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マスコミの「飲食店タブー」が人を殺す

新型コロナウイルス (以下コロナ)は2021年半ばにおいても流行が続いています。
ワクチンによる収束が数ヶ月後に迫っているという希望はある一方で、そうならない可能性もそれまでに多くの死者を出す可能性も残っています。

その中で7月、政府が緊急事態宣言下の酒販売事業者へ自粛を無視し酒の提供を行う飲食店へ取り引きを行わないよう要請を行いました。
しかし13日、マスコミや酒販売事業者の反発もあり撤回されました。

本記事ではここからマスメディアのコロナへの姿勢を考えます。

飲食店がコロナ対策の要

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コロナ感染拡大に予防として飲食店への対応が重要です。
スタンフォード大学が英『ネイチャー』誌に発表した論文で、もっとも感染拡大に寄与したのは飲食店だと示されています。
日本国内でも昨年10月までに発生したクラスターでも、場所別で最多だったのは「飲食店」でした。
最高水準の専門家で構成される分科会でも、歓楽街や飲食を通じた感染拡大から家族内や院内での感染に繋がると指摘されています。

・読売新聞オンライン  2020年10月30日『【独自】全国のクラスター1761か所、最多は「飲食店」…「企業・官公庁の事業所」が続く』
・新型コロナウイルス感染症対策分科会 2020年12月23日 『現在直面する3つの課題』
・Chang, S., Pierson, E., Koh, P.W. et al. Mobility network models of COVID-19 explain inequities and inform reopening. Nature 589, 82–87 (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2923-3

パンデミック初期から一貫して歓楽街や飲食店がコロナ感染拡大の主要な原因であり、コロナ対策の要であることは専門家の間でのコンセンサスです。
緊急事態宣言や蔓延防止措置が終わり規制が緩められるたびに感染が再拡大するのもそのためです。

飲食店による公害

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経済活動にともなって社会的価値を生み出すと同時に、騒音・悪臭・健康被害などで社会へ害が発生することがあります。
これを外部費用(外部不経済)といいます。
公害も外部費用の一種で、飲食店による感染拡大への寄与は広い意味で「公害」に含まれます。

外部費用への対処は2つ。
第1は「被害者に対し…十分な補償金を支払うこと」。
第2は「法的に禁止すること」です。

・世界大百科事典 (奥野信宏) 1998年 「外部費用」

当然ですが、「新たな状況が発生して法的に禁止された場合に国が補償を行う」という法理はありません。
「アスベストの製造・使用を禁止するのでメーカーに補償を行うべきだ」「チッソ水俣工場が存続できるように国が支え続けるべきだ」という主張がいかに異常であるかは明白です。
しかし飲食店においてはこうした主張が繰り返されています。

過去から学ぶ

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「飲食店による感染拡大」という視点で現在に近いのは、他のパンデミックよりも水俣病です。

水俣病は1950年代に熊本県水俣市で発生したメチル水銀中毒の公害です。
公害病の代表的なものとして国内外で広く知られています。
発生源はチッソ水俣工場であったと現在では知られています。

水俣病は1953年には発生していましたが、初めて水俣工場の排水による有機水銀原因説が発表されたのは1959年でした。
その後、1961年に生成過程が判明、公式見解としてメチル水銀化合物が原因と断定されたのは1968年になってからです。
水俣病においては長い間、「疑わしいがエビデンスがない」状態で、実際に生成機序の解明にも時間が掛かりました。

1959年、新日本窒素肥料は患者や遺族に今後の補償要求と引き換えに少額の見舞金を支払い、同時に汚水処理装置「サイクレーター」を設置し問題は解決したと宣伝しました。
また東京工業大学教授清浦雷作が5日間の調査で、東邦大学教授戸木田菊次は現地調査なしで、非水銀説を唱えています。
これは飲食店が空間除菌やフェイスカバーなどのアピールで「対策は十分」と主張し、マスコミに近い評論家が飲食店説を否定する現状と同じです。

・世界大百科事典 (原田正純) 1998年 『水俣病』
・日本大百科全書 (重田定義/淡路剛久) 2003年 『水俣病』
・Wikipedia 2021年7月21日閲覧『水俣病』
・東洋経済 (上昌広) 2021年5月24日『飲食店だけを悪者にする日本の作戦に開いた大穴』

我々は過去から学べます。
心得るべきは、完全にエビデンスが揃うまで行動しないという怠慢はしないこと、そして都合の良い情報を鵜呑みにしないことです。

飲食店タブー

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YouTube (MBS NEWS) 2021年4月7日

マスメディア、特にテレビメディアは「飲食店を批判しない」という不文律があります。
それが飲食店タブーです。

飲食店タブーの事例
・不味いと有名な店でもコメンテーターが「美味しい」と伝える
・「原料の値上げで困っています」というニュース。「売り上げが~万円下がった」と伝えるが、通常時の売り上げ・利益・原価率を示さない (値上げの正当化)
・「レタス何個分の食物繊維」を好意的に伝える (レタスは食物繊維が少ないことが知られている)
・食料廃棄や衛生上の問題を伝えない
・飲食店の不祥事の報道に消極的 (例:令和納豆)

