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有馬記念 有力馬血統考察

スターズオンアース

 シャーリーハイツとシャーペンアップの血を補給したドゥラメンテ産駒。これはタイトルホルダーとおなじで、魅力的な配合パターンです。強いクロスがミスタープロスペクター4×3くらいしかなく、かなりシンプルな構成。ドゥラメンテ産駒らしい重厚斬れの使い手ですが、血の刺激が少ないぶん、牝系の優秀さもしっかりと出た感じでしょう。おばのソウルスターリングとおなじく、マイルと2400mのGⅠを制覇。距離適性の幅が広く、極端な走法でもないため、目立った欠点はありません。ぶつけられても挟まれても、けっして気持ちを切らさない精神力も立派です。
 前走のジャパンCは良い意味で前進気勢があり、スムーズに4番手で先行。春にマイルのスピード勝負を使ったことを、うまくプラスにいかすことができました。ダービー馬のドウデュースを退け、イクイノックス、リバティアイランドにつぐ3着は立派でしょう。天皇賞・秋を回避した経緯がありましたが状態面も問題なかったです。
 今回は中山2500mに替わることがポイントになりますね。ベストな条件という意味では、東京2400mのほうが上かなという印象はあります。とはいえ対応力が高いオールラウンダー型なので、それほどパフォーマンスを落とさず頑張れるのではないでしょうか。


タスティエーラ

 「ナスルーラ×プリンスキロ」血脈や「ロイヤルチャージャー×プリンスキロ」血脈のような、柔軟性を伝える血が豊富。父方には5本(ミルリーフ、サーゲイロード×2、ローズバウワー、ナタシュカ)、母方にも3本(ローソサエティ、ミッテラン、セクレタリアト)あります。面白いのは、父方は欧州血統の柔軟性が中心であるのに対し、母方は北米・ボールドルーラー系の柔軟性であること。全体の色合いは柔軟性で統一されていながら、使っている血は微妙に違うのです。このおかげで血の煮詰まりがありません。
 また父・サトノクラウンと祖母・フォルテピアノは、ノーザンダンサー系の血を濃く内包。その一方で母の父・マンハッタンカフェの部分だけは、ノーザンダンサーが1滴もありません。詰め込むところと抜くところのメリハリがきいており、マンカフェをとても上手く使った配合だとも思います。
 脚さばきが少し淡白で、スピードはワンペース。どちらかと言えば母方の米血気質が濃くでています。淀みない流れを好む印象です。3ハロンの切れ味勝負ではなく、早めにエンジンを掛けていき、4ハロンのスピードの持続戦に持ち込むかたちが理想です。菊花賞で激走した消耗が心配ですが、前哨戦を使っていないため、おそらく大丈夫でしょう。ちなみにダービーからの直行組が菊花賞で連対したのは本馬が初めてです。


ジャスティンパレス

 母のパレスルーマーは、血統内にヌレイエフ、ロベルト、リローンチ、ダマスカス(2本)を内蔵。パワーとスタミナを豊富に含んだ繁殖牝馬です。これまで送り出した産駒は、米GⅠ・ベルモントS(ダ2400m)を勝っているパレスマリス(Palace Malice)、ステイヤーズSの勝ち馬・アイアンバローズ、そしてチャンピオン・ステイヤーとなった本馬。とにかく長めの距離で良さがでる血統です。
 血統表の字面的にはジリっぽいタイプを想像させますが、実際の走りからは重々しさを感じません。脚さばきが柔らかく、父・ディープの資質がしっかりと伝わっている印象です。また母がもつリローンチの血が、ディープインパクトと好相性の関係であることもポイントでしょう。配合的な根拠もしっかりとしています。
 前走の天皇賞・秋は最後方から2番目の位置でゆったりと追走。中距離のスピードに対応しようとはせず、直線でステイヤーの切れ味をいかす競馬をしています。レースは先行馬が総崩れするハイペースになっており、結果的に作戦がばっちりはまったかたちです。勝ったイクイノックスはバケモノですから、あれは仕方がないですね。今回の距離延長は間違いなくプラスでしょう。ただ体質的に屈強なタイプではありません。直線に急坂があり、馬場もタフめな中山がベストかと言われると、ちょっと微妙な感じはします。


ソールオリエンス

 母のスキアは血統構成が重厚な繁殖牝馬です。その父・モティヴェイター、さらに母の父のクエストフォーフェイムがどちらも英ダービーの勝ち馬。さらに2代母の父にもデインヒルを据えており、欧州のパワーとスタミナがたっぷりと詰め込まれています。そんな母に、長距離GⅠ3勝を挙げたキタサンブラックを組み合わせて誕生したのが本馬。一見するとかなり鈍重なタイプに思えます。しかし実馬はまったくそのようなところがありません。また本馬のきょうだいを見ても、富士Sを勝ったヴァンドギャルドを筆頭に、むしろマイル以下での好走が目立っているくらいです。
 これはおそらく『テューダーミンストレル』の血のおかげでしょう。テューダーミンストレルは英国最強マイラーと謳われたスピード血統。スキアはこの血を5本ももっているのです。血統表の位置で言うと、スキアからみて7代目とかなり薄いところにあります。しかし5本もあれば、主軸になるだけの影響は及ぼすはず。このおかげで血統全体のパワーを「推進力を得るのための筋力」として、スピード要素に昇華できているようです。母方のパワーで加速させたあと、父・キタサンブラックの持続力で長く維持させる脚質。両親の美点がうまく融合しています。
 前走の菊花賞は、1番人気の支持に応えることができず3着。2着のタスティエーラとは、道中の微妙な距離ロスが差として表れた結果でしょうか。レース内容は悪くなかったとは思います。皐月賞の勝ち馬ですが、コーナリングが上手なほうではないため、中山の小回りがプラスになる感じはしません。


ドウデュース

 母方のシアトルスルーとゴーンウェストを中心に、アメリカ血統をたっぷりと補給。スピード色が良く表現された馬です。ハーツクライ産駒らしい緩さがなく、とくに胸前の発達と、掻き込みの力強さが目を引きます。母の父・ヴィンディケーションは現役時代にBCジュベナイルを勝ち、4戦4勝で米最優秀2歳牡馬になった馬。本馬が2歳でGⅠを勝てたのは、この早熟性のおかげでしょう。成長曲線を前倒しにしているぶん、若いころは完成度で圧倒することができました。しかしこれが通用するのは、あくまでも同世代の未発達な馬に対してのみ。成熟した古馬相手には武器になりません。いまはひとつの大きな強みを失った状態です。
 前述のとおり本馬は米血が中心ですが、3代母のダーリングデイムは、名馬・ダンシングブレーヴと4分の3同血のイトコ。重要な部分にはしっかりとヨーロッパの血が流れています。朝日杯FSの走りをみたとき、得体の知れない奥深さを感じました。早熟性がそう錯覚させたのではなく、欧血の底力が垣間見えたのだろうと思っています。ハーツクライ産駒ですから、早熟であっても早枯れということはないでしょう。どこかでもう一度、上昇するタイミングが訪れる可能性もじゅぶん考えられます。今が一番苦しい時期だと思いますが、武豊騎手とともに乗り越えてほしいです。


そのほかの重賞レースはInstagramで考察しています


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