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イラストレーター中村佑介展 in 東京 【ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA】 レポート (文:こたにな々)

『中村佑介展 ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA』 

--------------2018.04.20-05.21 池袋パルコ 本館M2F 特設会場

昨年夏に大阪で開催された活動15周年記念の展覧会『15 THE VERY BEST OF YUSUKE NAKAMURA』では約2万7千人の動員を記録。巡回は無いと言われていた展覧会でしたが、今年ついに東京での開催が決定。最新作が一部追加もされ名前も新たに『ALL AROUNDYUSUKE NAKAMURA』と中村佑介のほぼ全ての仕事が網羅されている展覧会。今後全国各地での巡回も期待されているので、私なりの楽しいイラストの見方も提案しながらレポートしていきたいと思います。

こちらが中村佑介展入り口。イラストで装飾された階段を上れば会場です。

会場内は、CDジャケットはASIAN KUNG-FU GENERATIONからさだまさし、自身のバンドであるセイルズ...本の装丁画は森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』や『謎解きはディナーのあとで』等の小説から音楽の教科書に漢和辞典まで...その他、アニメ『夜は短し歩けよ乙女』やCMのキャラクターデザイン、サンリオやビックリマン、『ワンダーウーマン』をはじめとしたアメコミ洋画に、AKB48柏木友紀とのコラボレーション!ロッテ『チョコパイ』のパッケージにオリジナルVRまで!とほんのわずかここに書いただけでも凄い仕事量と「あの絵見た事ある!」で沢山なのですが、会場内はその倍あるほどの絵の量と見応えです。

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生の原画が見れる事ももちろん魅力的ですが、イラストレーターという職業上、絵をCDや本のパッケージサイズでしかお目にかかれない場面が多いので、やはり大きいサイズで絵が見れるというのはとても嬉しく貴重です。中村さんの絵はその商品に関連する遊び心やギミックが入っている事が多く、大きいサイズではじめて気付く点も多いのではないでしょうか。

ー例えば...!


この展示会場で一番長く大きかったASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム『マジックディスク』のイラストは6面ジャケットとして1周するように長く繋がった仕様でリリースされたのですが、アジカンの曲に関連する物から過去作品のタイトルの明記まで色んな箇所に趣向が凝らされた作品で、本来これくらいの大きさで見るのが正しかったと思えるくらいの描き込み量です

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-描き込みの増え方

さて、中村さんは画集を2冊『Blue』と『NOW』で分けて出したのと同じく、初期の頃の絵柄と現在に至るまでの絵柄ではまず ”描き込みの量” が全く異なります。2009年以降、モチーフの女の子や背景に至るまで細かい描き込みが多くなっていきます。

 2003年 ゲントウキSINGLE『素敵な、あの人。』ジャケット線画

背景の自転車やギターや建物は精密に描かれていますが、現在に比べると余白(ベタ塗り部分)が多いのが分かります。そして一番違うのは女の子への描き込みが少ない事。そのため今よりも幻想的で儚い感じがします。

2015年 森見登美彦『新釈、走れメロス』(角川文庫) 表紙線画

パッと見ただけでも12年前の絵に比べて、驚異的に描き込みが増えています。背景もですが、一番は女の子の髪の毛から眉毛・瞳・唇・首筋・指の先までその描き込みが増え、より生身の女の子の表現へと進化しています。その為、初期の儚い感じからより身近に現実(リアル)に居る女の子へと魅力が増しています。

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-着色

『糸瓜』より 初期の描き込みが少ない背景を近くで見ると、アクリル絵の具で着色している事が筆の線でしっかり分かって感動しました。(現在は絵の具で塗られているものもあればデジタルで仕上げてるものもあるようです)

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ー原画の面白さ

細部まで絵に見入った後に気になってくるのは、どういう風に絵を描いているんだろうという事ではないでしょうか。原画を見ると生身の人が作り出したものなんだというのがとても見えてきます。そして同時にそのこだわりやアイデアまで発見できます。