コロナ前まで飲食店タブーは一般でもある程度知られていましたが、あまり大きな問題にはなりませんでした。
不味いものを「美味い」と言うのは不誠実とはいえ、様々なリスクや心情を鑑みれば理解できます。
その他も取材上の関係やスポンサーの都合で多少の欺瞞は必要悪だと容認している人も多かったでしょう。

・yomiDr 2017年11月3日 『「レタス4個分の食物繊維」ってどうなの?』

このように飲食店タブーは視聴者からある程度認知されながらも容認されてきた傾向があります。
しかしコロナ禍において飲食店が人命に関わる状況になりました。
その中で「飲食店タブー」は過激化し悪影響が大きくなっています。

「デマ」の事例

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YouTube (ANNNewsCH) 2021年7月9日

コロナ対策として飲食店への規制が行われる中、飲食店とコロナとの関係を疑問視する人も少なくありません。
マスメディアを中心に、根拠のない情報やデマが広がっています。

〈デマ1:飲食店とコロナは無関係〉
デマのうち一番に広がっているのは「飲食店はコロナと無関係」という誤った情報です。
飲食店を規制するのは非科学的だとするものですが、既に飲食店が感染拡大に与える影響は証明されており、諸外国のロックダウンでもレストランやバーが対象になっています。
飲食店が最大の原因でないとしても、大きくそして対策可能な感染拡大要因であることは明らかです。

〈デマ2:政府の対策が非科学的〉
「政府の対策が非科学的だ」とする誤った情報もあります。
実際には政府はコロナ拡大の初期から国内トップレベルの専門家を集め、諮問し、その助言に基づいて政策の決定を行っています。
専門家が反対する政策を行うこともありますが、世界レベルでも見ても極めて科学的な体制であると言えます。
飲食店を中心とする規制も科学的知見と専門家の助言に基づいたものです。

〈デマ3:自粛要請に従わない店は「開けざるを得ない」から〉
「自粛要請に従わない店は『開けざるを得ない』から」だとする根拠のない情報が流れています。
現時点で経営状況と自粛要請遵守との相関関係を示す十分な研究結果はありません。
一部が「開けざるを得ない」店だとしてもそれが多くの割合を占めると考える理由はありません。

また内閣官房は経営状況は要請に従わない「正当な理由」に当たらないとしています。

・朝日新聞デジタル (中田絢子) 2021年2月13日『休業要請違反、経営状況は「正当な理由」に当たらず明記』

〈デマ4:飲んで経済を回そう〉
「飲食店での飲酒が経済回復に繋がる」とする誤った情報も見られました。
2020年のGDPは4.6%減、飲食店の占めるGDPの割合は2%台です。
感染拡大によりコロナの感染が広がれば経済への打撃となり「経済を回す」ことには繋がらないのは明らかです。
経済を回すためには自宅での飲酒、飲食店への直接的支援、テイクアウトなど感染リスクの少ない方法が多くあります。

・讀賣新聞オンライン 2021年5月18日『2020年度のGDP、4・6%減…過去最大の下げ幅 』
・内閣府 2019年『経済活動別国内総生産』

なぜ国民は「怒った」のか?

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酒販売事業者への要請には国民の間で反発が広がりました。
一つはマスメディアにおいてコメンテーターが直接的に批判したことが理由です。
しかしより大きな理由は「飲食店は感染拡大に寄与しない」といったデマが広がっているためです。
誤った前提に基づけば政府は見当違いの政策をしていて、飲食店がかわいそうな被害者であるかのように思うのも当然です。

要請には法的拘束力はなく、あくまで感染抑制につながる情報を提供するものに過ぎません。
しかしマスメディアが飲食店批判を徹底して回避し、飲食店により感染が拡大している事実を報じず、国民の間で誤った知識が広がっている現状があります。
これは自分に都合の良い情報を信じたい飲食店や酒販売業者の間では顕著だと考えられます。
仮に要請が実現していれば数百人もの人命が救われたかもしれません。
だとすればマスコミの報道が直接的に人の命を奪ったのです。

・NHK 2021年7月13日 『酒提供飲食店との取引停止要請 政府 酒販売事業者への要請撤回』

マスコミは感染者を増やしたい?

