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猫ひも(1人15分)

※ひとり芝居台本               久野那美

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ちりん、ちりん、鈴の音。
女がひとり。
手首にはひもが巻かれている。ひもはだらりだらりとどこまでも伸びている。
ひもをきゅきゅっとたぐりよせてみる。

「これは猫ひもです。猫ひもは、猫につけるひものことです。」
ひもをきゅきゅっとたぐりよせてみる。

「痛いかな。いや、痛くはないかな。」
「ですから、このひもの先は猫につながっています。」
「ひもをつけて、表に放したんです。 猫にひもをつけて、表に放したんです。
長いひも。長いひもがよかった。
どのくらい長いひもがいいのか、初めてのことでよくわからかくて、。
だから、いちばんながいひもをさがしたんです。
きっと。
ですから、このひもを結びました。」
ひもをきゅきゅっとたぐりよせてみる。
「ひもをつけて、表に放したんです。
ずうっと昔のことで、よく覚えていないんですけど。
どうして、放したりしたんでしょう。
飼えなかったんですかね。どうして、飼えなかったんですかね。
忘れたことばかり話しても仕方がないですね。
覚えてることをお話しませんと。
話しているうちに、思いだしてくるものでしょうか。」
ひもをひっぱってみる。
「こうやって、ひっぱるんです。ときどき、ひっぱるんです。
ちぎれたりはしません。丈夫なひもなんです。
長くて、丈夫なひもなんです。
いちばん、丈夫なひもなんです。きっと。
いちばん長くて、いちばん丈夫なひもがよかったんです。」

ちりん、ちりん。

「ひっぱっても、猫は戻ってきません。
戻ってきてはいけないんです。表へ放したんですから。
どこまでも、どこまでも、遠くまで行くんです。
いちばん、とおくまで行くんです。いちばん長いひもですから。」
ひもをひっぱる。
「鈴が鳴るんです。ひもの先に、鈴をつけたんです。
そうすれば、ひもの先に、ちゃんといるのがわかるんです。
どんなに遠くへ行ったとしても、このひもの先はちゃんとどこかにあって。
そこでばきっと鈴が鳴る。
そう思って、鈴をつけたんです。きっと。
でも、ひっぱっても、何も聞こえない。」

ちりん、ちりん。

「長いひもだからです。いちばん、長いひもだからです。
いちばん長いひもの先は、いちばん遠いところにあります。
そんなに遠くからは、鈴の音は聞こえません。
鈴がなっているのかどうか、私にはわかりません。
ひっぱることはできるんです。
ひっぱると、鳴るはずなんです。
だけど、私には聞こえません。

私には聞こえませんけど、
誰かの近くで鳴っていますように。
大きくなって、遠くへ行って。
そこで鈴がなっていますように。
いちばん遠いところがどこなのかはわかりませんが、
それはどこかにあるはずです。
誰なのかはわかりませんが、誰かの近くで鈴が鳴ります。
誰なのかはわかりませんが、誰かの近くできっと鳴ります。」

「お願いがあります。
ときどき、いえ、たまに、いえ、思いだしたときに、
目をつぶって、耳をすましてもらえませんか?
鈴の音が聞こえたら…(考えている)
聞こえたら……
どうか、鳴り終わるまで聞いていて下さい。」
ひもを引く。
ちりん、ちりん、鈴が鳴る。

女の首についた鈴が、ちりん、ちりんと音を立てる。
   

                      終


この作品を音声ドラマで聞いていただけます(期限:6か月)
脚本・演出:久野那美
出演:大西智子
音楽:酒井康志(Foumalhaut)
録音・編集:合田加代(結音)
      

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