KUNILABO

NPO法人国立(くにたち)人文研究所が運営する、人文学の学校です。2016年4月開校。…

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NPO法人国立(くにたち)人文研究所が運営する、人文学の学校です。2016年4月開校。 大学の講義と同レベルの内容を、現役の大学教員・研究者から学べる、本格的な教養講座です。 HP: www.kuniken.org

最近の記事

文学研究の意義とは――日本近代文学研究を事例に

はじめに  皆様、こんにちは。今回、KUNILABOから誠に寛大な出版助成金をいただきましたこと、とても栄誉あることと感動しております。博士論文を書いた長年の苦労は、書籍という形で出版されることでついに実を結びます。私の研究になんらかの価値を認めて、この出版を可能にしてくださいましたことを、心から感謝申し上げます。  本日は自分の研究と文学研究そのものについて少しお話をさせていただきます。博士論文は、『「田舎教師」の時代――明治後期における日本文学・教育・メディア』という

    • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その③

      【感想①】                 泉谷瞬(近畿大学 文芸学部 文学科 講師) 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」で交わされた議論は多岐にわたるが、中心となるキーワードを私なりに挙げるならば、それは「想像力」である。  佐藤亜紀氏の講演「歴史小説の技法」では、日本の近代文学における「歴史小説」の条件(と一般に考えられているもの)を検討するところから始まり、西欧文学との比較や海音寺潮五郎の発言などを参照することで、歴史学研究と「歴史小説」の間に生

      • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その②

        歴史家が読む『黄金列車』 秋山晋吾  佐藤亜紀『黄金列車』を手に取り、一読しながら感じたのは、いってみれば「安心感」であった。その安心感はどこから来るのか。そのことを考えるため、ある歴史小説を歴史家としてどのように読むか、というお題を与えられた歴史家が真っ先にすることは何か、という問を反芻してみた。おそらく、それは大きくふたつある。ひとつは、小説がいつのどこの何の話なのかを見極めること、つまり、歴史上の何を題材に、何を舞台にしたものなのかを知ること。ふたつめは、その小説が

        • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その①

          【開催概要】  「歴史小説」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか? 大河ドラマの原作でしょうか。あるいは、司馬遼太郎のいくつかの小説を思い浮かべるかもしれません。歴史は「事実」で、歴史小説は「fiction」だと思っている人もいるかもしれません。けれども、世の中には、もっと様々な「歴史小説」があります。  世界的に見れば、例えば20世紀イタリアの作家であるナタリア・ギンズブルクと歴史家カルロ・ギンズブルクについて、母のナタリアは歴史のような小説を書き、息子のカルロは小説の

        文学研究の意義とは――日本近代文学研究を事例に

        • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その③

        • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その②

        • 「佐藤亜紀さんと、歴史×文学で歴史小説について考える」開催報告その①

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(3)

          小説の普遍性のために名前を消す ――ありがとうございました。おそらく今、この物語の核心に迫るようなお話を頂いているような気がするのですが。今の中野先生のお話を受けて鈴木先生にコメントを頂きたいと思います。 鈴木:あんまりフランス語もできない日本の学生がね、原稿なぞを読んで、そして「マルセル」というのは消される方向にあったなんていうことを言ったもんだから、フランスのプルーストの錚々たる研究家たちは、「何をこんな生意気なことを言う」と思ったと思うんですね。でもこの「マルセル」

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(3)

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(2)

          フランス文学におけるプルーストの位置 ――ありがとうございました。お二人のプルーストへの熱い思いを伺ったところで、次にフランス文学におけるプルーストの位置について、またプルーストの作品の特徴について少し話を進めていきたいと思います。まず中野先生にもう一回お願い致しますが、プルーストを文学史上に位置付けるとどうなりますでしょうか。大学1年生の概説授業のようなイントロをお願いできますでしょうか。 中野:そうですね。これはやっぱり大御所にお願いした方がいいかと思います。鈴木先生

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(2)

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(1)

          はじめに ――今年は折しもプルースト生誕150周年です。あえて150周年という風に言祝がれるからには、プルーストは今でもとても大切な作家だと見なされているということだと思います。ですが、読めない……で、ピカピカに綺麗な『失われた時を求めて』の第一巻をいまだにずっと持っておりました。そういうわけで今日は、長くて難しいとされるプルーストの『失われた時を求めて』に少しでも近づいてみたい、という思いから、プルースト研究者のお二人においでいただきました。  まず、ご登壇いただく先生方

          今、なぜ『失われた時を求めて』? ――名作だけれど読み始められないわたしたちのために(1)

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(3)〜結婚・就活・恋愛と女性の生きづらさ〜

          KUNILABO人文学ゼミ「『源氏物語』を読む」と人文学講座「フェミニズムと英文学──語り直される女たちの物語」2講座コラボスピンオフ企画「フェミニズムと英文学と『源氏物語』」座談会、最終回です。白熱の討議は、恋愛しない女性たちの話から、大黒摩季を経て、女性の就活問題から見た『高慢と偏見』の問題点、そして制度としての恋愛へ… (画像:『源氏物語画帖』 所蔵:国文学研究資料館) 参加者:西原(日本文学者)、かおり(源氏、古文書受講生)、植村(哲学者/源氏受講生)、越智(米文学

