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《取材記事④》「人の生き方を映す、便利で必要な道具へ」「株式会社まちづくり山上」遠山辰雄さん

くらしずく2019では、作り手と使い手との出会いをより深め、手の仕事を身近に感じていただくために、ワークショップを開催いたします。
手軽にできるものから、本格的な制作に触れる貴重な体験まで、多彩なプログラムをご用意。
会場の「くらしずくスタジオ」では、講師の方々の作品も同時に販売もいたします。ワークショップ中の見学も自由です。ものづくりの現場に、ぜひお越しください。

今回、様々な「手しごと」を提供してくださる作家さんを取材しました。

ご紹介するのは、「株式会社まちづくり山上」遠山辰雄さん。ワークショップでは、 パソコン周りの掃除に役立つ、ミニ箒の編み込み作業を体験できます。

【ワークショップの詳細はこちら】
筒型小箒づくり体験
https://kurashizuku2019-w2.peatix.com/view
※こちらのワークショップは事前の申し込みは不要です。当日直接会場にお越しください。

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「人の生き方を映す、便利で必要な道具へ」
工房に積み上げられたたくさんの穂先の脇で、淡々と作業が進む。材料と、道具と、そして職人の手と身体から発せられる音以外、聞こえるものはない。つまり、動きに無駄がない。ばらばらだったホウキモロコシの穂先は、いつの間にか1本の箒に生まれ変わっていた。

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飾り糸の編み込み。粋なおしゃれはさり気ないところに

「昔の人がやってきたことを、基本的には真似ているだけ。草から箒にしようという、先人の方たちの想像力には敵わないです」
作業がひと段落ついたところで、「中津箒」職人の遠山辰雄さんが語り出す。

「穂先を単純に束ねただけでも掃けないことはないですが、緩みやすい。そこで『編み込む』ということを発明したのがすごいですよね。丈夫に仕上げるための先人の知恵です」

出来上がった遠山さんの箒。端整な姿のまま、沈黙している。にも関わらず、圧倒的な存在感。実用を最大限に求めた、実直な仕事。その結果としての美しさに、淀みは一切感じられない。

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遠山さんの製作した箒(一番手前)。糸はホウキモロコシで自ら染めたもの。

神奈川県相模原市に隣接した愛川町。この町の中津地区(旧中津村)周辺
で栽培されるイネ科の植物、ホウキモロコシで作られた箒が中津箒である。

中津箒の歴史は、ホウキモロコシの栽培と箒の製造技術を習得した柳川常右衛門が、故郷の中津村で箒作りを始めた幕末~明治のころにまで遡る。次第に箒製造は地域の産業となり、柳川家は箒問屋として代々生業を成していった。
ところが戦後、海外で作られた安価な箒が出回り始め、続いて掃除機が普及。

昭和50年代には最後の職人が離職し、産業としての中津の箒作りは途絶えてしまう。
そんな中、箒作りを復活させるべく活動を始めたのが、柳川家6代目、柳川直子さんだ。自家用にホウキモロコシを栽培していた農家や、元職人と掛け合うなどして体制を整え、2003年、箒生産と技術の伝承を担う「株式会社まちづくり山上」を設立。翌年には、中津箒の販売所と箒博物館を兼ねた「市民蔵常右衛門」を開館した。まちづくり山上では現在5名の職人を抱え、市民蔵の隣には拠点となる工房が備えられている。

遠山さんもまちづくり山上の社員。箒製作にとどまらず、実演販売をしに百貨店などへ赴くことも多い。その際、箒作りは大変ですね、とよく声をかけられるそうだが、遠山さんは「下準備こそ大変」と打ち明ける。

「箒づくりという仕事も、一般的な会社の仕事と同じです。一生懸命に、真面目に本数をこなしていけば、誰でもできるようになっていきます。ただ、草を箒の材料としてすぐ使える状態にまでするのが大変なんです。私たちは、種まきからやっていますから」

8月、遠山さんとともに、まちづくり山上の管理する畑に向かった。人の背丈よりも高く育ったホウキモロコシは、今まさに収穫の時を迎えていた。

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ホウキモロコシの収穫。種採り用のものはこの段階では収穫せずに残しておく。

慣れた手つきで、茎を手で折りながら収穫していく遠山さん。収穫作業自体は簡単にできるが「夏の暑さ」が堪えるという。また、無農薬栽培のため、ここに至るまでの除草も大変だ。
現在、畑の面積は合計で1町歩(約1ヘクタール)ほどだが、元々は「手のひら一杯分の種」から始まった畑だ。ゼロからのスタートだったのである。

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収穫の最盛期は穂の伸びが早く、収穫作業に終われる日々が続く

収穫した穂は脱穀し、天日干しする。穂先よりも軸の部分の方が乾きにくいため、途中で穂先だけゴザなどで覆い日除けする。2、3日かけて乾燥させたら穂を選別し、ようやく箒の材料として使えるようになるのである。

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穂についた実の部分を取り除く脱穀作業。足踏み脱穀機にモーターを付けて改良したものを使っている

