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cannot help falling love with youは「好きにならずにはいられない」じゃないので、ちゃんとプレスリーの歌詞で考えてみる。

cannot help ---ingについて、単純に「〜せずにはいられない」と訳してしまうことの弊害は大きいので、ここで具体的にプレスリーのCan't Help Falling Loveをつかってその表現について確認してみましょう。


Wise men say
Only fools rush in
But I can't help falling in love with you

Wise menは「賢人たち」なのですが、この言葉を聞くと「マタイによる福音書」をキリスト教に馴染みのある方々は頭に浮かべることでしょう。イエスが生まれた時に、東方の3博士がやってきました。彼らは、黄金、乳香、没薬(もつやく)を贈り物としてささげたのです。ここでキリスト教に関連のある言葉がでてくるかというと、のちにsinという表現が出てくるので、そのネタフリにもなっています。

Only fools rush inはことわざ、"Fools rush in where angels fear to tread"に由来しています。

used to say that people are stupid if they do something immediately without thinking about it first (LDOCE)

Alexander Popeが1711の An Essay on Criticismに用いたとされている表現で、where angels fear to treadという部分は省略されることもあります。「天使が踏み込むのを恐れる場所へ愚者は飛び込む」や「愚か者はどんな危険な所にでも飛び込んでいく」という意味です。

I can't help falling in love with youは単に「愛さずにはいられない」と公式とされている語釈を当てはめてはいけません。これに関しては牧村秀實『図解 英語基本語義辞典』(アドスリー)の224ページに的確に指摘されています。

helpを「<<不都合>>を<<満足な状態>>に引き上げる」とした上で、次のように説明しています。
たとえば、I couldn't help laughing.(思わず笑ってしまった)は、その雰囲気ではlaughingしてはならなかったのに、その不都合な状態を引き上げて健全な状態にできなかったと解釈できる。

つまり、ここではやっちゃいけないと思っていながらも、やってしまう、そういう状況をcannot help ---ingで表します。好きになってはいけない人を好きになってしまう、それは普通の人だったら躊躇してやらない、やってしまうのは愚か者だけだと、昔の偉い人たちは言っていた。でも、私は恋に落ちてしまったのだ

一方、have no choice but to doも「せざるを得ない」と訳されてしまうのですが、こちらは客観的に状態を説明する表現です。「選択肢がない。でも一つだけある」ということですので、cannot help ---ingとは全く異なっていますね。

やってはいけないことをやってしまう、笑ってはいけない場面で笑ってしまう、抑えきれない、それがcannot help ---ingなんです。年末の「笑ってはいけない」という番組の彼らは笑ってはいけない状態なのに思わず笑ってしまう。抑えられないということがポイントです。

Shall I stay?
Would it be a sin
If I can't help falling in love with you?

ここにいてもよろしいでしょうか?という意味ですね。shallは提案や申し出をするときに使われる表現です。自問自答のような感じですね。立ち去るべきか、ここにいるべきかどうしようかと迷っている。その迷いはWould it be a sinとなります。罪深いことなのだろうか、愛してはいけないような人であるあなたを愛してしまったとしたら。sinは宗教上、道徳上の罪といういみですから、道徳的にやっちゃだめだというところまできているんですね。まさに、頭でわかっていて、ココロがいうことを聞かない。抑えがきかないような状態です。仮定法のwouldと条件を表すifが一つの文の中にありますね。事実として好きになってしまっていて、それでどうしようもない気持ちが理解できます。

仮定法は「妄想」とかそういう妄想的な英文法を語る方もいらっしゃいますが、そうではなく、助動詞の過去形で動詞部分で表されていることが現実と違うということを話し手が考えていることを提示するのが仮定法過去と呼ばれるものです。

Like a river flows
Surely to the sea
Darling, so it goes
Some things are meant to be

好きになってしまったらその思いを止めることができません。「川が最終的には大海へと流れ出るようなもの」で、逆らうことができないんですね。避けることができない、抑えられない自分の気持ちがあります。so it goesは「そんなもんさ、そういうものなんだ」というような慣用的な意味です。『方丈記』を思い出してしまいました(笑)。

つぎもbe meant to beという慣用表現が出てきます。「~する運命だ、~になるはずだ」という意味です。これは存在を表すbe動詞の役割が大きいですね。It was meant to be.「そういう運命なんだよ」という時に使われる表現です。We are meant be together. で「私たちは結ばれるべくしてこの世に生まれたんだ」とか「結ばれる運命なんだ」というような意味です。ここでは、Some things are meant to beなので、「そういう運命になることもあるんだよ」という意味としておきましょう。

Take my hand
Take my whole life too
For I can't help falling in love with you

私の手を取ってくれ。私の人生の全てを受け止めてくれ。だって、もうこんな状態になる程好きになってしまったんだから。という感じですね。



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