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映画「うなぎ」と吉村昭さんの女性観。

今村昌平監督の映画「うなぎ」の原作は、吉村昭さんの「闇にひらめく」です。吉村さんは「桜田門外の変」「生麦事件」「天狗争乱」「彰義隊」「アメリカ彦蔵」「彦九郎山河」「間宮林蔵」…などの歴史記録文学の大家であり、太宰治賞を受賞した「星への旅」などの純文学作家でもあります。「闇にひらめく」は純文学の方の作品ですね。

吉村さんが描く純文学作品に登場するおおかたの女性は“裏切りの塊”です。多少の偏見はありますが、これが吉村さんの女性観だと思われます。

この作品でも女性の裏切りから物語は始まります。結婚しても自分が思うほどに妻や慕う女性との間には愛情がないのです。物語で裏切るのは女性です。愛情の押し付け、妄想とも思えますが、それゆえに主人公は妻を殺し、どうしようもないところまで自分を貶めてしまいます。

今村昌平の「うなぎ」は、妻殺しの男が新しい愛に目覚めるまでを描いています。「闇にひらめく」は、まさにそういった物語で、希望がありますが、もうひとつ、映画作りとして参考にしたのは「仮釈放」です。これは、新たな人生を始めようとする矢先に、ある女性の出現によって、それも崩壊してしまうといった夢も希望もない残酷な結末を迎えます。

映画「うなぎ」を観たことがある方は、是非「闇にひらめく」と「仮釈放」を読んでみてください。「仮釈放」の救いようのない結末に衝撃を覚えるでしょうが、そのあとに「闇にひらめく」を読んでいただければ、地獄から救われた気がしますよ。

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同じ内容のような吉村作品に「水の葬列」があります。これも合わせて読んでいたければと思います。

さらにもうひとつ、吉村昭作品には「密会」(監督は中平康。この監督も素晴らしい作品をたくさん撮っています)という作品があります。これも昭和34年(1959)に映画化されています。この1時間ちょっとしかない映画の結末を観て僕は戦慄しました。

この物語に登場する女性は、若い貧乏学生と不倫しているのですが、現在のなに不自由のない生活環境を捨てて学生のもとに走るほどの愛情はありません。ある晩、ふたりが密会している神社の境内で、恐ろしい犯罪を目撃してしまいます。学生は正義感から自分が目撃したことを警察に訴えようとしますが、女性の方は不倫が暴露される恐怖から反対します。その感情のすれ違いから、恐ろしい結末を迎えてしまうのです。

いずれの作品に一貫しているのは吉村さんの女性観だと思います。

吉村さんには珍しいユーモア小説「亭主の家出」にも、吉村さんの考えるところの不思議な若い女性が登場します。その貞操感の喪失が僕は恐ろしいのです。今更、貞操感などと笑うなかれ、笑う方は周囲に流されて貞操感どころか人としての心を喪失してしまっているのかもしれませんよ。

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