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懐かしい日本の町並み、郡上八幡から白川郷、高山へ

ゆうゆう2023年9月号掲載

 実は、岐阜市に生まれ育ちながら、徹夜踊りで名高い郡上八幡へは一度も行ったことがなかった。
 昨年初秋、名古屋で所用を済ませた後、車で郡上市へ向かった。あいにくの土砂降りの中、東海北陸自動車道で1時間あまり。こんなに近いのかと驚くほど呆気なく着いた。
 まず向かったのは、郡上八幡城。雨も小止みになった。天守閣からは盆地に広がる町並みを一望できた。直前に読んだ雑誌「ノジュール」にかつての城主の子孫が紹介されていたが、切符売り場にご本人がいて、雑誌見ましたよと、思わず声をかけてしまった。まだ若いご当主は悠然と微笑んでいた。
 今夜の宿、備前屋はこぢんまりした和風邸宅。かつての藩校跡。そのお庭に立つ離れが客室。静かで落ち着いた部屋だ。
 雨がやんだのを見て、散歩に出かけた。吉田川にかかる新橋は、夏は子供らが度胸試しに川に飛び込む場所で、ニュース映像などでお馴染み。が、水量が増し、濁流が渦巻く様子は、ただ恐ろしい。橋を渡れば、郡上八幡旧庁舎。その前の広場は郡上踊りのメイン会場。ひっそり静まりかえっている。
 町の中は軒の低い連子格子の家屋が続く。懐かしい景色。豊富な湧水の水路が縦横に走る。店内に福助が飾られた菓子屋で、とちの実煎餅を買った。
 夕食は母屋の2階でいただく。丁寧に作られた料理が順に運ばれた。久しぶりにコケの香りが立つアユ塩焼きを食べさせてもらった。飛騨牛のすきやきも文句なしに美味しい。
 翌日は、合掌造りの集落、白川郷へ。大きな駐車場に車を置いて、展望台まで歩いた。雨が降っていなくて助かった。登り切ると、パンフレットや旅行ガイドの写真で見かける茅葺き合掌集落の構図そのままの眺望を楽しめる。
 下ると、コスモスも目に付くが、ヒマワリもまだ咲いていた。田んぼは刈り取りを待つ黄金色の稲穂。集落内の建物は大半が茅葺き合掌造りで、そうでない家の方が少ないとは驚いた。
 お昼は蕎麦屋で美味しい手打ちそばをいただいた。もちろん茅葺き。食後のコーヒーも合掌造りの囲炉裏端で。再訪の機会があれば、合掌造りの民宿で泊まるのもいいなと思った。
 次に目指すは飛騨高山。その前に円空仏を見ようと千光寺へ寄った。しかし、展示館は土日のみ開館、平日は事前予約が必要とは知らなかった。高山駅前のホテルにチェックインし、町へ。
 高山は何度も来たが、近年は海外からのお客さんで大賑わいらしい。コロナ禍のため激減し、さすがに昨年はほとんど見かけなかった。
 高山陣屋は江戸時代の天領飛騨高山の代官が仕切っていたお役所。役所であると同時に官舎なども一体化しているのでとにかく広くて大きい。玄関を入った正面壁には格式を表す青海波の紋様、時代劇でお馴染みのお白州、大広間などが続き、年貢米を収蔵していた蔵には様々な史料が展示してある。
 古い家並みが残る三町筋には酒蔵や土産物店、宿などが軒を連ねている。歩き疲れて、図書館で一服。高山市図書館は煥章館(かんしょうかん)の中心施設。煥章館とはこの地に建てられた飛騨地方初の学校の名で、フランス風の建築も往時を模している。一部は近代文学館となっていて郷土ゆかりの作家たちの資料も展示されていた。
 夜は、人気居酒屋で夕食。郷土料理や地元で採れた野菜などの献立が並んでいる。「石原さんの枝豆」は大粒で香りも良く旨かったので、これは美味しいと言うと、明日の朝市に生産者が出店していると教えてもらった。
 翌朝、橋のたもとに出店していた石原さんの店を訪れ、今年はこれが最後の収穫という枝豆を買って帰ることができた。

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