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Eric Claptonが来日するので、Tears in Heavenで英文法を学んでみよう。

ここで学ぶ文法事項
定冠詞、助動詞、ひとりごとのyou

Claptonの4歳の息子さんがマンションから転落し、亡くなってしまいました。失意のどん底だったClaptonは息子を想い、Tears in Heavenを作りました。私にもちょうど4歳の息子がおり、今は元気に暴れまわっていますが、仮に、その姿がもう見れない、なんて思うだけで・・・。

おとうさんが息子に語りかけるかのような口調で歌われている、この歌も英語の勉強には最適ですので、早速見ていくことにしましょう。

Would you know my name
If I saw you in heaven?
Would it be the same
If I saw you in heaven?

仮定法過去で書かれている疑問文です。仮定法過去は現実ではありえない事柄について、語る際に用いられます。すでに会うことができない、そして話すことすら叶わない息子に対して語りかけています。天国にいる息子に、会えるとしたらどんな言葉をかけてあげますか?彼は「もし天国で会っても、お父さんの名前を覚えてくれている?」と、そして「もし天国で会ったら、同じでいられるかな?」と語りかけています。sameには定冠詞のtheをつけることがお約束です。「同じ」ということは「想定されているも」のが「ある特定の範囲」と同じであるため、限定する意味での定冠詞が用いられます。

I must be strong and carry on
'Cause I know I don't belong here in heaven

息子を失ったお父さんは、「強くならなければならない」と自分自身を鼓舞します。それが助動詞のmustで表されています。よく、mustとhave toを同じ意味として考えますが、確かに、同じ意味になることがありますが、一人称の主語の場合は意味が少し異なると考えておいてもよいでしょう

例えば、友達の家で遊んでいて「帰らなければならない」というときに、皆さんはどのように言いますか?以下の①と②のどちらでしょうか?
① I have to go home.
② I must go home.
どっちも同じ、と思うかもしれませんが、一般的には②は使うことがありません(もちろん、使ってもいいのですが、以下に述べるような意味が出てきます)。have toはしなければならない事柄の原因が自分の外にある場合、そしてmustは自分の中にある場合に使われます。例えば、終電がなくなるから帰らなければならない、と言う場合は自分の思いとは関係なく、外的な要因が理由となります。歯医者の予約があるとか、門限がある、別に用があるなどそういった場合ですね。一方、自分の中にあるというのは、自分の気持ちとして帰りたいと思っているのです。その友達と遊んでいるのが嫌になる、気にくわない、とにかく自分のキモチとしてここから去って家に帰りたいと思っている場合です。したがって、帰らなければならないという場合は大抵において①のI have to go home.が使われます。

この歌詞の中ではI must be strongとなっています。内発的な要因を示すmustがあることで、父親であるクラプトン自身が立ち直らなければならない、と強い気持ちを持っていることが示されているのです。

'Cause I know I don't belong here in heavenは「というのも、ここ天国が僕のいる場所ではないというのがわかっている」と現在形で書かれています。クラプトンはもちろん「この世」にいますので、こちらの世界のことについては現在形なんです。そして、hereが使われている点は興味深いところです。視点が天国にあるんですね。息子に語りかけているときは心がすでに天国にいる息子と同じ場所にあると認識しているからhereになっているわけです。それだけ、息子に近づいていたいという思いが伝わってきます

Would you hold my hand
If I saw you in heaven?
Would you help me stand
If I saw you in heaven?

ここでも、天国にいる息子に語りかけるために仮定法過去が使われています。息子と手を繋ぐことやそばにいてもらうことは決して実現することがありえません。
help O doでOがdoするのを手助けする、という意味になります。ですので、僕が立ち上がれるのを助けてくれるかい?と言っているのです。

I'll find my way through night and day
'Cause I know I just can't stay here in heaven

お父さんは自分の生きる道を昼夜問わず見つけることにするよ、と息子に誓うかのように語ります。その部分にwillが使われています。助動詞のwillがこうしたキモチを表しています。このwillは「今、そう思った」「そうしようと思う」というキモチを表します。mustもそうですが、話者の気持ちを伝える役割を担っています。これを専門用語で「モダリティ」と呼びます。

'Cause I know I just can't stay here in heavenは、「というのも、ここ天国にはお父さんはいることができないからね」と言っています。このcan'tは be able toに書き換えることができるでしょうか?

答えはできません。be able toとcanにも少し違いがあります。次の例文を見てください。

I am able to swim, but I can't today.

どんな意味だかわかりますか?
私は泳ぐことができるけれど、今日は泳ぐ気分でない。というような意味を伝えている文です。canが話し手のキモチを伝えているモダリティ表現になっていることがわかりますね。一方be able toは純粋に能力を表す表現になっているのです。ですので、I just can't stayはbe able toに書き換えることができないのです。能力的に天国に滞在できるかどうかわかりませんよね。

Time can bring you down, time can bend your knees
Time can break your heart, have you begging please, begging please

ここのyouは誰でしょうか?息子ではなく、一般的な人を指す「総称のyou」でしょうか?解釈はいくつもあるとはおもいます。ですが、このyouは「ひとりごとのyou」というものとして捉えることにします。「ひとりごとのyou」については鈴木孝夫『教養としての言語学』(岩波新書)で詳細に分析されています。息子に何もしてやれなかった父親が、時間の流れとともに、その深い悲しみに包まれ、自分自身に言い聞かせるかのような歌詞になっています。時がたつにつれ悲しくなることもあるだろう、時が経つにつれひざまづくこともあるだろう、時が経つにつれ心を打ち砕くだろう、時が経つにつれ、髪に懇願することにもなるだろう、というように解釈することができると思います。

また、これを総称のyouとして捉えることも可能かもしれません。時の流れというのは人を悲しくさせることがある、時の流れというのは人を膝まづかせることがある、時の流れというのは人の心を傷つけることがある、時の流れは髪に懇願することになる、というような感じです。

両者を比べて考えてみると、どちらでも解釈することができると思いますが、いきなり一般論として総称のyouを使った文章を登場させるのもどうかと思いますので、私は「ひとりごとのyou」として捉えておきます。have you begging pleaseはtime canが省略され、使役動詞のhaveが使われています。強制力のあるmakeと違い、「そういうことになる」ぐらいの感じですね。ちなみにここのtimeは抽象名詞扱いで、時の経過を表します。時間ではありませんね。

ここで使われているcanは「〜という可能性がある」という意味で用いられる助動詞です。話し手の心理的状態を表すモダリティと言うよりも可能を表すものだと考えておきます。

なんとなく、ここの文体だけちょっと違うよなぁと思っていたのですが、この作品について文法的に考察を加えるためにいろいろと調べていたところ、wikiにこの部分だけは別の人が作詞していることが指摘されていました。

Beyond the door there's peace I'm sure
And I know there'll be no more tears in heaven

場所の副詞句が文頭に来ています。これは強調、対比を表すということを何度も指摘しております。英語の歌詞ではこうした場所句が前置されることが多いというのも特徴です。ドアの向こうには、平穏がある、と僕は思っているんだ、という意味になります。このthe doorと定冠詞付きのドアはどこのドアでしょうか?おそらく、この世から天国に入るためのドアなのでしょうね。つまり、「天国では」ということを "beyond the door"で表しています。そして、天国ではthere'll be no more tearsですので、天国にはきっとこれ以上の深い悲しみなんか(no more teas)存在しないんだろう、と推量(will be)しています。tearsを単なる涙と捉えておくのではなく、おそらく悲しみ全般を表す意味を持つ語だと考えておく方がしっくりきますね。

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