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マスメディアはなぜ感染拡大につながる反倫理的な行動をするのでしょうか?
一つは既に書いた通り、コロナ以前からある「飲食店タブー」です。
しかしタブーを超えて積極的に感染を拡大させるために行動しているようにさえ見えます。

それには「感染拡大が政府批判につながる」という「構造」が大きな理由として考えられます。
政府批判自体は必ずしもマスメディアの経済的利益にはつながりませんが、批判的記事を書きやすくなり、マスメディアへの信頼に繋がります。
しかしそれ以上にマスメディアで広がる「マスメディアによる政府批判は正当だ」とする誤った思想が原因として考えられます。

当然のことですが、政府批判が国民の利益になる場合もあります。
ならない場合もあります。
しかし問題は記者の多くは「どんな場合も政府批判(を増やすこと)が正当である」と誤って信じています。
その帰結の一つが犯罪行為の正当化、もう一つが「政府批判に繋がる状況を作り出す」ことです。
後者の典型例が「コロナ感染者数を増やすこと」になります。

これは「実証された」とまでは言えないものの、自然な論理的帰結です。
いくつかマスメディアが「コロナ感染者数を増やすこと」を目的とした報道をしているように見える事例もあります。

記者による犯罪の正当化の例
・@TMiyazaki3415 (毎日新聞記者) 2021年6月22日
・中村建太 (朝日新聞記者) 2021年6月22日
・@fukutyonzoku (記者?) 2021年6月23日

感染拡大を拡大を意図した報道の例

〈コメンテーターが自粛要請無視を提言〉

元大阪府知事の橋下徹氏(50)が29日、日本テレビ系情報番組「情報ライブ ミヤネ屋」にスタジオから生出演。逆説的な考え方として、緊急事態宣言が延長された場合は国民は外出自粛要請をそのまま無視した方がいいとの持論を展開した。
(中スポ 2020年4月29日『逆説的ですが… 橋下徹氏が宣言延長後の自粛要請無視をあえて提言「国民がおとなしすぎるから政治家が動かない」』)

〈「路上飲み」で自粛要請無視の正当化〉

マスメディアの「路上飲み」批判が、飲食店による自粛無視の正当化に使われ、その発言自体が報道されている例。

「飲食店でお酒が飲めなければコンビニや量販(店)で買って、路上飲み・公園飲みなどをするんで、『種類の提供を全部やめろ』というなら例外なく徹底して欲しい」
(YouTube (ANNNewsCH) 2021年7月9日『酒店“提供停止”憤り・・・「断れば二度と注文来ない」』)

当然ですが飲食店でお酒が飲めなければ、飲酒を辞めるか家で飲むと考えるのが自然です。
ある程度が路上飲みに流れるとしても、全体として感染リスクの低下に繋がります。
このようにマスコミが飲食店への「言い訳」を提供する報道が目立ちます。

〈「協力金の遅れ」による責任の転嫁〉

「協力金の遅れ」を利用し政府や自治体に責任を転嫁し、自粛の無視を正当化している例。

・YouTube (ANNnewsCH) 2021年3月7日『もう限界・・・滞る“協力金” 見通せない「2週間後」』
・YouTube (【公式】日テレNEWS) 2021年5月27日『「ルール破りしてごめんなさい」“協力金”1月分もまだ…酒提供で“通常営業”再開も』

飲食店のコロナの感染拡大は「飲食店による公害」です。
飲食店は「国による被害者」ではなく「加害者」の立場です。
「協力金」は「自粛するならもらって当然」という性質なものではありません。

「協力金の遅れ」という事実を報じること自体は報道機関として当然です。
しかしそれを利用し飲食店の自粛無視を増やそうとしているなら、それは感染拡大の意図です。

政府や自治体に感染拡大の責任を転嫁し、実際に感染拡大するような呼び掛けを行い、実際に感染拡大した時に批判をする。
マスメディアが誤解を与えるような誘導を行い、その誘導通りの発言をコメンテーターやインタビュー相手に言わせる。
これはここしばらくのマスメディアによる典型的な行動です。
実際にはマスメディアにより感染が拡大しているのですが、行政に批判が向かうという構造が成立しています。

〈「オリンピック批判」による自粛無視の呼び掛け〉

「政府がオリンピックを強行しようとしている。飲食店は被害者だ。だから自粛を無視しよう。」
これもまた最近のマスメディアによるキャンペーンの一つです。

「オリンピックありきの緊急事態宣言、オリンピックありきの酒提供禁止ですから。まぁ政府は赤字でもメンツを守るためオリンピックやりたいんでしょうね。あり得ないそれしか。」
・YouTube (TBS NEWS)  2021年7月13日『酒販売業者も飲食店も怒り、4度目の緊急事態宣言に入った東京[新型コロナ]【news23】』

実際には文部科学省のスーパーコンピューターを使った飛沫シミュレーションで、観客ありの実際より不利な条件ですら新規感染者数はほぼ0だと示されています。
また東京大学医科学研究所の井元清哉ヒトゲノム解析センター長でも同様の対策した場合の極めて低い感染者数が予測されています。
オリンピックで感染が拡大するとすれば人流が増加した場合で、その場合も飲食店による影響が含まれています。

オリンピックのために飲食店を規制しているという主張は意味不明です。

・文部科学省 2021年7月7日『スーパーコンピュータ「富岳」を用いた 国立競技場における飛沫シミュレーションについて』
・朝日新聞デジタル 2021年6月15日『満員の五輪開会式「対策すれば感染リスク99%減」だが』 (対策時、感染者1人あたり0.009~0.012人の新規感染者)
・NHK 2021年5月24日『東京五輪開催で感染者数どう変化? 東大グループ試算』

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