼を損なうことにつながります。眉頭は眉間から徐々に強く眉山に向かうのがポイントです。

もう一つは、ブルーのジャケットの下のインナーです。女性の場合、ジャケットの下にシャツではなく、カットソーを着用することは間違いではありません。高市氏が尊敬すると公言するイギリスのサッチャー氏も、よくジャケットの下にカットソーを着ていました。

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ただ、高市氏のインナーの色が黒というのが残念です。黒はフォーマルな場面で活きる色です。そしてジャケットのブルーの下に黒を持ってくることで、胸元が固く重い印象を作ってしまいました。

男性のネクタイについてお伝えしましたが、ここにどんな印象をもってくるかは勝負どころです。胸元は社会的立場と経歴を示す場所でもあります。フォーマルの黒ではなく、ジャケットと同系色を使うことで統一感を出したり、白をもってきて「新しさ」「潔白」を印象付けたりしても良いと思いました。男性陣はどの方も白シャツという点からも、男性に引けを取らない印象を魅せるのも良かったのかもしれません。

野田聖子氏

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野田氏はこれまでも総裁選へは何度もチャレンジを試みてきたといわれています。「出馬か?」といわれてから立候補の発表まで時間がかかりましたが、「待ってました!」と推す声が聞こえてきたのはこれまでの経緯があったからなのでしょう。今回は女性初の総理大臣を目指して二人が立候補していますが、今回は立候補表明が遅くなった分、本来ならば「後出しじゃんけん」の強みを、もっと活かすことができればと思うと残念です。

もう数年前になりますが、拙著に野田氏のことを書かせて頂いたご縁で、直接お目にかかりお話したことがありました。その時、女性政治家の服装について野田氏は、「私はあまり頓着がないので、濃紺の飾り気のない服が多くなる」と仰っていたことが印象的でした。いつもシャキッとしたスーツに柔らかな印象のヘアスタイル。男性が多い議場の中でも悪目立ちすることなく、それでもキラリと光る姿がとても印象的でした。そして私の愛用しているバッグが、たまたま野田氏と同じだったことも話を盛り上げるきっかけになりました。

その野田氏が、今回の総裁選の場で、濃紺とグリーンの入ったチェックの上着を着ていました。チェックという柄は、とてもお洒落な柄です。でもその分カジュアルに見えるのが弱点です。今回のように男性と肩を並べてその椅子を争う場面では、いつもの濃紺のシャキッとしたスーツの方が、より強さをアピールすることができたのではないかと思います。もともと、リベラルと評される思想の方ですから、演出で「柔らかさ」を出す必要はないはずです。もっと固く重く力強い印象をつくることの方が、よりご自身の意思を表現できるのではないかと思いました。

もう一点、髪型も同じ理由で、もう少し短くまとめられた方が良いと思いました。肩にかかる髪は艶もあり、ウェーブが優しい印象で、これが総裁選でなければとても素敵なのですが、今のタイミングではあと10センチくらい短めの以前のスタイルがあっているのでなないかと思います。そして、敢えて申し上げると、お手元の石のブレスレットは無い方が良いでしょう。邪気を祓う等の意味合いで身につけるのがこのタイプのブレスレットですが、私のクライアントには手首につけることはやめて頂いています。何かにすがる、助けを求める、守ってもらおうとしているという弱さを見せるのは、得策ではありません。このような場面では、見えないところに身につける方が良いでさょう。

伝えること、伝わること

何かを伝えたいと思ったとき、つい言葉に重きを置きそこを追求して時間もかけてしまいがちですが、見た目の印象は大きなインパクトを与えます。どんな言葉も「誰が言うのか」「どんなふうに言うのか」で受ける印象が変わります。また、その印象をより補強するものとして服装や髪型はとても大きな要素を占めます。日本人は選挙での服装や話し方に頓着がないことで有名ですが、世界では通用しません。伝えたいことを伝えるには、バーバルとノンバーバルの両方を活用して、より伝わりやすくすることが、むしろ相手へのサービスとなります。政治は暮らしそのものならば、無意識に訴えかけるノンバーバルの側面にも主張を巡らせてほしいと思った、総裁選のスタートでした。

さて、この結果はどう出てくるのでしょう。引き続き注目していきたいと思います!


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