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(3)〜結婚・就活・恋愛と女性の生きづらさ〜

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(2)〜結婚・階級・セクシュアリティ〜

          KUNILABO人文学ゼミ「『源氏物語』を読む」と人文学講座「フェミニズムと英文学──語り直される女たちの物語」2講座コラボスピンオフ企画「フェミニズムと英文学と『源氏物語』」座談会の第2回をお届けします。今回は『高慢と偏見』でリジーはなぜ最初ダーシーのプロポーズを断ったのかから出発して、植民地問題、『源氏物語』の「もののけのような語り」、アイデンティティとセクシュアリティの話まで話は広がります。 (画像:『源氏物語画帖』 所蔵:国文学研究資料館) 参加者:西原(日本文学者

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(2)〜結婚・階級・セクシュアリティ〜

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(1) 〜『高慢と偏見』は婚活小説?〜

          KUNILABOで2018年から開講している西原志保先生の人文学ゼミ「『源氏物語』を読む」では、『源氏物語』の宇治十帖を読んでいます。そこで、2020年9月期に開講された河野真太郎先生の「フェミニズムと英文学──語り直される女たちの物語」で扱われたオースティンの『高慢と偏見』が話題となったため、河野先生お迎えしてオンライン座談会をおこない、初の2講座コラボスピンオフ企画が実現しました。その様子をお伝えします! 英文学と『源氏物語』がら、結婚や女性の生き方について現代の私たちに

          フェミニズムと英文学と『源氏物語』(1) 〜『高慢と偏見』は婚活小説?〜

          啓蒙時代における美学の誕生(2) ――井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって

          2021年4月期に人文学講座「近代美学入門」を担当される井奥陽子さんは、昨年『バウムガルテンの美学』(慶應義塾大学出版、2020年)を上梓されました。本書の出版を記念して、昨年11月、市民講座「みんなで読む哲学入門」にて上野大樹さん(KUNILABO講師)とのオンライン対談が行われました。その中からヨーロッパ啓蒙と美学の誕生にかんするお話の一部を抜粋し、二回に分けてお届けいたします。前編はこちら。今回はその後編です。 百科全書的な体系と美学構想上野: 修辞学はリベラル・アー

          啓蒙時代における美学の誕生(2) ――井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって

          啓蒙時代における美学の誕生(1) ――井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって

          2021年4月期に人文学講座「近代美学入門」を担当される井奥陽子さんは、昨年『バウムガルテンの美学』(慶應義塾大学出版、2020年)を上梓されました。本書の出版を記念して、昨年11月、市民講座「みんなで読む哲学入門」にて上野大樹さん( KUNILABO講師 )とのオンライン対談が行われました。本稿では、その中からヨーロッパ啓蒙と美学の誕生にかんするお話の一部を抜粋し、二回に分けてお届けいたします。 経験的心理学と美学の関係上野: 人間の様々な能力については経験的心理学で扱わ

          啓蒙時代における美学の誕生(1) ――井奥陽子『バウムガルテンの美学』をめぐって

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第4回)

          上野大樹さんが講師を担う市民講座「みんなで読む哲学入門」で行われた、金 慧さん(千葉大学)と網谷壮介さん(獨協大学)をゲストに招いたオンライン対談の模様をお送りする「カントをめぐる対談」。 カントの「政治哲学」の意義について(第1回)、『永遠平和』を読む上での史的・同時代的な文脈(第2回)、『永遠平和』のテクスト解釈(第3回)とここまでお話を伺ってきました(第1回の記事はこちら、第2回の記事はこちら、第3回)の記事はこちら)。 最終回となる今回は『永遠平和』のアクチュアリティ

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第4回)

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第3回)

          上野大樹さんが講師を担う市民講座「みんなで読む哲学入門」で行われた、金 慧さん(千葉大学)と網谷壮介さん(獨協大学)をゲストに招いたオンライン対談の模様をお送りする「カントをめぐる対談」。 第1回はカントの「政治哲学」の意義について、第2回は『永遠平和』を読む上での史的・同時代的な文脈についてのお話でした(第1回の記事はこちら、第2回の記事はこちら)。 第3回となる今回は『永遠平和』のテクスト解釈についてのお話です。どうぞお楽しみください。 ご寄付のお願いまた、KUNILA

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第3回)

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第2回)

          上野大樹さんが講師を担う市民講座「みんなで読む哲学入門」で行われた、金 慧さん(千葉大学)と網谷壮介さん(獨協大学)をゲストに招いたオンライン対談の模様をお送りする「カントをめぐる対談」。 前回は上野大樹さんによるイントロダクションと、カントの「政治哲学」の意義についてのお話でした(前回の記事はこちら)。 今回は『永遠平和』を読む上での史的・同時代的な文脈についてのお話です。どうぞお楽しみください。 ご寄付のお願いまた、KUNILABOの運営主体である国立人文研究所は、現在

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第2回)

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第1回)

          KUNILABO講座「アーレントからの政治哲学入門」(2017)、「アダム・スミスとヨーロッパ啓蒙 」(2019)を担当された上野大樹さんが講師を担う市民講座「みんなで読む哲学入門」において、2020年7月6日に上野さんの共同研究者の金 慧さん(千葉大学)と網谷壮介さん(獨協大学)をゲストに招いたオンライン対談が行われました。この対談は、同市民講座が4月から課題図書としていたカントの『永遠平和のために』読了を機に企画されたものです。対談では上野さんが司会を務められ、三人の政治

          カントをめぐる対談:カント政治哲学と国際秩序の〈未来〉(第1回)