いまは春なの、冬なの、わからないわ。
　あたしは猫なのよ。
　あったかくなったら夏毛に着替えなくちゃいけないのに、暑くなったり寒くなったり、いつ着替えたらいいのかわからないじゃないの。
　人間みたいに、着るもので調節なんてできないんだからね。

　あたしの飼い主は年取ったおばあさんの姉妹だから、季節の変わり目についていけないのよね。
　急に熱を出したり、めまいがする、って、騒いだり、転んで起きられない、って呻いたり忙しいのよ。
　これはいもうとばあちゃんね。
　
　だからあたし考えたのね。
　いもうとばあちゃんが動けないように、おなかの上に寝ることにしたの。
　暖房もちょうど当たるからあったかいしね。

　だけどこれが失敗だったのよね。
　おねえちゃんおばあやんがお出かけするのに気がつかないで、寝ていておやつにありつけなかったのよ。
　どこにいったのかしら。
　すぐ帰って来るかしら。
　ケイコ、おねえちゃん、どこにいったの？
「知らない……」
　そういえば、きょうはリハビリなんじゃないの？
「そうかな、そうかもね」
　そうだよ、だから、おねえちゃんは出かけたんだわね。
　お邪魔にならないように。
「クララは寝てていいからね」
　あんた、それはやりたくないだけでしょ。
「そうともいうかな」

　ピンポーン。
　ほら来ちゃった。
　あたしは押し入れに避難するからね。
　ちゃんとリハビリしてよね。
　
　あたしん家って、けっこうバタバタしてんのよ。

　あたしはうだうだ寝ているけどね。
　心の中は穏やかじゃないのよ。
　あたしはいつ夏毛に衣替えしたらいいのかしら。
　おねえちゃんはいつ帰って来るのかしら。
　おやつはきちんともらえるのかしら。

　猫だって悩むのよ。　
　何も考えないで寝ているわけじゃないのよ。

　わかってくださいね、飼い主さん。