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呉エイジセレクション

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長年書き溜めた文章の中で、幾分出来の良いものを集めてみました。
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記事一覧

我が妻との闘争2024〜初詣〜

我が妻との闘争2024〜初詣〜

 今年は元旦から仕事で、三が日は出勤であった。四日、やっと俺の正月がやってきた。

「あんた、四日はどないするんや?」

「午前中、初詣に行きたい。そしておみくじを引きたい」

 今年は学習した。昨年は確か、昼過ぎまでダラダラと寝間着のままで、それもこれも全ての原因は残業で疲れ切っていたせいなのであるが、嫁さんがぶち切れて明けた正月であった。

 その反省を活かし、大きく成長した今年は、寒くて足に

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英雄

英雄

※イグBFC4参加作品

 両親が離婚し、母方の祖父母の家に置き去りにされた兄弟。兄(中二)弟(小六)は、貧しい暮らしの中でも絶えず夢と希望を持ち続けていた。

 人生を変えたい。兄は祖母から貰う少ない小遣いで宝くじを買った。神はそんな兄弟に一等の高額当選を与えたもうた。

「兄ちゃん、プレステ5とスイッチが欲しい」

 高額当選をただ使うだけでどうする。俺たちは人生を逆転させるのだ。これからは友

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ジェームス

ジェームス

※刺激が強いので過激な文章に弱い方はご遠慮ください。

 気分はどうだい? ジェームス。いくら殺しの番号を持つ君でも、丸裸にされて椅子に括り付けられればどうすることも出来まい。可哀想に。

 さて、君が素直に情報を教えてくれるとはこちらも思っちゃいない。組織のデーターペースによれば、君は生爪を剥ごうが、玉を握り潰そうが、痛みには屈しないらしいね。見上げたものだ。

 そこで我が組織自慢のAIに君の

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友情と収集品と

友情と収集品と

 東京で漫画家として活躍している小学生からの幼馴染、金平。

 今年の盆休みも姫路に帰ってきた。毎年一週間はゆっくり田舎で骨休めをするのがならわしであった。

 そして休みの日の何日かは、地元で働き続ける呉エイジと旧交を温めるのが常であった。

「待たせたか? 元気してたか!」

「オマエも元気そうやな、まぁ家に来いや」

「呉、ちょっと太った? ええモン食ってるんやな。景気のエエ話や」

 姫路

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創作スランプの脱し方

創作スランプの脱し方

 本日は創作スランプの脱し方というお題でお話ししたい。これは非常に価値のある話で、金額に換算すると一千億兆円くらいにはなろうかと思う。

 スランプといってもいきなり来るものではない。それは徐々に侵食してくるものなのだ。

 弛緩した状態で過去に書いた自分の原稿を読み『あれ? なんか凄く良く書けてない? えっ、コレどういう心持ちで書いたんだっけ?』みたいなことになったら、それは危険信号の第一段階で

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プラズマ

プラズマ

 教授を先頭にカメラマン、ディレクターの順番で、人気のない深夜の墓地を行進していた。

 視聴者からのハガキによると、この薄気味悪い墓地周辺で、超常現象が多発しているというのだ。

 もしそれが本当ならば、ネット動画に若者を奪われているテレビ業界にとって、高視聴率が見込める起死回生のチャンスとなる。

 この場所では人魂の目撃や、UFO、そしてそのUFOに吸い上げられていく牛の姿を、複数の人達が証

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溶け込みたくて

溶け込みたくて

 三十歳からの中途採用で、なんとか再就職することが出来たのは良かったが、人間関係。これを構築するのは骨の折れる作業だと、つくづく思う。

 その職場の雰囲気や、社員同士の仲が良ければ、それは尚更困難に感じた。築き上げられた絆の中に割って入るのだ。同僚にナビゲート役を自ら買って出る親切な人でもいれば話しは別だが、世の中そう上手く行くものでもない。

