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【禍話】伝説の少女

「そういえばさ、後輩の女の子が都市伝説になった話って、したっけ?」

こんな厨二モノの冒頭みたいなセリフから始まるこの物語は、内容も厨二設定盛り盛りかつ荒唐無稽でバイオレンスな展開が飛び出す。まるでアクション映画やバトルもの漫画の様に。


「え、伝説の男の話ではなくて?」

「いや、そっちとはベクトル的に違う方向で怖いというか…。あくまで彼女が言うことが全部本当だったらの話なんだけどさ…。」



1、少女との出会い

「身長も小さくて正直可愛い子で、オタクよりなところもあって。多分もうちょっと年代違ったら猫耳ニーソックスとか履いてそうな感じ?俺なんかでも一緒にご飯食べたいなーって思う子だったんだけど…、

動きが機敏っていうか、簡単に言うとイコライザー的なんだよ。」

「ヘビーリスナーの骸人形さんが大好きなマッコールさんみたいって言うと、ドアを開け閉めしたり?」

「いや、そっちじゃなくてww」


北九州を生き抜くため、格闘技や急所の知識が自然と身についているタフなかぁなっき氏は語る。

「大学とかで格闘技やってる奴がいると、話の流れでスパーリングの真似事する時がありまスよね。ディフェンスってのは高等技術っスから、経験のない人だと攻撃をガード出来るだけでいいほうなんスよね。

でもその子は普通に捌いてたんでスよ。ちゃんと“受け”になってる。しかも『本気で来られたらこっちも手加減間違えちゃうから』とか言っちゃうんスよね~。」

面白…、興味深いと思ったかあなっき氏は酒の席で真相を聞き出し、彼女は「信じてくれなくてもいいんですけど」と付けてその技術の習得に至るまでを語った。


2、或る老人との出会い

彼女が幼い頃、近所におじいさんが住んでいた。独り身で高齢で、親からも関わるなと言われていた事を思えば近所でも疎まれていたのだろう。

そんな孤独な老人がある日教えたいことがある、と子供たち集め次の様に語った。

・自分は戦争時に軍の特殊な部隊に集められ暗殺や格闘術を叩き込まれたが、それを発揮する前に戦争が終結した。

・元々荒事の素養があるから部隊に集められた自分は平和な環境に馴染めずこうして独り身で世俗からも離れていた。

・生い先が短くなり、せめて自分の技術を後世に残したくなった。


「もうジョンウィックランボーじゃないですか」

「年代的には合ってるし、嘘を付いてるようにも見えなかったんだって。可哀そうにも思ったし、そして何より…」

何より暇だったから、彼女は教えを受けることに決めた。

棒を竹やりに見立てた武器術、間合いを詰めて急所を突く方法、サバイバル術etc…。

暫くしておじいさんは亡くなったころには、家出時に近くの山で一週間樹上生活を送れるようになっていたそうだ。

「いやもうゲラゲラ笑ったね。その上一人称ボクかオレってブギーポップかってww。」

「技術を目の当たりにしても半信半疑でさ、でも流石にそんな急所狙う技術だと実践出来ないよねって聞いたんだよ。

彼女なんて言ったと思う?」

“ただ、あの頃の私は若かった”と。


3、一つ目の伝説 幽霊になった少女

おじいさんが亡くなってからも、時々休みの日に山に入って一人修行をしていた。殺気立ったジャッキーチェンみたいに。

「前の家出の話でも察せるけど家庭でも色々あったらしいよ、お兄ちゃんがグレてたり。おじいさんが亡くなったのもちょうどナイーブな年齢だったからさ、なにか支えになるものを探していたんだろうね。」

そのうち思考が人の生死や魂の存在に向き、遂には魂の存在を確認する為に心霊スポットの池に通いだした。目立たぬように黒い服を着て、霊が出やすい丑三つ時を狙って。

ついぞ幽霊にはお目にかかれなかったが、彼女の姿を見た人からは非実在性の噂が流れた。

曰く【その池には深夜に黒い服を着た幼女が現れる】と。


「普通ならお前がバケオになるのかよ!ってオチが付くところだけど。まだ続きがあってさ…」


4、若き日の過ち、そして語られる者

ある日、彼女が心霊スポット帰りにコンビニの前を通った際、たむろしているヤンキーに絡まれた。


魔都・北九州の住人であるK氏はこう語る

「地元では名の知れたかなりヤバい奴らだったって話だよ。でもさぁ、丑三つ時に黒い服を着た一見幼女のような背丈の子に絡みに行くってことは危機回避できないダメなタイプだったんだろうね。

え?やられるかもと思ったか?彼女がですか?

ん~~~、やっぱりあなた達はワカってない。彼女という人物を。

最後には彼女だけが立っていたンですよ。それが彼女なんですねェ…」


「で、翌日グレてたお兄ちゃん経由で謝罪って話になってね」

「あぁ、絡んでごめんなさいねっていう」

「いや、ヤンキーサイドが謝ってくれって、プライド的に」

「プライド…?人を経由するのに?」

「いやほら、合うと怖いから。彼女のは手加減とかできるスキルじゃないし。」

「プライドとは…?」


結局彼女が兄経由で謝罪をした事で、ヤンキーの中では折り合いをつけることが出来たらしい。

ただ、また彼女に手を出すバカが出ては困る。でもボコられましたなんて言えるハズがない。

結果として彼女が地元を離れるまで【黒い服で似た背格好の少女には手を出すな】という話だけが独り歩きすることになった。




※この話はツイキャス「禍話」より、「伝説の少女」という話を文章にしたものです。(2018/10/25  禍話R 第三夜)

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