そうして作られた中津箒。実際に掃いてみて驚いた。コシがありつつも柔らかで、ふんわりとした感覚。空気を抱いているかのような、軽やかな掃き心地だ。それは安定感を持たせるための編み方、締め方によるのはもちろん、柔らかな穂先のものを選別していたからでもある。「材料が命」…その言葉に思わず首を縦に振った。

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ホウキモロコシの軸を折り曲げながら撚り糸を編み込んでいく。全体を紐で締め上げる時は緩みが出ないようギュッと力を加えるが、やり過ぎると切れてしまうのでその力加減が難しい。ちなみに写真の「手箒」では、わざと穂先に角度がつくように編み込んでいる。床に対して直角ではなく、少し角度があった方が掃きやすいからだ。

今回のワークショップではパソコン周りの掃除に役立つ、ミニ箒の編み込み作業を体験できる。

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「珈琲ミル箒」は穂先を短く設計。通常の箒よりもコシが強いため、ミルの細かな部分の豆粉も掻き出しやすい

「小さい箒作りをきっかけに、穂先の質の良さ知ってもらいたい。そして箒が、だんだんと日常生活に必要なものとして思ってもらえるようになれば」

と話す遠山さんだが、決して掃除機を否定する訳でもない。
「ガラスを割っちゃった時なんかは、掃除機で吸い込んだ方が安心感がありますよね」

箒と掃除機。場面と場所を選んで使い分ければいいと。そのうえで、「箒の便利さ」をもっと知って活用してほしいと。

「箒はパッと取り出して使えますし、細かい場所の掃除に強い。隅が掃けますから。それに中津箒は穂先が柔らかいので、フローリングでも床面を傷つけることなく使えます。私は、箒は便利なもの、必要な道具だと思っています」

さらに遠山さんは箒づくりに対して、

「作品ではなく『商品』」

という意識で作っていると強調する。

「中津箒は飾りものではなく、実際に使ってもらうためのもの。いかに商品として作り続けるか。それは、いかに『仕事』として続けていくかということなんです」

特定の人を満足させる趣味のアイテムではなく、暮らしのワンシーンで必要とされるもの、便利なもの。私たちの日常生活に溶け込むものであってこそ、需要があり続ける。ものづくりの継続性が担保される。

「伝統を復活させるというのは、そういうことだと思う」

遠山さんがそうつぶやくと、ちょうど柳川直子さんが工房に戻って来た。

「箒は人の生き方を映してくれます。箒はふわっと浮かして使います。ゴシゴシ押し付けなてはいけません。人付き合いも同じ。人との関わりも、程よい加減がいい。箒はありがたいものなんですよ。元は植物として生きていたもの。そしてまた最後には、畑の肥料になって。自然に逆らわずに、押し付けない。例えばね、雨が続いちゃって畑仕事できない時も、身体を休めなさいっていうことかなって、そう思えるようになる。学ぶことがいっぱいです、人としての生き方を。まぁ、ただの道具なんですけどね」

柳川さんがそう話して笑うと、遠山さんが笑い返して言った。

「その道具を生み出す現場に携われるのは、やりがいですよね」

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革で作られた道具入れ。道具は常に使いやすい状態にしておく

取材・撮影:暮ラシカルデザイン編集室 沼尻 亙司
編集:くらしずく実行委員 三星千絵
協力:和雑貨 翠 白石 由美子
 
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《ワークショップ概要》
筒型小箒づくり体験 教える人 中津箒 遠山辰雄さん

手のひらサイズの小さな筒型箒。
その制作工程の一部を体験します。
お好きな色の糸を選んで、箒の持ち手を編んでいきます。
体験を通して、箒の良さやホウキモロコシの手触りを知ることができるでしょう。
できあがった箒は、パソコンのキーボードのチリをはらったり、サッシの隙間を掃除したり。
小さな箒が暮らしの中で大いに活躍しますよ。

【概要】
日時:
 ①[W2]2019年10月13日(日) 10:00~16:00
 ②[W2]2019年10月14日(月・祝) 10:00~16:00
場所:菅原工芸硝子内くらしずく2019ワークショップ特設会場「くらしずくスタジオ」
   (千葉県山武郡九十九里町藤下797)
定員:なし(随時受付)
費用:2,000円/人(当日現金にてお支払いいただきます)
対象:未就学児は保護者の付き添いが必要です
所要時間:30分~60分
最終受付時間:両日とも15時まで
備考:動きやすい服装でお越しください

※事前の申し込みは必要ありませんので、直接会場へお越しください。

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くらしずく 2019

日時:2019年10月13日(日)、14日(月・休)
時間:10:00~16:00
場所:千葉県山武市九十九里町藤下797[Sghr菅原工芸硝子工房敷地内]

ワークショップのお申込みはこちら
https://kurashizuku-1.peatix.com/

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kurashizuku

暮らしをより豊かにしたいと願う使い手と。 使い手の暮らしを想い、作品を生み出す作家と。 その双方が出会い、心を通わせることが出来る場をつくりたい。 そんな想いから生まれた新しい形のマーケットイベント『くらしずく』の実行委員会が綴っています。
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