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敵の敵は味方!共産党が選挙区勝利する沖縄1区で、自民党の悶絶劇!

「政権交代を、この沖縄から始めるのです!」
「政権交代しかないんです!」

大きな街宣車の車上。マイクを渡されては力強く演説する現役政治家が、この言葉を口にすることに、私はいささか驚いていました。

「政権交代」って、今回の選挙でこれを訴えるんだ。沖縄はエネルギー高いってことか。

辺りを見渡すと、鮮やかな緑色ののぼり旗に「政権交代」と書かれあちこちではためいています。ここは沖縄県庁前県民広場。10月27日の12時過ぎ。太陽が真上から容赦なく歩道を照りつけます。

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私は、緑ののぼり旗を撮ろうとスマホを片手に周囲を見渡しました。その時です。私の腕の後ろに何かが触れました。誰かにぶつかったかと振り返ると、麦わら帽子を目深にかぶった小柄な女性がもう一度私の腕を引いてこう言ったのです。

「写りこむ!写りこむ!!」

何のことかと一瞬わからなかったのですが、その方は、私のカメラで自分が写るのを避けたかったのです。
「すみません!写していませんので大丈夫です!ごめんなさい!」


こんなに沢山の人が集まっている公の場所で、テレビカメラも何台も設置されている場所に来ていたとしても顔を隠したい人がいるくらい、政治はいつもデリケートな部分をはらんでいます。それは個人的なことだったり、職場に知られては困ることだったり、でも、集会には参加したかったり。


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車上では、そろそろ城間みき子那覇市長の挨拶が始まるところでした。
「はいさーい!」沖縄の土地言葉で「こんにちは!」という意味。この呼びかけに、集まった人たちが「はいさーい!」と手を振り答えます。続く、玉城デニー知事の挨拶も人気を拍手喝采で始まり歓声の中で終わりました。
いよいよ、共産党の志位和夫委員長の登壇です。この間、太陽の照りつける車上でずっと挨拶を聞き、頷き、拍手をして待っていました。政治家は体力があるとはいっても、私でも暑さに参ってしまいそうな真昼の直射日光の下。私が沖縄入りしたのは、志位委員長の演説が聞きたかったからでした。

大義、親を滅す


ひとことで野党共闘といっても、それは大変なことだと思います。共産党は政治思想のある集団。選挙に勝つために政党に所属する選挙互助会と化した政党とは一線を画するのはこの点です。その党のトップで、政策の違う他党と手をつないででも、自民党政治を終わらせようという考えのもと、自らの政党の立候補者を下ろしているのです。それは、他の野党も同じ苦しみを味わっているとは思います。でも、共産党は全国で候補者を立てる力が十分にあります。またその理念の実現に情熱をもって取り組んでいる共産党員が全国にいるのです。そのメンバーを説得し納得させながらも自分の立ち位置を揺るがせないリーダー。これがどれだけ大変な労力を要することか。野党共闘の難しさを思うとき、志位さんの意思の力と人間力に感嘆します。念のため、私は共産党の思想そのものの話をしているのではありません。例えると、社長が社員と共に自社製品を売り、その会社の理念に基づいて成長していく過程で、あるとき、社員に他社製品を盛大に売れと命令するようなものなのです。ましてや、今共産党は、民主党系の野党に失望した有権者の受け皿となり議席を増やしている最中でもあるのですから。大義のために捨てられるものを全て捨てたのでしょうか。私は、ここにとても興味があったのです。

志位氏は、柔らかな口調で語り始めました。

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私の、演説のメモにはこれが残っていました。↓

「辺野古に新基地を作らせない、新型コロナの対応は党派を超えてやらなければならない、しかし、それでもなお、今のこの状況を変えなければならない!」
「アベノミクスの中のトリクルダウン、そのうちに庶民まで回って来るっていうけど、9年かかって回ってきましたか?来ないでしょ。だからもう、政権交代するしかないんです!」
「沖縄は最低賃金が820円でしょう。それを時給1500円まで上げましょう。高すぎる学費を半分に、入学金ゼロ、儲かっている企業に負担してもらいましょうよ。消費税は5%に、これを赤嶺さんに託して!」
「地球の問題。地球温暖化の問題が、サンゴ礁を壊している。岸田内閣に地球を任せるわけにはいかない!」

志位さんの穏やかな口調が、だんだんと熱を帯びてきました。

「ジェンダー平等、テレビでご一緒だった時、岸田さんに申し訳ないけど「障害はあなただ」と言いました」
「選択的夫婦別姓も、党首の中で、1人だけ手を上げない、それが岸田さん。以前もおなじでした。安倍さんは手を挙げなかった。政権交代しかない!

ここでも政権交代が出てきて、これが沖縄の特徴なのかと思ったとき、志位氏はこんなことを言い始めました。

「オール沖縄に、赤嶺さんに、託してください。沖縄は市民と野党の結集の発祥地です。

え?

