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蚊帳の効能  本編

※怖い体験談になります。苦手な方、不快な方は気にせずすっ飛ばしてください👍



本編

高校2年生の初夏。
父方の祖母イチコが亡くなりました。自分にも他者にも厳しい人でした。

あの音はなんだったのかー。

危篤の知らせを受けて、叔母たちに混じり病院のベッドを囲んで座っていました。


自分の足元に視線を落としていたので見ていなかったのですが、大きな音が病室に響き渡りました。
何かを

ヒュゥゥッ!

と吸い込むような音。
にしてはあまりに大きな音で、異様でした。
はっとして周囲を見たけれど誰一人として音に反応した人はいませんでした。あれだけ大きな音だから聞こえなかったわけがないのに。

それからすぐでした。叔母の一人が、イチコおばあちゃんが息をしていないことに気づいたのは。
そこからはもう、嵐の中。




亡くなってから何日くらい経った時か‥‥
未明にふと、目が覚めました。
非常事態だということは瞬時に理解しました。なぜなら部屋の空気が違ったから。空気とは思えないほどの質量感があり、密度が濃くなっていました。まるで水槽の中に入っているように。

逃げたいけど逃げられない。
金縛りに遭っていただけでなく、戸口が塞がれていたから。そこに立っていたのはイチコおばあちゃん。よく怪談話に出てくる白装束ではなく、いつも着ていた深緑色の着物姿でした。

ーイチコおばあちゃんだー

と認識した瞬間、おばあちゃんの顔がグン!と私の目の前まで移動しました。飛んできたのか、伸びたのかはわかりません。一瞬のうちに視界は祖母の顔でいっぱいになり、他には何も見えなくなりました。
ベッドに張り付いた状態の私には逃げ場がありません。

イチコおばあちゃんが私の名前を呼びます。
『ベニコ、ベニコ…』

『ベニコ、おいで』

掠れていた声はだんだんはっきりしたものに変化していきます。

『ベニコ、おいで。 
       おいで〜』


どこからか湧き上がってくるような声は、次第に力強くなっていきました。

恐怖でパニックの私はどうすることもできません。

引っ張られる!!

そう感じた瞬間、
誰かの腕が、私の背後から伸びて
お腹の辺りを抱きとめました。
(背後はベッドですが?)


イチコおばあちゃんの声と引っ張る力はどんどん強くなります。

  『ベニコ、おいで〜』


一方、私をグッと引き留める白い手。
両者の攻防に挟まれてパニックの私。

その状態がどのくらい続いたのでしょう。
やがて、ふっとイチコおばあちゃんが消えました。
唐突に、存在が消えました。
同時に空気がスッと軽くなり、カーテン越しに朝日が差し込んで部屋が明るくなりました。

いつのまにか朝になっていたようです。

そして私を捕まえていた白い腕も、すっと消えました。

   守ってくれたんだ。


誰だったのかわかりませんが、白くて華奢な女性の腕でした。
ヨウおばあちゃんだったのかもしれないと思っています。


あの時もしイチコおばあちゃんに連れて行かれてたら、私はここにいなかったかもしれません。


もし蚊帳をつって寝ていたら、こんな怖い目には遭わずにすんだんじゃないだろうか、とも思うのです。
ヨウおばあちゃんの忠告を覚えておくんだったと後悔するとともに、助けてくれくれたことに感謝でいっぱいの朝でした。

          おわり



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