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2022.10.27 クーポンで割引かれるものは

先日、やっと温泉につかってきました。は〜。

「全国旅行支援」がはじまっていて条件満たせばおトクらしいのだが、ワクチン2回打ったっきり打ちそびれているので「陰性証明」が必要とのこと。広島県の無料検査では証明にならないそうで、数千円出して証明書を買うことになる。なんかめんどくさいからまあいっか。

よく行く海沿いの温泉地のその宿は、そんなに宿泊料も高くなく、ビジネスマンが出張に使ったりする宿。だけどいつもこざっぱり掃除が行き届いていて温泉もいいので好きなところ。

「旅行支援割引」を使わない客ということで、拍子抜けされたような感じですんなりチェックイン。
ここは浴場と部屋の行き来に誰とも出会わないような宿なんだけど、どうやら今日は宿泊者も多いらしい。クーポン効果だね。

さあ温泉だあ〜とうきうき湯のれんをくぐると、なんか音楽が流れている。
ん?有線でも流すようになったのか?
にしてもジャスティンビーバーかよ
と思ったら、
誰かの脱衣籠の、おそらくケータイからけっこうな音量で流れていた。

おお、止め忘れたのかな、とその籠を見るともなく見ると
ショッキングピンクのブラがだらーんと露出し、ケータイのコードがはみだし、浴衣がぐるぐる丸めてのっかっていた。

温泉に限らず大浴場の脱衣場では、暗黙の了解というか、それは誰に習ったわけでもないけど、脱いだものが人に見えないように、あるいは自分の荷物を誰かが探らない結界のように、バスタオルをすっぽりかける、ようにしていた。けどよ、そこの脱衣籠たちはそれぞれカラフルに乱れてたよね。

いやいいんですよ、合法合法、でもさ自分ちじゃないんだから
などとぶつぶつ思っちゃう自分をやーねーと思いつつ、温泉は相変わらず素晴らしかった。ふー。

チェックアウトまで何度かつかりに行ったが、そのたびに特筆すべきトピックがあったがまあいいか。なんかすげえなおい。
朝、おばあちゃんが湯上りにそこにあったモップでさーっと床を掃いてらして、ああこれが温泉場の振る舞いだよねとうれしかった。

コロナ禍になって、マスクして、声を発してはならないみたいになって、挨拶もしなくなった。見ず知らずの人にはなおさら、声出さずとも会釈くらいと思うが目も合わさず、他人の存在は無視し、黙々と脱衣場ですれ違う。
だからここは公共ではなく、ご自宅感覚なんだろう。自分しかいない。

途中立ち寄った道の駅で、あるご家族が「ここでクーポン使いきらんと無駄になるでしょ!」「足りない分は現金足しゃあいいんだから!」と言い争いながらレストランに向かっていた。

「おトク」に群がる人がわいてでてあふれてるのかもしれないし、
ふだんはそんなことない人が「おトク」で振る舞いを変えられているのかもしれない。それはわからない。


旅に出る前、店に封書が届いた。
正式名称は忘れたけど「広島ええじゃろう割引」的な企画で、割引クーポンを発行する協力店募集のお知らせだった。
割引分はどこかが補助金出すので、お客さんは喜ぶ、お店は来店促進でハッピー、という主旨だった。

よそは知らないけど、うちはやらないです。
メニューの価格、それはその金額に見合うものをお出ししますという、お客さんとの約束なのだ。これは適正なのか?と悩みながら設定し、そこにがっかりされないよう、美味しいお茶とその周辺の時間を味わってほしいと思っている。補助金で割り引いたのち、また定価で買うか? なんだ、お安くできるんじゃんと損なわれた信用は、だれが取り戻してくれるの?

と、思うのは自分だけかもしれないな、と思ったのは、さきほどとあるワークショップの参加料「今だけ半額!」というのを見たからだ。
誰かに教える、という形のない行為に値段をつけるのはほんとうに難しい。高ければ高いほど、そこに変な崇拝みたいなものが忍び込み気持ち悪い。
適正価格ほんとうに難しい、と日々思っているのだが、あっさり半額キャンペーンやっちゃうんだ。
割引けちゃう、元の価格はなんだったの?これだけ確保したい値段の倍を元値と言い張ればいつでも半額だ。間違って元の価格払う人がいたらラッキー。などと底意地の悪い解釈が渦巻いちゃう。

テレビショッピングの定型は、「今ならなんと!」「さらにお値引き!」
「今買うともうひとつおつけします!」だから、値引き販売はべつに珍しくもない。そうまでしても企業に利益があるのはみんな知ってて「おトク感」を買う。そう、「おトク」で人は動く、それが常識、
だから政府はお金あげるからなんかカード作ってって「おトク」で釣ろうとしてるし、国がそんなだからありとあらゆるものが「おトク」で右往左往してる。

目先の、個人の、利益だけに敏感な国民だらけで、そんなことでは国が傾くって思わないのかな。どうして広島市の図書館は粗末にされ、儲からない科学や文化は切り捨てられていくのだろう。
こういうのを老婆心というのであろうか。老婆心適齢期。
と、ババア自虐してみたが、あの温泉の脱衣所でさりげなくモップをかけたおばあちゃんは、おばあちゃんだからしたのではなく、昔からしてたと思う。年齢は関係ない。

話は変わるが、「自分ちで淹れたお茶はぜんぜん美味しくないんです」という方が多いのだが、それはなんでなんだろうとずっと考えていた。
雲間で飲むお茶は美味しいのに、と。
それは数百円、払っているからではないだろうか。
せっかく払ったのだからと、集中してお茶を味わおうとする。
自宅では誰も見てないし、散漫なままお茶淹れる。私もですけど。
その差でしょう。

クーポンで割り引かれた宿の温泉もそうかもしれない。
どうせ安いし、どうせ半額だし、と思えば
そのぶんだけ集中も愛着も落ちる。見落とすものも多くなる。

それって「おトク」って言えるんですかね。

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