 出勤前、タイムカードの手前にある休憩室の前で、私

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我が妻との闘争 2023春〜スーパーにて〜

我が妻との闘争 2023春〜スーパーにて〜

 休日、私は日頃の残業で疲れ切った身体を休めるために、なるべくなら一日中ゴロゴロして、気持ちを穏やかに、読書でもしてのんびり過ごしたいところではあるのだが、スーパーへの買い物。これを付き合わなければ嫁さんの機嫌が悪くなるので、私は渋々、無理矢理笑顔を作って、マネキン人形のような顔で車を運転している。

 こんなことを言うと、今の世、バッシングを受けるのだろうが、スーパーの買い物なんて、夫婦二人で行

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公民館の夜(※写真は関係ありません)

公民館の夜(※写真は関係ありません)

 普段生活をしていて『一体何に使われているんだろう』と、大して気にも留めずに今まで通り過ぎていた施設、公民館。

 その二階にある会議室の長テーブルに、俺は借りてきた置物のように、かしこまって座っていた。

 雪こそ降ってはいないが、外の気温はかなり低く、白壁に囲まれ広々とした会議室に、暖房が効いてくる様子は全く感じられなかった。

 パイプイスと尻の間に手を挟み、指先を暖めながら周りを観察する。

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VR討論会

呉「お前はVRやったことあるんかいな」

金平「あるある。新宿の体験ベースでやったことある」

呉「それはどんなもんや」

金平「ゴーグルつけてな、ビルの屋上で向こうのビルに鉄骨一本渡してるねん。そこを渡るんやけど、脳は完全に騙されるな。怖くて歩かれへん」

呉「そうか。上を向いても下を向いても視点は同期するんか?」

金平「するする。完全にビルの最上階や。そういうスリル系のものだけと違うで。エロ

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佐野元春 Sweet16名盤ライブin大阪 夜の部

佐野元春 Sweet16名盤ライブin大阪 夜の部

 2022年11月27日 大阪はZEEP難波。天気は快晴。午後の部は十八時開場の十九時開演。

 姫路から散々悩んだ結果、電車ではなくマイカーで移動。ライブ会場の近くにコインパーキング、1日最大千円の駐車場があったので、一か八か昼過ぎに到着して前を通ったら空きがあったので、そのまま駐車。

 時間まで嫁さんと大阪の街をぶらつき、お好み焼きを食べ、洋服屋を覗き、私は古本屋を見て、姫路のド田舎とは違う

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寄せては返し

寄せては返し

「もしもし、もしもーし」
「はい、聞こえております。もしもし」
「もしもしと普通に言うとる場合ちゃうどゴラァ。オマエ大概にしとけよ。何時間待たせとんじゃおんどれ。大変混み合っております、って腹立つ声でテープ永遠にループさせやがって。電話の向こうで休憩しとったんとちゃうんかおどれは」
「お客様、お声を小さく、ちゃんと聞こえております。大変お待たせいたしました。コールセンターの小坂と申します。本日はど

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タラチネ興産第四工場 単独保全マニュアル

タラチネ興産第四工場 単独保全マニュアル

タラチネ興産第四工場 単独保全マニュアル
猪股大五郎 第四工場長(鮫島高校卒 58歳)作成
・工場内中央の柱に設置してある緊急噴霧装置のボタンを絶対に押さない事。
・緊急噴霧装置とは、万が一工場内の端に設置してある亜◯砒◯酸化ソーダが容器から流出した際、その毒性を中和する為のものであり、もし流出無く緊急噴霧させた場合、単体では毒性を持ち、数十秒で死に至ります。
・緊急噴霧装置のボタンを押さないのは

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激突! 断食拳~醜い脂肪よ一歩前に出ろキェーッ!~

激突! 断食拳~醜い脂肪よ一歩前に出ろキェーッ!~

第一章 男の決意

 俺の名は平尾。五十代のサラリーマンだ。年々残業の疲れが抜けきれず、今朝も寝過ごさないよう気持ち早めにアラームをセットし、遅刻しないよう家を出た。
 休日に洗車する気力もなく、薄汚れたマイカーを会社横の青空駐車場に停める。始業の四十分前なので、まだ停まっている車はまばらだ。ノロノロとした動作でシートベルトを外し、スローな動作で車から出る。動きに機敏さは全くない。小鳥が近くでさえ

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