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怪獣大戦争 2

3.「怪獣と怪鳥」

岩尾市に現れた怪獣は、全体が岩のような固い皮膚で覆われている。その皮膚には無数の小さな目が何かで押し込まれたように付いている。胴体には首から一体となった鮫のような頭部には、私たちにある顔という常識の範疇である目の位置に、特に大きな目がある。それはグルグルと円を描くように、よく動く。背中には、やはり魚類のような背びれがふたつ、尻びれがひとつあって、それが上下にバサバサと羽ばたいている。尻びれの後には尾びれが退化したような尻尾が続いている。慣れない二足歩行のバランスをとっているように見える。

鮫のような顔の口には小さな牙が見える。上顎、下顎には数え切れないほどの牙が剣山のように生えている。口の左右には巨大な鰓があり、バクバクと音をたてて動いている。鰓が動く際に内部の赤黒い色をした鰓裂(さいれつ)もよく見える。

怪獣は津波で浚われた岩尾市から上陸すると、ゆっくりと歩き始めた。岩のような怪獣の皮膚全体から目に見えない湯気のようなものが放出されている。それが外気と触れあうと、粘液質の液体となってダラダラと地面に流れ落ちていく。多分、怪獣の汗なのだろう。それが地面に落ちるとジュウジュウという音を立てて周辺を汚染していく。当然、空気も汚染されている。

逃げまどう人々の車は道路に満ちあふれ、車を捨てて迷走しているが、すぐに強烈な放射能によって苦しみもだえる。阿鼻叫喚…。多くの人々が怪獣の脚で踏み潰されていく。まさに地獄。

しかし、この怪獣の目的は何なのだろう? 突然、怪獣は動かなくなった。怪獣の頭部には数え切れないほどの小さな目が一斉に西の空の方向を見ている。

西側の空には鳥のようなものが見えた。それは初めは小さな点だったが、次第にその姿が見えてきた。正体は九州に現れた怪鳥だった。

怪獣が「グエ」と呻くような音で一声鳴くと、怪獣の身体中の目が凹むようにひっくり返ると同時に紫色の光線が発射された。光線はマシンガンのように僅かな間隔を空けながら「ジュビ、ジュビ」という音をたてて放出されている。

光線は飛来する怪鳥に向って発射されたものだった。

「キエ」怪鳥は快音を発しながら錐揉み状態に高速で回転しながら怪獣目がけて飛んでくる。いくつかの光線が怪鳥に当たってはいるが、回転によって跳ね返している。跳ね返された光線は周辺の地上や建物に当たって爆発した。怪鳥が飛び進んだあとは焦土と化した。

怪鳥は錐揉み回転しながら怪獣目がけて飛んでくる。そしてついに怪鳥が怪獣の身体に衝突した。「ズン」という鈍い音がして怪鳥が怪獣の身体を貫いた。怪鳥はそのまま飛び進んでいく。

怪鳥に貫かれた怪獣の身体には巨大な穴が空いた。多分、肺や心臓も破壊されてしまっただろう。巨大な穴からは血液だろうか粘液質の液体がダラダラと流れ出した。呆気ない最後かと思われたが、液体は穴の中で固まりだして、あっという間に穴は塞がれて元通りに再生した。

そのとき怪鳥がブーメランのように戻ってきた。錐揉み状態のままだ。怪獣目がけて飛んでくる。そのとき「ブワンッ」という怪音とともに怪獣の左右の鰓が開いた。「ギャシャギャシャギャシャ」と赤黒い鰓裂が伸びて単独の生物のように蠢いている。錐揉み怪鳥が衝突する寸前に怪獣の鰓裂からはあの液体がもの凄い勢いで放射された。

「ジャッ」音がして怪鳥に当たった。すると怪鳥は「キエッ」と苦悶の叫びをあげながら地上に落下した。怪鳥が地上に激突すると、直径200メートル以上の範囲で地面は埋没して土煙が上がった。

怪鳥が地上に落下衝突したあと、しばらくは何も動きがなかった。周囲には2大怪獣の戦いのあとに発生した火災や瓦礫が崩れ落ちる音に、どうにか生き残った人間たちの悲鳴や叫び声が響き渡っている。

(2021年11月)

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