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【答案の書き方】民事訴訟法(03)|平成25年司法試験

今回は「平成25年司法試験 民事訴訟法」(採点実感)を読んで、答案の書き方を確認してみましょう。

(採点実感)
https://www.moj.go.jp/content/000122708.pdf#page=19


 民事訴訟法科目では、例年、論文式試験問題の作成に当たり、受験者が、①民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を正しく理解し、基礎的な知識を習得しているか、②それらを前提として、問題文をよく読み、設問で問われていることを的確に把握し、正面から答えているか、③抽象論に終始せず、設問の事例に即して具体的に、かつ、掘り下げた考察をしているか、といった点を評価することを狙いとしており、このことは今年も変わらない。

○ 「基本的な原理・原則や概念」を正しく理解するとともに、「基礎的な知識」を習得する。
○ 「問われていること」が何かを的確に把握した上で、それに「正面から答える」。
○ 抽象論に終始せず、「事例に即して具体的に、かつ掘り下げた考察」をする。


2 採点方針
 答案の採点に当たって、上記①から③までの観点を重視していることも、従来と変わりがない。上記②と関連するが、問われていることに正面から答えていなければ、点数を付与していない。問われていることに正面から答えるためには、論点ごとにあらかじめ丸暗記した画一的な表現をそのまま答案用紙に書き出すのではなく、設問の検討の結果をきちんと順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が大切であり、採点に当たっては、受験者がそのような意識を持っているかどうかにも留意している。

× 「問われていること」に正面から答えていなければ、点数を付与していない。
○ 「問われていること」に正面から答える。
× 論点ごとにあらかじめ丸暗記した画一的な表現をそのまま答案用紙に書き出す。
○ 「設問の検討の結果」を「きちんと順序立て」て「自分の言葉で表現」する姿勢が極めて大切である。


3 採点実感等
⑴ 全体を通じて
 今回の出題においては、問題文に事実関係のほか関連する最高裁判所の判決内容を記載し、更に、登場人物のやり取りの中で検討の手掛かりやその方向性等を示すことにより、受験者がその先の掘り下げた考察を行うことを期待した。ところが、実際には、与えられた手掛かり等を十分活用できていない答案が多かった。

○ 問題文には「検討の手掛かりやその方向性」等が示されているので、「その先の掘り下げた考察」を行うことがメイン論点である。
× 「与えられた手掛かり」等を十分活用できていない答案


 設問1でいえば、弁護士L1の発言「遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えですが、」に着目すれば、「現在」「過去」という概念を用いて論点を整理すればよいことに気付くであろう。

× 問題文に「遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えですが、」とあるのに、「現在」「過去」という概念を用いて論点を整理しない答案


また、司法修習生P1の「三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案において、」という発言内容は、昭和47年最判の事案を分析する際に着目すべきポイントにほかならない。

× 問題文に「三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案において、」とあるのに、昭和47年最判の事案を分析する際に着目しない答案


設問3及び4においても、後訴におけるGの訴訟代理人L3とその司法修習生P3とのやり取り(P3「前訴において、Gの請求はその限度で認容されるべきであった」、L3「裁判所は、請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるか」)が、検討の手掛かりや方向性を示している。

× 問題文に「前訴において、Gの請求はその限度で認容されるべきであった」とあるのに、これを検討の手掛かりや方向性として活用しない答案
× 問題文に「裁判所は、請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるか」とあるのに、これを検討の手掛かりや方向性として活用しない答案


 〔設問3〕等の見出し以下の部分を最初に読んで、題意を早合点し、結局問題文全体を丁寧に読まない受験者が多いのではないか。試験時間の制約がある中で効率よく題意を把握するため、受験者が設問の部分から先に読むことを一概に否定はしないけれども、登場人物の会話も問題文であり、そこには出題者の意図が込められていることを忘れないでもらいたい。なお、問題文を隅々まで読まないようでは法律実務家になろうとする者として注意深さが足りないとの指摘は、昨年の採点実感でもしたところである。

○ 試験時間の制約がある中で効率よく題意を把握するため、設問の部分から先に読むこと自体は問題がない。
○ 「登場人物の会話も問題文」であり、そこには「出題者の意図」が込められている。(=問われていることが何なのか、「出題者の意図」を読み取ることが論述の出発点)
× 〔設問●〕等の見出し以下の部分を最初に読んで、題意を早合点し、結局問題文全体を丁寧に読まない。


「優秀」な答案は、問われていることを的確に把握し、必要な論点を論じ、かつ、設問の事例との関係で結論に至る過程を具体的に説明できている答案である。

○ 「問われていること」(=論じるべき事柄)を的確に把握している答案
○ 「論じるべき事柄」について、必要な論点を論じている答案
○ 「論じるべき事柄」について、設問の事例との関係で(=事例に即した考察)、「結論に至る過程」(=論理の積み重ね)を、「具体的に説明」(=説明の具体性)できている答案


このレベルには足りないが、問われている論点についての把握はできており、ただ説明の具体性や論理の積み重ねにやや不十分な部分があるという答案は「良好」と評価できる。

× 「説明の具体性」(=事例に即した具体的な考察)が不十分な答案
× 「論理の積み重ね」(=事例に即して掘り下げた考察)が不十分な答案


これに対し、最低限押さえるべき論点が論じられている答案は、「一応の水準」にあると評価できるが、そのような最低限押さえるべき論点も押さえられていない答案は「不良」と評価せざるを得ない。

× 「最低限押さえるべき論点」(=基礎的な知識)も押さえられていない答案
○ 「論点の知識」を押さえるのと同時に、「『設問で問われていること』から『論点』を抽出する能力」(=法的思考力)を鍛える必要がある。


4 法科大学院教育に求めるもの
 民事訴訟法科目の論文式試験では、判例に関する記憶の量を試すような出題はしていない。むしろ、当該判例の位置付けを民事訴訟法全体との関係において体系的に把握し、判例の基礎となった事案の特殊性を理解しておくことが肝要である。試験会場において、出題された内容に応じて考察し、その判例の射程を論じたり(設問1)、その判例の示した法理に基づいて立論したり(設問4)できる能力を養うことを目標にして、日々の教育を行う必要があろう。

× 「判例に関する記憶の量」(=判例論パ)を試すような出題はしていない。
○ 「出題された内容に応じて」、「判例の射程」を論じる能力を養う。
○ 「出題された内容に応じて」、「判例の示した法理に基づいて立論」できる能力を養う。
○ そのためには、「判例の位置付け」を民事訴訟法全体との関係において体系的に把握する。
○ そのためには、「判例の基礎となった事案の特殊性」を理解しておくことが肝要である。


5 その他
 時間不足と思われる答案は少なく、答案の分量としては5枚程度でも必要かつ十分な論述ができていた。考えながら書くのではなく、書き始める前に、答案構成に十分な時間をとることが大切であろう。また、毎年繰り返しているところではあるが、極端に小さな字(各行の幅の半分にも満たないサイズの字では小さすぎる。)や薄い字、潰れた字や書き殴った字の答案が相変わらず少なくなく、心当たりのある受験者は、相応の心掛けをしてほしい。

○ 答案の分量としては5枚程度でも必要かつ十分な論述ができていた。
○ 考えながら書くのではなく、書き始める前に、答案構成に十分な時間をとることが大切である。
× 極端に小さな字や薄い字、潰れた字や書き殴った字の答案(=読み取れなければ、読み手は理解できない。
× 各行の幅の半分にも満たないサイズの字


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