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「七重八重花は咲けども~」 八重山吹の花と鉄道唱歌|山北駅~洒水(しゃすい)の滝


御殿場線沿いの八重山吹の花

御殿場線の山北駅から歩いて洒水の滝を見に出かけた。

洒水の滝(神奈川県山北町)は、酒匂川の支流の滝沢川から流れ落ちる滝で「日本の滝百選」「全国名水百選」に選ばれている。

一昨年の12月、友人と矢倉岳に登ったのだが、山北駅へと下山する途中、杉林の中に迷い込んでしまい「あれ、もしかして私たち遭難した?」みたいな状況になった。

スマホの位置情報を頼りになんとか脱出することができたものの、もうヘトヘトで、帰りに寄る予定だった洒水の滝をパスしてしまった。
(滝を見るための長い階段の「観瀑台」があるのだけれど、登る余力がなかった)

沢好き、滝好きの私としては、滝を見ずに通り過ぎてしまったことが悔やまれた。

今回は洒水の滝を見るために山北を訪れた。

山北駅から洒水の滝へと向かって線路沿いの道を歩いていると、山吹の花が咲いていた。そのなかに一株、八重山吹の花をみつけた。

御殿場線沿いの道に咲いていた八重山吹の花

「七重八重 花は咲けども山吹の  実の一つだになきぞ悲しき」

太田道灌が鷹狩りに出かけた時、雨に降られ民家で蓑を借りようとしたら、その家の娘がこの和歌になぞらえて八重山吹の枝を差し出した(「実のない」と「蓑がない」をかけている)という有名な話がある。(八重山吹は突然変異で雄しべがなく結実しないのだそうだ)

八重山吹の花をみると祖母のことを思い出す。明治生まれの祖母からは、昔の唱歌や和歌など色々なことを教わった。八重山吹の歌の話も何度も祖母から聞かされていた。

実家の裏庭には八重山吹が植えられていたのだが、よその家や近くの森でみかける山吹の花は一重のもので、八重山吹は珍しかった。私は少し変わった八重山吹よりも一重の山吹の花の方が可憐な感じがして好きだった。

裏庭の八重山吹はずっと昔から自然に生えているものだと思っていたが、祖母がどこかから入手して植えたのかもしれない。今となっては、それを確かめる術はないが。

日本の滝百選 「洒水の滝」

滝沢川沿いの遊歩道を歩いていると、斜面を覆うように山吹の花が咲いていた。こちらは一重咲きのものだ。

洒水の滝への遊歩道沿いの山吹の花

地上40mの「展瀑台」への長い階段を上り、やっと念願の洒水の滝と対面することができた。

滝上は標高300mに満たない場所にある。そこから落差約100mを三段に分かれて水が落ちていくダイナミックさに圧倒される。
滝のまわりに吹く風がひんやりと心地よく神聖なものに感じられ、心が洗われる思いがした。

洒水の滝と山吹の花

鉄道唱歌と山北町

洒水の滝からの帰り道、山北駅へと向かって歩いていると防災無線から鉄道唱歌が流れてきた。

「汽笛一声新橋駅を~♪」のメロディーだ。
前にも耳にしていたように思うのだが特に気に留めていなかった。

ふと、なぜ鉄道唱歌なのだろうと思った。 

そういえば、丹那トンネル(昭和9年に開通)ができる前は、国府津から山北、御殿場を通り、沼津へつながるルート(現在の御殿場線線)が東海道線だった。

ということは山北も歌に出てくるのだろうか?
そもそも鉄道唱歌って何番まであるのだろう?

祖母からは、鉄道唱歌も教えてもらっていたが
「ここに開きし頼朝が幕府のあとはいづかたぞ~♪」と鎌倉までしか知らない。

調べると鉄道唱歌はとても長くて、334番まであるらしい。東海道編の13番に山北駅と小山駅(駿河小山駅)がでてくる。

「いでてはくぐるトンネルの 前後は山北(やまきた)小山(こやま)駅
今もわすれぬ鉄橋の下ゆく水のおもしろさ」

なるほど、知らなかった。
「鉄道唱歌」が流れているのはそういうことだったのか。


後日、改めて国府津から御殿場線に乗ってみた。
目の前が海の国府津駅を出発し、足柄平野を列車が北上する。左手に箱根の山々、その奥に富士山を眺めながら、だんだんと平野が狭まり足柄山地へと分け入っていく。

山北駅で下車して、県道76号線から御殿場線を追ってみた。
列車がトンネルをくぐり抜け、川沿いの集落を通り、蛇行する酒匂川に架かる鉄橋を渡っていく。古い鉄橋の橋脚からは御殿場線が歩んできた歴史が感じられた。

山北駅から駿河小山駅へと足柄山地の渓谷を走る景色は、昔も今も変わらず美しくおもしろかった。

足柄平野と酒匂川
山北駅から足柄山地の奥へ
第一酒匂川橋梁
右奥に第二酒匂川橋梁
第二酒匂川橋梁


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