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【#一日一題 木曜更新】 朝顔観察日記

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字以内で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…?

 アサガオの観察日記なんか、大人になってからやったほうが楽しいに決まってる。そんなことを言った漫画の登場人物がいた。なんでこんなグッとくる台詞が出てくるんだろう。漫画や小説を描く人のアレ、「登場人物が勝手に喋り出す」という現象、憧れる。

 4月。20度を超えやや汗ばむ陽気の日曜日、むすこが「暇だ」と言いながら引き出しから小さな袋をつまみ出した。もう中学生だというのに彼の行動はいつも唐突で、この日も小さな袋を嬉しそうに握りベランダへ出たと思ったら、あっという間に色褪せた茶色いプランターに袋の中身をひっくり返した。母ちゃん朝顔植えたよと笑顔で報告してくれたけど、きみ、それは植えたというか、ばら撒いたというのだよ。そしてその種、一体何年前のだっけ。

 6月。梅雨どきはいえ雨天が少ない岡山。降ったり止んだりの日々の中で、朝顔のことなんて忘れかけていた。4月のあの日、種を蒔いた直後はむすこが楽しそうに水やりをしていたものの、5月を迎えてもうんともすんとも言わないプランターに「死んだか…?」と話しかける始末。朝顔は早ければ3、4日で発芽するらしい。発芽促進剤ナシでも1週間もあれば顔を出すようなのに、20粒以上あった種はひとつも芽を出さない。土を掘り返して種のひとつに犠牲になってもらった。割ってみると中身はスカスカ。乾燥なのか虫にでも食べられたか、発芽は期待できそうにない。と、思ったら6月半ばの朝、双葉がひとつだけ顔を出した。なんて愛らしいんだろう。

 7月、8月。夏の日差しを受けて双葉はあっという間にツルを伸ばした。双葉かわいいなんて言ってたのはとうの昔。ツルが凶暴化してきたので棒をどんどん立てて誘導する。上に伸びるためには助けがいる。真理。しかしどうしたことか、伸びても伸びても一向に蕾をつけない。ツルは葉をわっさわっさと増やしながら猛り狂って物干し竿にまでぐるぐると巻きついた。元気なのに蕾をつけない原因を探る。高温、夜間の暗さ不足、もともと蕾がない種、肥料の与え過ぎ、どれも当てはまりそうである。

 9月。枯らせる気にもならず水だけはせっせとあげていたら、ツルは古い洋館に巻きつく蔦のように傍若無人に絡まってしまった。プランター上のみならず、物干し竿まで攻略しておどろおどろしい雰囲気。洗濯物が干しにくくなってきたため意を決して半分くらいの背丈に剪定し、小さめの葉が規則的に並ふようにすると、おや、床屋帰りのむすこのようなリニューアル感。不思議ともう一度分かり合える気がした。と、ツルは再び伸びて伸びて伸びまくって数日後、これまでみたことのない形状のものが葉の軸に出現した。蕾だ!ガクをおおうぱやぱやの産毛がかわいらしい。待つこと数日。開花。本日9月21日時点で、14個の花を咲かせている。最後の蕾の開花まで、まだまだ1週間以上かかりそう。

 全ての蕾の開花を見届ける頃には、この長い長い夏がきっと終わっているはず。




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