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禍話リライト 「資料館の記憶」

「怖いと言うか、意味がわからない話でさ」

そんな前振りから語られたかぁなっき氏の体験談は、以下の内容だった。
・小学校か中学校時代に同級生I君とT君の二人と資料館を見て回り、絵巻物等を見る。
・途中でI君が居なくなり、T君と二人で砲弾の展示を見る。
・周りには人がいた記憶がなく、唯一奥のガラス展示のコーナーに黒い服の女性の後ろ姿だけがある。

本当にただこれだけの、怪異も何も出てこない記憶である。
だが、詳細を確認する毎に、ある筈の記憶が失われていたり、だが記憶違いとするには実在性を示す物も多い。
そんな有りと無しの白黒が組合わさり、引いて全体を見ると古いテレビのように像を結ぶ気がする。そんな話だ。

貴方には、記憶の欠片を繋いだ先に何が見えるでしょうか?

「資料館の記憶」


・資料館について
無人駅の最寄最寄りという交通の便が良いんだが悪いんだか分からない立地。周囲は田んぼだらけで、他にその駅で降りる目的地になるような場所もない。かぁなっき氏が住んでいる場所からだと高校生の全力で25分、子供なら自転車で約40分。バスも1時間に一本あるかという立地にある。
展示内容は地元の人達が集めた道具や郷土史を紹介するような所であり、学校や地区の集まりで見に行くというよりは郷土史好きな人なら行くのかな?という施設である。
かぁなっき氏にとっても、電車で通過する時に「あぁ、あそこに資料館があるな」と思う程度の認識であった。

日常生活で縁が無い場所なのだが、『無い』のはそれだけではない。


・無い物1 行く理由、機会がない。
資料館の説明で書いた通り、学校行事でも地区の集まりでも小学生が行くような施設ではない。
これについてはかぁなっき氏の母君の記憶とも一致するし、地元に残り小学生の活動に協力しているI君曰く、今でも小学生が行事で行く選択肢には入っていないらしい。
そもそも彼等三人にも、多くの小中学生がそうであるように郷土史の興味は無い。
市の施設でもない為、小学生が行ける時間曜や日には営業していない。記憶では夏の最中であったが、夏休み期間も休業している

・無い物2 移動手段、移動の記憶がない。
小学生が徒歩で行くには距離があり、高校まで自転車に乗れなかったかぁなっき氏は何らかの乗り物を使わなければたどり着けない。
だが、酔いやすい体質のかぁなっき氏が乗り物に乗ればその時の記憶が残る筈なのだという。だというのに記憶は資料館の内部のみで完結する。
同級生や地域の仲間と移動すればワイワイと騒いでいた記憶が残るだろう。自分達で移動したなら切符を買う高揚感、資料館の窓口で子供無料で入れる優越感等が記憶に残りそうなものである。

・無い物3 彼等以外の人がいない
集団で行くのなら多数の子供や解説役やお目付け役の大人がいて然るべきだが、記憶にあるのは黒い服の女性の姿だけである。
何らかの行事やキャンペーンが開催されていたとすれば他のグループもいるだろうし、職員もある程度配置されていそうなものであるがそれもない。

ここまで幾つか物が無いと、かぁなっき氏の記憶違いの可能性も浮かんでくる。だが彼が脳内で作り出した想像だったのかと断言するには、記憶の正しさを証明する『有る』ものが多い。

・有るモノ 記憶と記録
大学生になりこの記憶に疑問を思ったかぁなっき氏。一度資料館の入口まで行った際「この駐車場見覚えがある」「この先の階段を上がれば受付があるんだな」と昔の記憶が蘇った感覚があり鉄腕ダッシュで帰宅したそうだ。
その後ホームページで資料館について調べると、イベントで砲弾の展示をしたという記録があり、記憶にある砲弾とも一致する。
彼一人の記憶違いでは無い事を証明する一番の証拠は同窓会で出会ったI君にも同じ記憶があったという事である。

I君との記憶の一致は出来事の実在を示す一番の証明ではあるが、同時にここにも空白が生まれる。

・無いモノ 記憶と人と
I君に確認した際、同じく資料館での記憶はあるが前後の記憶や訪れた理由が思い出せなかった。そしてもうひとつ、一番大きなものがなかったので二人はそれ以上記憶を照らし合わせる事をやめた。
もう一人記憶を照合できる友人T君が、現在行方不明だからである。
とはいえT君の失踪は本人の生活の悪さによるものではあるのだが、それでも何か符合してしまいそうだからI君とのと記憶の擦り合わせをやめた。

・繋がるモノ
符合といえば、黒い服の女性について最後に記載しておこう。
夏場だというのに黒の長袖を着ていたせいかやけに記憶に残っていた女性。その後成長しその概念を知った時に違和感を覚えた理由が符合したそうだ。
「あぁ、あの服は喪服だったんじゃないか」と。


・終わりに。まだ無い物、続き
私はこの話を聞いた時、禍話でよくある「怪異に直面し記憶を失った人の記憶」のようだと感じた。
何か不可解なイベントがあったのかと、そう思わせるような記憶だと。
そしてその通り記憶の続きが来るとは思わなかった。
そんな禍話「続・資料館の記憶」については、また次回のリライトで。



※この話はツイキャス「元祖!禍話 第十一夜」より、「資料館の記憶」という話を文章にしたものです。

この話が含まれる放送の一回後には蓮の葉の記憶に関する「葉に乗った思い出」が、その次の放送ではこの話を聞いたリスナーさんが思い出した記憶にまつわる「河童の鳴き声の話」が語られました。



お時間がありましたら合わせてお聞き頂くと三週に渡り記憶に関する話を聞かされたリスナーの追体験が出来て味わい深いかと思います。特に「河童の鳴き声の話」については投稿者様本人がリライトなさっておりオススメです。



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