「総選挙でのオール沖縄2014年(初めて手を結んだ年)。翁長さん(故沖縄県知事)が、言ったことを私は忘れません。
保守が革新に敬意を持ち、革新が保守に敬意を持ち、一緒にやっていきましょうと。(これからは)それを本土でもやっていかなければならない。これが始まりなんです!」
「野党結集が始まったこの沖縄から政権交代をやろうじゃないですか!」


そうか。野党がそれぞれの候補者を打ち立てているうちは、自民党に勝つことはできない。それどころか、自民党を勝たせることに与していることになる。野党共闘という選挙協力体制を最初に作ったのは、志位さんと翁長さんなんだ。それでのぼり旗が「政権交代」なんだ。

着なれたかりゆしを着ている志位さんを見ながら、私はこんな言葉を思い出しました。

「大義親を滅す」というけれど、君主や国家の大事のためには、肉親の情をも省みない。これが志位さんの本懐なのかもしれない。


三色の旗の意味

私は、妙に納得しました。のぼり旗を見ようと振り返ると、緑色の旗の中に、3色の国旗の形状の旗が空に大きく揺れているのを見つけました。

え?え?
あの旗、どうして?ここに?

あれ、創価学会婦人部の旗じゃない?

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(↑左、三色旗)

その三色旗がオール沖縄の結集会の場にあるのです。言うまでもなく、創価学会は公明党の支持母体です。だから自民党の候補者を支援するのが当然のはず。何があったのか、知り合いの那覇市議会議員に聞いてみたのですが、真相は分かりませんでした。その市議が言うには「自分も良く判らないけど、このコロナで暮らしができない人は増えてるから。食べるにも困ってたら、何やってんだってことになるよね」

推測でしかありませんが、確かにそうかもしれません。コロナ禍は、雇用弱者を直撃しました。仕事を休業せざるを得なかった、収入の道が閉ざされた人がたくさんいます。年収200万円以下の人は、年収600万円以上の人の16倍もいるそうです。非正規は正規の5倍、女性は男性の3倍もの人が、収入減に苦しんでいるのです。もう耐えられない人たちがそこにいたのでしょうか。

自民党の悶絶劇


今回の解散総選挙の中で、沖縄の特殊な事情はこれだけではありませんでした。沖縄1区は、共産党が自民党を制した選挙区です。これまで、自民党の候補者は選挙区を勝ち取れなかった場合は、「九州ブロック」という枠の中で、九州の自民党が獲得した比例票で復活当選してきました。そのうえ、今回はどうも、もうひとひねりあるようなのです。

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今回、沖縄1区に無所属で立候補している下地幹郎氏がいます。下地氏は沖縄で二番目に大きなゼネコン、大米建設の創業者下地米一の息子です。
1996年に自民党から立候補し、比例復活で当選してから、国民新党に党を移り、2014年に維新から比例で当選してきた経緯があります。その下地氏の選対本部長に名を連ねているのが、なんと沖縄最大のゼネコン國場組の会長の國場幸一(ゆきかず)さん。敵候補の國場幸之助氏の父親なのです。
國場幸之助氏は自民党の現職衆議院議員。同じ1区から立候補しています。これは一体どういうことでしょうか。

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自民党候補者の親族が、ライバル候補の選対本部長?!

沖縄1区には、共産党の赤嶺政賢、自民党の國場幸之助、無所属の下地幹郎が立候補しています。ここまでは、わかるのですが、そのさきはチンプンカンプン。いろいろ調べたのですが、それはこういうことでした。

自民党系の二人が立候補することで、敵に塩を送ることになっているのではないか。反共産党票をまとめ切れていない。

だったら、自分たちが手を取り合い、一人が選挙区で勝ち、一人が比例区で勝てたら良いのではないか。そのためには、二人とも自民党からの出馬が必須だ。今回の選挙で、何とか議席を獲得したら、共に自民党の候補者としてうまくやっていこう。「敵の敵は味方」じゃないか。

敵の敵は味方


選挙のやりかたに、コスタリカ方式というのがあります。これは選挙のたびに、選挙区で立つのか、それとも比例名簿の1位において闘うのか。選挙区か比例区か、これを毎回交代でやろうという候補者同士の取り決めです。
今回のこの良く判らない事実は、この沖縄1区でもそれをやっていこうということなのでしょうか。下地氏が自民党に復党することにアレルギーを持つ人もいる中で、それを説得しているのが國場氏のようなのです。敵の敵は味方、ということなのでしょう。

選挙区によって、いろんな事情はありますが、沖縄1区の複雑さは、これまで支持してきた有権者も複雑な思いでいるのかもしれません。真っ青な空の下に、濃い緑の「政権交代」ののぼり旗。そこに交じって、創価学会婦人部の鮮やかな三色旗がおおきく振られていたのは、その意思の表現だったのかもしれません。


演説MEMO

演説MEMO
共産・赤嶺政賢候補
「必ずこの選挙で勝利して辺野古の新基地建設止めようではありませんか」
自民・国場幸之助候補
「自民党と公明党の連立、政治の安定なくしてこれだけの危機を乗り越えることはできないんです」
無所属・下地幹郎候補
「県民に寄り添って結果の出せる政治をやらせてください」

沖縄は1区から4区まで。さて、それぞれどんな結果がやってくるのでしょう。

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