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あの日の出来事(君の物語 番外編)

2011年3月11日。
この地域はそれなりに揺れたけど、大きな被害はなかった。

揺れた直後のこと。

夫はいつも通り仕事。
長女は学校でしっかりと対応してくれているだろうと不安はなかった。万が一何かあったら連絡が来るはずだ。

心配したのは次女だ。
1人で自転車に乗って遊びに行っていたから。
行き先はいくつか思い当たるが、自転車なので行動範囲も広くなる。探しに行くべきか否か。すれ違いになる可能性も少なくない。
もし自転車に乗ってる最中に揺れたのだとしたら、転んでケガをしてる可能性もある。最悪、転んだ拍子に車に轢かれることだって無いとは言い切れない。
どうしたものか。
探すとしても、どこから探すべきか‥‥

ぐるぐると考えながら、娘たちが使っている部屋へ向かった。
猫を探すために。
ビビり屋の彼はいつもの所に逃げ込んでいるだろうと予想して。ケガはしていないと思うが無事を確認したい。
いつもの所ー次女のベッド下を覗き込んだ。

うん、いた。

ずっと奥の隅っこに。
不安そうに縮こまっている。
声を掛けると
ニァ〜

返事があってホッとする。
ケガもないようだ。

「出ておいで」
ニァ〜
厳しい目で鳴き返す。
それには応じられないと。
そうか、そうか。
無事ならいいよ。

とやり取りしてるところへ
『ただいま〜』
と元気な次女の声。

帰ってきた!

階段を駆け降りて玄関へ急いだ。
「地震、大丈夫だった?」
見たところ変わらず元気そうだ。
というか、むしろ楽しそうだ。

『それがね、』
靴を脱ぎ、洗面所へ移動しながら次女が言う。
『FP公園に円盤みたいな遊具があるんだけど知ってるかな?グルグル回るやつ。』
「うん。」
近くの児童公園だ。
円盤型で回るだけじゃなく上下にもグラグラ揺れるという、難易度の高い遊具である。

『あの遊具に乗ってる時に揺れたんだ。』
「ええっ!それは危なかっ‥」
『揺れがパワーアップして、すっごく面白かった!!』

満面の笑み。

パワーアップって‥‥

こいつ‥‥


まあ、
本当に楽しかったんだろう。
満足しきった顔をしてる。

『ルゥは?』と次女が問う。
「ベッドの下に入って出てこない。」
『ふ〜ん』


自室へ戻った次女はベッドの下に頭を突っ込むと、手を伸ばしてすいっと猫を引き出した。
『ただいま〜』
ニァ〜!!

しがみつく猫を抱いて立ち上がると、そろってこちらを向いた。
〈まだ何か用かな?〉
と言われたような気がして部屋を後にした。

いつもながら、猫にも我が子にも空振っている。


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