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ジャパンC 有力馬血統考察

イクイノックス

 ヘイロー4×4、リファール5×4、サーアイヴァー6×5。これらをひっくるめて、広い見方をすると「ブラックタイド≒キングヘイロー」2×2と言っていいでしょう。キングヘイローのスピードを増幅することで、スタミナ寄りの父・キタサンブラックに足りないものを補給しています。フワッとしたスピード感、どこまでも伸びていきそうな持続力は、いかにもリファール的。キタサンブラックの武器でもあった資質であり、血統の美点がよく表現されています。
 東京で上がり3ハロン・32秒台のすごい脚を見せており、決め手性能は非常に高いです。ただし瞬発型という印象はありません。総合的な決め手という意味では屈指の存在ですが、本質的には長く良い脚を使うタイプではないかと見ています。ドバイSCでは逃げて突き放す次元の違う内容。宝塚記念では後方16番手から大外をぶん回してねじ伏せる圧巻の走り。肉体の成熟に伴い、隙のない名馬に完成した感じがします。・・・ということを天皇賞・秋のレース前に書いたのですが、隙のない名馬とかいうレベルですらなく、もはやバケモノでしたね。
 その前走ですが、正直、本質的に2000mはやや短いのではないかと思っていました。おそらく昨年のように、道中の追走力にエネルギーを使いすぎないよう、後方寄りの競馬になるだろう。そんなふうに想像していました。最後方にいたジャスティンパレスとプログノーシスが2、3着だったわけですから、結果的に見ても、その戦法が本来の最適解だったはずです。ですが本馬は3番手で付いていく競馬を選択。ハイペースで先行馬が崩れるなか、まったく失速せず世界レコードで圧勝。意味がわかりません。


リバティアイランド

 新馬戦で繰り出した上がり3ハロンの脚は31秒4。これは千直競馬を除く最速の記録。全競馬場、古馬含めた歴代で最速です。スローペースだったとはいえ、2歳の牝馬が出したのには本当に驚きました。血統表をみて違和感を覚えたのは、筋肉質のパワー血脈が多すぎるという点です。無骨な牡馬に生まれていたほうが血の特徴が活かせたのでは? と思わせる構成。ちょっと“お嬢さん”っぽくない配合なのです。
 実は過去にもおなじ印象を抱いた馬がいました。海外から日本に挑戦し、エリザベス女王杯を連覇したスノーフェアリーです。2010年の走り見て、いやいやパワー血統たっぷりの馬がなんでこんな豪脚を繰り出すんだよと、衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。スノーフェアリーは祖父に『レッドランサム』の血をもち、これをパワーの源泉としていました。リバティアイランドの血統表をみると、母父の父にそのレッドランサムの名が。これは偶然でしょうか。パワーを無理やり決め手に昇華させてしまったような、暴力的なフットワーク。リバティアイランドの走りをみると、かつての名牝に姿を重ねてしまいます。
 桜花賞は内の先行馬が圧倒的に有利な流れを、後方から大外ぶん回しでぶち抜き。オークスは中だるみのない締まった流れを中団前目で付いていきながら、ラスト1Fで11秒5の豪脚を繰り出し圧勝。規格外もいいところですよね。秋華賞では4角先頭という、シンプルでありながら王者にしかできない競馬で完勝。これぞ歴史的名牝と言える素晴らしいレースでした。


ドウデュース

 3代母のダーリングデイムは、名馬・ダンシングブレーヴと4分の3同血のイトコです。実はハーツクライとダンシングブレーヴは好相性の関係。おそらくドウデュースにおいても、そのニックスと同様の効果が機能していると考えられます。この馬の得体の知れない奥深さは、牝系に流れる欧州の底力が関係しているのかもしれません。
 血統全体でみると、母方のシアトルスルーとゴーンウェストを中心に、アメリカ血統をたっぷりと補給。スピード色が良く表現された馬です。ハーツクライ産駒らしい緩さがなく、とくに胸前の発達と、掻き込みの力強さが目を引きます。母の父・ヴィンディケーションは現役時代にBCジュベナイルを勝ち、4戦4勝で米最優秀2歳牡馬になった馬。本馬が2歳でGⅠを勝てたのは、この早熟性のおかげでしょう。
 成長曲線を前倒しにしているぶん、ダービー以降の成長力がどうなのか。懸念材料はそこだと考えていました。こういうタイプのハーツクライ産駒は、古馬になってスランプに陥る馬が少なくないからです。4歳初戦の京都記念は、すごいパフォーマンスで圧勝。僕の余計な勘ぐりだったのだろうと思ったのですが・・・。前走の負けでまた判断が難しくなってしまいました。本馬は馬込みで我慢させる競馬の経験がありません。前走で初めてそのかたちになったことで、戸惑いがあったのでしょうか。いつも以上に力みが強く、平常心を欠いていたように思います。


スターズオンアース

 シャーリーハイツとシャーペンアップの血を補給したドゥラメンテ産駒。これはタイトルホルダーとおなじで、魅力的な配合パターンです。強いクロスがミスタープロスペクター4×3くらいしかなく、かなりシンプルな構成。ドゥラメンテ産駒らしい重厚斬れの使い手ですが、血の刺激が少ないぶん、牝系の優秀さもしっかりと出た感じでしょう。おばのソウルスターリングとおなじく、マイルと2400mのGⅠを制覇。距離適性の幅が広く、極端な走法でもないため、目立った欠点はありません。ぶつけられても挟まれても、けっして気持ちを切らさない精神力も立派です。
 前走のヴィクトリアマイルでは、速い流れに付いていったことで脚を溜めきれず、切れ味が少し鈍ってしまいました。桜花賞を勝っているとはいえ、本質的には中距離馬。できる範囲の競馬はしたと思います。東京2400mなら追走に無理をする必要がなく、じっくりと直線に備えることができます。条件はベストでしょう。予定していた天皇賞・秋は回避となりましたが、状態さえ問題なければいつもの決め手を見せてくれるはずです。ただマイルを先行したことで、前進気勢は増しているかもしれません。テン乗りのビュイック騎手が上手く折り合わせることができるか、そこがポイントになりそうです。


タイトルホルダー

 ミスタープロスペクター4×5、「ヌレイエフ≒サドラーズウェルズ」5×4、ミルリーフ4×6、「セックスアピール≒アンコミッティド」6×5などのクロスを内包。大きくまとめて「キングカメハメハ≒メーヴェ」2×1という壮大な配合になっています。母のメーヴェは現役時代に丹頂S(芝2600m)を勝ったスタミナ馬。母としてもこの資質を伝えており、初仔のメロディーレーンは2400m以上で4勝。古都S(3000m)を勝利するなどステイヤーとして活躍しています。2番仔のタイトルホルダーは、母の心肺機能を「キンカメ≒メーヴェ」で強力に引き出しているのです。これこそが最大の長所でしょう。
 卓越したスタミナはもちろんですが、スピードのない馬をふるい落とす競馬ができるように、基礎スピードもかなりのレベルです。自分で得意な展開を作り出せるうえ、逃げないと脆いタイプでもありません。後続にとっては相当な脅威ですね。
 競走中止のアクシデントに見舞われた天皇賞・春から久しぶりの復帰となった前走のオールカマー。まだまだ手探りの状態だったように思います。2着に負けはしたものの、最後までよく踏ん張りました。本馬の参戦によって、今年のジャパンCは競走馬としての総合力が問われるレースになるのではないでしょうか。誤魔化しのきかないガチンコ勝負が期待できそうです。


そのほかの重賞レースはInstagramで考察しています


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