ASIAN KUNG-FU GENERATION ALBUM『ワールド ワールド ワールド』ジャケット

このイラストは木の部分だけサインペンとケント紙ではなく、和紙に筆で質感を残すように描かれています。よく見ると印刷でもその違いが分かり、面白い効果を生んでいます。

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ー会場デザイン


ASIAN KUNG-FU GENERATION ALBUM『ソルファ』 特性フィギュア

前回の大阪での『中村佑介展』で初めてお披露目されたこの世でひとつしかないASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバムジャケット『ソルファ』を模したフィギュアが今回も展示されました。クオリティが高く、特に女の子のスラッと伸びた手足の形がとても綺麗に再現されており思わず見入ってしまいます。ジャケットでは決して見えない部分もしっかりと再現されています

東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』表紙絵

現在の中村さんの代表作のひとつでもある『謎解きはディナーのあとで』の表紙絵は人気作なだけあって会場の中心に、そしてこちらだけ絵の続きのような装飾デザインが壁にされていました。小さい事ですが、こういうのはとてもわくわくします。

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-大人の女性を描けるようになった中村佑介


2006年 ASIAN KUNG-FU GENERATION SINGLE『或る街の群青』ジャケット

現在では二重で目が大きくまつげが長い女の子を描いている中村さんですが、2009年頃までは一重でまつげが上がりきっていない少しコンプレックスがある女の子を中心に描いていたように思います。そしてそれは同時に大人の女性ではなく思春期のまだ心と体が成長しきれていない女の子の表現だったのではないかと思っています。

2014年 ASIAN KUNG-FU GENERATION ALBUM『フィードバックファイル 2』ジャケット

同じアジカンのジャケットでも2006年と2014年の作品では女の子の顔つきが違います。単純に女の子への細かい描き込みが増えたというのもあると思いますが、よりまなざしが強くなり、私はこれは中村さんの心境やアプローチの変化ではないかと思っています。

『文芸誌きらら』2013年9月号(小学館) 表紙絵 グラマラスにしっかり強調された体のラインとファッションに、しっかり上がったまつげ、塗られたリップ、着色はされていないけれどしっかり入れられたチークに巻き髪...大人の女性の表現であるこれは初期の中村さんが描かなかった絵で、中村さん自身も思春期の女の子だけではなく女性が描ける態勢が整ったのではないかと私は思います。

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ー中村佑介のこれから

中村佑介が描いて来た16年の内に少しずつ変わっていった中でも言えるのは、きっとどこにも居ない女の子ではなく、いつもどこかに居る女の子を描いている事で、そして今後、中村さんの目標でもあるもっとスタンダードになっていきたいという事も考えると、もっと身近で愛されるそのうえ唯一無二な女の子あるいは女性になっていくのではないかと思いました。40才になられた中村さんのこれからをまだまだ見ていきたいです。

左:『文芸誌きらら』2014年4月号(小学館) 表紙絵

右:山口裕子対談色紙イラスト『MOE』2016年4月号(白泉社) 掲載

展覧会描き下ろし『ニッポン』

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東京での会期はあと1週間を切りました。最終日以外は21時まで開いているので学校やお仕事帰りの方もぜひ。グッズ売り場は入場無料です。

『中村佑介展 ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA』

会場:池袋パルコ 本館M2F 特設会場
期間:2018/04/20 (金)−2018/05/21 (月)
10:00~21:00  ※最終日は18:00閉場/ 入場は閉場の30分前まで

入場料:一般800円/学生500円/小学生以下無料

公式:http://www.parco-art.com/web/other/exhibition.php?id=1234

パルコ内にある10体の女の子達もぜひ見つけてみてくださいね。

お読み頂きありがとうございました。

文・写真:こたにな々 (ライター)  兵庫県出身・東京都在住  https://twitter.com/HiPlease7

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